
滋賀県を拠点に土木・建築工事を手がけ、全国へ事業を展開する株式会社三東工業社。6代目として組織を牽引するのが代表取締役社長の杉本修啓氏だ。長年の現場経験と予算管理の最前線で培った経営感覚を武器に、インフラDX推進をはじめ、次々と新しい風を吹き込んでいる。現在、環境問題の解決に直結するゴミ処理技術「トンネルコンポスト方式」の普及にも力を注ぐ。あえて社是を持たない同社の強みと、杉本氏が掲げる利益還元のビジョンに迫った。
現場を知り尽くした6代目 現場監督からトップへの軌跡
ーーまずは、社長のご経歴と入社の経緯からお聞かせいただけますか。
杉本修啓:
父が三東工業社で働いていたこともあり、若い頃から父の現場に同行しては仕事を手伝っていた時期がありました。その背中を見て育ったことが、この業界に関心を持った原点です。大学は経済学部で全くの畑違いだったものの、ものづくりへの興味が湧き、入社を決意しました。
弊社は社員の約7割が現場に従事する技術者集団であり、私も長らく現場監督として最前線に身を置いてきました。一つの現場を「一つの会社」と捉え、与えられた予算内で利益を残す方法を模索する経験が、若い頃からの経営感覚を養うことにつながりました。
ーーそこから、どのように社長就任へと至ったのでしょうか。
杉本修啓:
レールが敷かれていたわけではなく、一般社員としてキャリアを積んでいました。転機となったのは3年前、前社長から「将来をお前に託す」と突然告げられたことです。非常に驚きましたが、期待に応えたいという思いで引き受けました。
ただ現場ばかりで会社全体の動きが見えていなかったため、まずは管理本部長として1年間、財務の流れを俯瞰し、経営の仕組みを理解することに努めました。その経験があったからこそ、現場視点から経営視点へと着実にシフトすることができたのです。
ーー会社を経営する上で、大切にしている考え方を教えてください。
杉本修啓:
実は、弊社には「社是」や「社訓」がありません。これは創業者の意志を受け継いだものです。明確な理念を言葉にしてしまうと、固定観念に縛られ周りが見えなくなってしまう恐れがあります。人口減少や価値観の多様化など、時代が大きく変化するなか、その時々の流れに合わせて会社をアップデートし柔軟に対応できるよう、あえて設けていないのです。残すべきものは残しつつ、今の時代に合った取り組みをフラットな思考で推進するよう心がけています。
滋賀を基盤に全国へ 国も認める「建設DX」と環境に配慮した特殊工法

ーー事業の強みや注力されている取り組みについてお聞かせいただけますか。
杉本修啓:
ドローン測量から3DCADでのデータ処理まで完全内製化し、ワンストップで完結できる体制を構築しているのが強みです。この業界トップクラスの先進性が評価され、国土交通省が表彰・認定する「インフラDX大賞」において、2025年に特別優秀賞を受賞しました。
また、技術力の高さはDX分野にとどまりません。地下技術部のTRD工法は全国に展開し、活躍しております。ご存知の方も多いと思いますが、東京駅日本橋口前で建設中の「Torch Tower(トーチタワー)」は、完成時には地上62階・地下4階・高さ約385mの日本一の超高層ビルとなる予定です。弊社はその地下の地盤改良工事を施工いたしました。さらに建築部門では、環境に配慮した「CLT(直交集成板)」を滋賀県で先駆けて活用しており、木材を使う環境保全に優れた建築物を展開しています。
ーー組織づくりにおいて、特徴的な点はありますでしょうか。
杉本修啓:
前社長の提案により、弊社では2017年から、ベトナムやミャンマーなどから施工管理の技術者として高度人材の採用を始めました。滋賀県とベトナムの友好提携を縁とした行政連携も深まって現在は7名が在籍しており、現場やDXの推進で大いに活躍してくれています。
また、一度入社すると長く働き続ける「離職率の低さ」も弊社の特徴です。現在は、さらなる業務効率化を目指し、管理部門へのAIやRPA導入による定型業務の自動化も推進しています。
究極の循環型社会へ 建設業が挑む「トンネルコンポスト方式」
ーー直近ではどのような事業に注力されていますか。
杉本修啓:
現在、特に注力しているのが「トンネルコンポスト方式」という画期的な可燃ごみの再生技術です。一般的な焼却方法ではなく、生ごみやプラスチック、紙・繊維などの可燃ごみをコンクリート製のトンネル(バイオトンネルⓇ)に入れ、空気・水分・温度をコントロールすることで微生物が活発に働き、約17日間で好気性発酵乾燥が進みます。さらに発酵中の熱により、ごみは乾燥・衛生化された後、安定化されます。その処理過程で発生する悪臭も、微生物の働きを利用した脱臭装置(バイオダッシュⓇ)を利用することで処理され、最終的にはプラスチックや紙・繊維などの人工物が残り、リサイクルされます。今まで日本では焼却一択で処理された可燃ごみが、リサイクル資源として生まれ変わるのです。
この技術を広めるため、数年前に子会社である株式会社アンビエンタを設立いたしました。現在はまだ道半ばですが、今後3年以内には自治体での採用が始まると確信しています。建設業の枠を越え、CO2削減とリサイクルを推進し、廃棄物を資源に循環させる究極の循環型社会を実現していく。それが私の描く壮大な環境事業のビジョンです。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
杉本修啓:
事業としては、安定的に100億円超の売上高を維持し、関西圏から全国へと販路を拡大する成長戦略を描いています。ただ、常に掲げる目標は「利益は株主の皆様と社員への安定的な配分を目指し、皆で分かち合う」ということです。会社が継続できる基盤をしっかり固めた上で、株主様への還元はもちろん、頑張っている社員にも高い給与で報いたいと考えています。
今後の10年から15年の間で、その理想の体制を完成させ、次の世代へ引き継ぐことが私の最大の使命です。
編集後記
若き日から現場の空気を吸い、叩き上げでトップに上り詰めた杉本氏。その経歴から滲み出るのは、現場のリアルを知る者こその圧倒的な合理性と、時代に寄り添う柔軟さだ。建設業界の古い常識に縛られることなく、DXや外国人材の登用を軽やかに進めている。一方で「トンネルコンポスト方式」による壮大な社会課題の解決にも挑んでいる。「徹底した利益還元」という力強い言葉には、会社を支える株主と、共に働く仲間への深い感謝が込められている。その一方で地域社会への圧倒的な責任感が感じ取れた。三東工業社が描く「還元」と「循環」のサイクルが、建設業の新たなスタンダードとなる日は近い。

杉本修啓/1973年滋賀県生まれ。1996年大学卒業後、株式会社三東工業社に入社し、土木事業本部で現場施工管理に長く関わる。2022年に同社執行役員土木事業本部副本部長、2023年取締役執行役員管理本部長を歴任し、2025年に代表取締役社長に就任。現在、これまでの土木事業における現場経験に加え、間接部門で培った知見と経験を活かし、創業100周年を見据えた事業推進に邁進している。