
自動車ディーラーでありながら全メーカーを取り扱い、地域顧客のあらゆる「困りごと」にNOと言わないスタイルで、平均を大きく上回る顧客支持を集める株式会社平田自工。2018年に代表取締役社長に就任した石田清司氏は、これまで「幸せの好循環」を経営の軸に据えてきた。効率化が叫ばれる現代において、あえて対面などの非効率なアプローチを大切にする真意とは何か。社員を「働く仲間」と呼ぶ石田氏に、これまでの歩みと展望を聞いた。
恩人の誘いでBtoC取引の世界へ「関わる人すべてに喜んでほしい」
ーー貴社に入社されるまでの経緯をお聞かせください。
石田清司:
先代社長に対する深い恩義が、入社の決定的な理由です。大学卒業後は地元にある自動車部品の製造会社に入社し、営業や購買を担当していました。しかし、当時は労働環境が過酷で、心身ともに疲弊していました。そんなとき、担当窓口であり顧客でもあった先代社長から「うちへ来い」という言葉をかけられたのです。終身雇用の考え方が根強い時代背景もあり、半年ほど葛藤しましたが、人生の転換期を与えてくれた恩義に報いたいという思いが勝り、転職を決意したのです。
ーー異業種への転職に際して、どのようなギャップを感じましたか。
石田清司:
むしろ、自分の根本的な思いと合致していると感じました。前職のような企業間取引では、多くの部署との調整が求められ、個人の裁量で動けない難しさがあります。一方、現在のBtoC事業では、顧客のために考えた行動がダイレクトに結果へ結びつきます。自己完結できる業務も多く、直接感謝の言葉をいただける環境に大きなやりがいを感じました。幼少期に母から教わった「人を喜ばせる」という価値観が根本にあり、関わる人すべてに幸せになってほしいという私の願いを体現するのに、現在の業務が最適だったのです。
「断らない」姿勢と非効率が生む確固たる顧客の支持

ーー貴社の事業内容と、他社にはない強みを教えてください。
石田清司:
最大の強みは、「どのような依頼でも断らない」という姿勢です。自社で看板を掲げる自動車メーカーの枠にとどまらず、全メーカーの車両を取り扱っています。車は顧客とつながるための手段に過ぎないからです。弊社を頼ってくださる方に、メーカーの違いを理由に断ることはしません。さらに車の枠組みを超え、お客様がお困りであれば、たとえば農機具などの修理依頼であっても引き受けることがあります。地域のよろず屋のような存在であること、これが私たちが確立した強みです。
ーー効率化が求められる時代に、あえて手間のかかるアプローチを続ける理由は何ですか。
石田清司:
効率のみを追求すると、顧客との大切なつながりを見落としてしまうからです。社内のデジタル化は進めていますが、対面での訪問営業も同様に重んじています。一見すると非効率な手法ですが、顧客の元へ足を運んで直接対話を重ねることで、強固な信頼関係が構築されるのです。結果として、弊社の車検入庫率は業界平均を大きく上回る約75%超えを維持しています。顧客の心に寄り添う地道な対話を、働く仲間たちが実践してくれた証拠といえます。
「幸せの好循環」を生み出す全員経営の組織づくり
ーー組織づくりにおいて注力された点について教えてください。
石田清司:
社長就任後、私がいの一番に注力したのは、「幸せの好循環」を生み出す環境づくりです。
まず徹底したのが、現場で起こる些細な事象の把握。問題が大きくなる前に、いち早く軌道修正を図るためです。そして、私はあえて「従業員」という言葉は使わず、「働く仲間」と呼んでいます。上に立って指示を出すのではなく、横に並んで汗をかき、何でも言い合える風通しの良い組織でありたい。そんな思いから、全店舗を自ら回り、一人ひとりの声に耳を傾け、心の状態に気を配り続けています。
働く仲間が正当に評価され、生き生きと業務に向き合えれば、それは必ずお客様への素晴らしい接客となって表れます。その結果として顧客満足度が上がり、業績も上向いていくと考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
石田清司:
全ての仲間が当事者意識を持ち、全員経営を実践できる組織をつくることです。そのために既存の顧客に対するきめ細やかな対応を強化するとともに、働く仲間の教育体制にも注力。業務スキルにとどまらず、「感謝・謙虚・素直」という人間性を磨くために外部研修も活用します。
また、採用面でも新たなアプローチを取り入れるようにしています。定着が難しい若手層の採用のみにこだわるつもりはありません。社会経験が豊富で覚悟を持つ人材の採用と育成にも力を注ぎ、より強固な組織基盤を構築する方針です。
編集後記
「関わる人すべてに喜んでほしい」。石田氏の言葉は単なる理想論ではない。地域に根差したよろず屋としての姿勢や、高い車検入庫率という確固たる実績がそれを証明している。トップダウンで指示を下すのではなく、現場に寄り添い「当事者意識」を持った組織を育む同社。「従業員」ではなく「働く仲間」と呼び、「感謝・謙虚・素直」を重んじるその経営方針は、時代が変わっても色褪せない人間関係の真髄を教えてくれる。同社が今後どのような進化を遂げるのか注目していきたい。

石田清司/1971年生まれ。地元滋賀県出身。東海大学卒業。自動車部品製造会社で購買管理や営業を経験し、29歳で株式会社平田自工に転職。営業、店長、専務を経て2018年に代表取締役社長に就任。