
車の販売から車検整備、板金、保険、ロードサービスまで、車に関するすべてのサービスを自社で一括対応する、株式会社オートサルーン羽山。同社は今、長年築き上げてきた地域密着型のスタイルを軸に、次なるフェーズへと進化を遂げている。関東での広告営業や中古車の実務修業を経て同社へ入社し、売上高を第一に重視する経営手法からの脱却を図った結果、お客様に認められ、顧客数、売上高、営業利益共に毎年過去最高を更新している代表取締役の坂口周平氏。業界の常識にとらわれず、「社員第一」を掲げて自律的な組織づくりを進める坂口氏に、独自の経営戦略と未来への展望を聞いた。
都会での原体験と“田舎商売”への確信
ーーまずは、これまでのご経歴を教えていただけますか。
坂口周平:
弊社に入る前は、関東に出て修業を積んでいました。そこでビジネスの基礎と、車業界の内部事情を徹底的に吸収したのです。最初は車業界の広告営業に携わり、効果的な見せ方や様々な販売店の営業手法を広く学びました。その後は、中古車の買取や査定、販売の実務に関わることになり、その時お世話になっていた社長に現場で徹底的に鍛えられましたね。多額の資金を預かって個人宅へ赴き、その場で価格を決めて車を買い取るなど厳しい環境でしたが、非常に良い経験になりました。
ーー関東での修業時代を経て、どのような学びを得ましたか。
坂口周平:
都会と地方では、商売のやり方が完全に違うと気づけたことが最大の収穫です。都会の商売は、車という「物」をめがけてお客様が来店されます。一方で、地方の商売はスタッフという「人」をめがけてお客様が来てくださり、それが長期的な関係へとつながっていくのです。
弊社に入ったとき、私はこの「『人』で繋がる商売」を“田舎商売”と呼び、徹底しようと決めました。それは、車という商品をただ売るのではなく、スタッフという人間を信頼していただくことにより販売につながります。長く付き合っていただける商売のやり方こそが私たちの生きる道だと確信しました。
社長就任時の決意と自社完結による顧客対応
ーー社長に就任された当時の心境についてお聞かせください。
坂口周平:
就任する5年ほど前から実質的に社長としての業務を担っていたため、大きな心境の変化はありませんでした。ただ、代表に就任すると後ろ盾がなくなるため、全責任を負うことになります。現在、約45人の社員がおり、そのご家族を含めると150名ほどの生活を背負っていることになるので、その重みと責任感は強く感じていますし、だからこそ会社をしっかりと守り抜かなければならないと決意を新たにしました。
ーー貴社が展開されている事業の強みについてお聞かせください。
坂口周平:
車の販売をはじめ、車検整備、板金、保険、ロードサービスなど、お客様の車に関わる全ての業務を社内で内製化していることが最大の強みです。一般的な販売店では板金塗装やロードサービス、保険の窓口が別々になっていることが多いですが、弊社では全てを自社で対応できる体制を構築しています。
また、お客様には専任の担当者がつくため、何かあればすぐに連絡が取れる状態を整えており、事故や故障などで立ち往生してしまったピンチの時こそ、この「窓口が一つ」である体制が活きます。迅速に全ての対応を代行できるため、安心感につながり、実際にお客様からは感謝の言葉をいただいています。そうした誠実な対応を積み重ねることで、お客様は絶対に離れません。長くお付き合いを続けるうちに、ご両親だけでなくお子様・孫の世代まで車を買いに来てくださるようになります。「身近な存在の町の車屋さんの少し大きい版」として親密な関係を築けていることが、私たちの誇りです。
「社員の幸せ」が長期的な顧客満足を生み出す

ーーお客様だけでなく「社員第一」の価値観を重んじている理由をお聞かせください。
坂口周平:
「社員を大切にすることが、結果的にお客様を大切にすることにつながる」と考えているからです。「みんなで稼いで、みんなで分配する」というのが私の譲れない価値観です。現在、社内では月次締めの評価制度を導入しています。これは単に成績を評価するのではなく、上司と本人が一緒になって「苦手なこと」を明確にし、毎月一つずつ克服していく細やかな自己成長支援の仕組みです。社員が自分の弱点につまずいて成長することを諦めてしまう事を防ぎ、着実に成長できる環境を整えています。
ーー実際に、利益よりもお客様とのつながりを優先する独自のサービスはありますか。
坂口周平:
昔から続けているメンバーズカードの特典が、まさにその一例といえるでしょう。オイル交換や洗車の無料サービスなどは、正直なところ赤字で、続けるほどに負担が大きくなっていくものです。それでも、車を洗っている間にお客様と直接会話を交わせるなど、顧客接点を維持する上で大切な役割を果たしています。目の前の利益を追ってこうしたサービスを削るのではなく、お客様に得をしていただき、長くつながっていく姿勢を何より優先していきたいと考えています。
「町の電気屋さん」のようになくてはならない存在へ
ーー今後の事業展開についてどのようなビジョンを描いていますか。
坂口周平:
目指しているのは、地域における「でっかい町の電気屋さん」です。「あの会社がないと困る、あると本当に助かる」と皆様から言っていただける、地域に密着した存在になりたいと考えています。そのために今、急務となっているのが若年層への認知向上です。現在のお客様は40歳以上の方が中心ですので、20代や30代の方々にも私たちの存在を知っていただく必要があります。そこで、現在地元で活躍するタレントさんとのコラボレーションやSNSでの発信に力を入れています。
ーー最後に、これから貴社に入社される方へ期待する役割を教えてください。
坂口周平:
弊社は現在、将来的な新店舗展開を見据え、若手人材の採用と次世代の幹部育成に力を入れています。トップダウンで社長の指示を待つのではなく、各部署の長へ権限を移譲し、スタッフ自らが考えて動ける自律的な組織への進化をさらに進めている最中です。自分たちで会社をより良くしていき、自分自身もより良くしたいという意欲のある方とともに、これからのオートサルーン羽山をつくっていきたいですね。
編集後記
目先の利益や効率化を優先する企業が増える中、同社が貫く「人をめがけて来店してもらう」姿勢は、まさに現代において失われつつある温かみそのものだ。取材を通じて最も印象に残ったのは、負担の大きい無料サービスをあえて継続し、社員の「苦手」に毎月寄り添うといった、実直さである。トップダウンから脱却し、スタッフとの対話を重んじて自律的な組織を育んできたその道のりには、揺るぎない覚悟と熱量が満ちていた。地域に深く根を張り、顧客の心を掴んで離さない「あると助かる存在」として、同社がどのような飛躍を遂げるのか、今後の展開が非常に楽しみだ。

坂口周平/1979年、福岡県生まれ。神奈川大学卒業。株式会社JCM(カーセンサー関東広告部)に入社し、車業界の流通について経験を積む。その後、中古車業界の修業を経て、2005年に株式会社オートサルーン羽山へ入社。2019年に代表取締役社長に就任。新車中古車業界の発展活動にも注力している。