
販促ツール(POPディスプレイなど)の企画・設計・製造・販売を手掛ける株式会社マスパック。同社を率いる代表取締役の増田昭雄氏は、商社での勤務を経て家業である同社に入り、停滞していた売上高を約4倍となる11.8億円規模(2026年6月期)へと飛躍させた実績を持つ。現在、3年後の事業承継を見据え、「属人化からの脱却」をテーマに組織改革を推し進めている。自社一貫体制の強みや「利他」の精神、次世代へバトンをつなぐための5つの注力テーマについて、増田氏に話を聞いた。
現場を知り覚悟を決める 売上高飛躍の裏にあった「一喝」
ーーまずは、貴社に入った経緯について教えていただけますか。
増田昭雄:
大学卒業後は上場している紙の専門商社に勤めており、主に貿易業務(デスクワーク)に携わっていました。そんな中、入社して6年ほど経った頃に、父が東京まで訪ねてきて「そろそろ手伝ってくれ」と声をかけられたのです。実は、翌年には私の海外駐在がほぼ決まっており、このタイミングを逃したら5年間は帰国できない状況でした。父からの「今俺が倒れたら一番困るのは誰だ。お前の母親だぞ」という言葉で腹をくくり、家業へ入ることを決意しました。
最初の1年間は、工場の製造現場に配属されました。上場企業でデスクワークをしていた私にとって、中小企業の工場の現場は環境も文化も全く違い、当初は大きな戸惑いがありました。しかし、この1年間で現場の仕組みや機械を熟知できたことは、現在の経営に活きています。
ーー社長就任当時の苦労したエピソードをお聞かせください。
増田昭雄:
社長交代の3年ほど前から、私は東京での新規開拓に注力していました。当時は毎月1週間ほどビジネスホテルに泊まり込み、展示会で集めた名簿を手に、1社ずつ飛び込み営業を繰り返す日々でした。その後、2000年に大ヒット商品に恵まれ業績が大きく上向いたことを一つの区切りとして、父から社長職を引き継ぎました。
しかし、私は引き続き東京開拓に奔走していたため、実質的な社長業を始めたのはそれから5、6年後のことです。本格的に社長業に取り組み始めたものの、売上高は3億円前後で5年ほど停滞し、ついには3億円を割って赤字ギリギリにまで落ち込み、今なら負債なしで会社を畳めるかもしれないとすら考えていました。
そんな時、ある先輩経営者に相談したところ、「3億円程度で何を悩んでいるんだ。必死で頑張れば10年で10億円を目指せる」と強烈な激励を受けたのです。この言葉で「覚悟のスイッチ」が入り、それまでの東京での地道な種まきが実を結んだことも重なって、そこからの5年間(2012年)で売上高を倍の6億円にまで伸ばすことができました。さらにその後も歩みを止めることなく事業を拡大し続け、直近の2026年6月期には当時の約4倍にまで達しています。
ーー現在の事業内容と、貴社ならではの強みは何でしょうか。
増田昭雄:
販促ツール(POPディスプレイなど)の企画、設計、製造、販売を一貫して行っています。製造設備と営業機能をあわせ持ち、企画から販売まで対応できる点は大きな特徴です。強みは大きく2つあります。
1つ目は「営業力」です。顧客であるメーカーの担当者に対し、対等に専門的な提案ができるよう、若手にも徹底的な教育を行っています。
2つ目は「設計力」です。社内に4人の設計担当がおり、月70〜80件の展開図を内製しています。これは外部企業への委託では難しく、自社でノウハウを蓄積しているからこそ実現できる体制です。
3年後の事業承継へ 組織を強くする「5つの注力テーマ」

ーー現在、組織づくりにおいて特に注力されていることを教えてください。
増田昭雄:
実は、私はあと3年で長男にバトンを渡す予定です。その事業承継に向けて、現在は「属人化からの脱却」を最大のテーマに掲げています。私自身や特定の担当者に依存している仕事をイチから仕組み化し、誰でも業務を回せる状態にするためです。
ーーその実現に向けて、具体的にどのような取り組みをされていますか。
増田昭雄:
事業承継の準備として、具体的には5つのテーマに注力しています。
1つ目は「若手社員の早期戦力化」です。現在、社員50名のうち約3分の1を20代が占めており、彼らを早く一人前に育て上げることが急務となっています。そのため、個人の成功事例を月に1回の営業会議で共有し、紙の販促物にとどまらない幅広い提案ができる営業パーソンへの成長を後押しする方針です。
2つ目は「DXやAIの推進」です。これまで私が表計算ソフトで独自に構築してきた見積りソフトや受注台帳は、私にしか保守できない属人的な状態になっています。この状況を脱却すべく、外部の専門家の力も借りながら、誰もが扱えて手直しできるシンプルなシステムへの移行を図ります。
3つ目は「工場の生産・品質改善」です。過去に半年間で約150件の不具合報告が上がり、業務の属人化が課題として浮き彫りになりました。そこで現在は現場の整理整頓を行うとともに、写真やアイコンを用いた直感的なマニュアルを整備し、誰もがすぐに作業を覚えられる環境づくりに注力しているところです。
4つ目は「管理部門の強化」です。長年、間接部門には専任者を置かず、人事や高度な経理業務は私が一人で抱え込んできました。しかし3年後の事業承継を見据え、営業のサポート業務を集約しつつ、人事や会計を分担できる専任体制へと移行する準備を進めています。
そして5つ目が「部門別採算制度の確立と部門長の成長」です。製造現場では一人が複数の案件を掛け持ちするため、正確な採算を把握するには個別の作業時間を明確にする必要があります。そこで現在は、スマートフォンで作業時間を記録し、的確に原価を管理する仕組みづくりを進めています。部署ごとの損益を明確にして各部門長に数字の責任を持たせ、利益を生み出す方法を自ら考える、経営視点を持ったリーダーの育成につなげていく考えです。
紙とデジタルの融合で新たな価値を創出しシェア10%へ
ーー組織風土の面で、大切にされていることは何ですか。
増田昭雄:
経営の勉強会(盛和塾)で学んだ「利他」の精神を、社内向けに「みんなは一人のために、一人はみんなのために」と分かりやすく翻訳して、15年間、社内で発信し続けてきました。自分の担当工程さえうまくいけばいいという考え方では、組織は機能しません。常に全体を俯瞰し、周囲のために自分がどう動くべきかを考える必要があります。長い時間をかけて伝え続けた結果、現在では社員の意識が変化しました。一人ひとりが全体最適を考え、行動できる組織へと成長しています。
ーー最後に、今後の展望についてお話しいただけますか。
増田昭雄:
振り返ってみると、国内のPOP市場における弊社のシェアは、現在わずか0.5%ほどです。しかし、これは裏を返せば大きな「伸びしろ」があるということです。紙のPOPだけでなく、そこから派生する様々な商品も扱うようになれば、まだまだ伸びていくポテンシャルがあり、将来的にはシェアを10%にまで引き上げられると考えています。
また、購買行動がECへと移行する今、リアルの店頭販促にはこれまでにない付加価値が欠かせません。その解決策の一つとして注力しているのが、紙のPOPとデジタルの融合です。具体的には、紙製ディスプレイに小型モニターを組み込み動画を流すといった、新たな手法を形にしているところです。今後も絶えず価値創造に挑み、顧客企業の売上向上に寄与していく所存です。
編集後記
売上高停滞の危機を、自らの足と先輩の言葉による「覚悟」で乗り越えてきた増田氏。同社は、企画から製造・販売までを一貫して行う独自のビジネスモデルで成長を続け、飛躍的な業績拡大という確かな実績を打ち立てている。現在は、長男への事業承継を見据え、長年培ってきた属人的な仕組みをあえて解体し、組織の自律を促す改革を進めており、その姿に強いリーダーシップを感じた。また、デジタルとアナログを融合させた新たなPOPの追求にとどまらず、紙以外の派生商品も積極的に提案することで、さらなるシェア拡大を目指している。若手社員たちが主力となり、どのような飛躍を遂げるのか。3年後、そしてその先の未来が非常に楽しみだ。

増田昭雄/1959年、大阪府生まれ。横浜国立大学経営学部を卒業後、東京で紙の専門商社に6年間勤める。1988年、株式会社マスパック前身の増田紙業株式会社に入社後、1年間の製造現場を経て、営業を担当。2000年、代表取締役に就任。現在に至る。