※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

私たちが日々口にする冷凍食品や、それらを送り届けるための物流基盤。その根底を支え続けているのが「防熱扉」だ。株式会社ミズタは、日本に冷凍や冷蔵の概念が乏しかった時代から、手作業で扉をつくり続けてきた防熱扉のパイオニア企業である。東京・浅草で建具を手がけていた水田家の事業を前史に、1963年に大阪で設立され、オーダーメイドによる壊れにくい扉で顧客から厚い信頼を獲得してきた。近年は、60年以上培ってきた職人の技術や現場力を次世代へ継承するため、業務の見える化・標準化と、蓄積したデータを経営判断に生かす仕組みづくりに着手している。マイナス60℃の環境を制御する技術力とインフラを守る使命感、次世代を見据えた変革について、代表取締役の水田大作氏に話を聞いた。

国内屈指のパイオニア 建具屋から始まった「壊れにくい扉」の歴史

ーーまずは、貴社の事業のルーツについて教えてください。

水田大作:
弊社の歴史は、私の祖父が東京の浅草で営んでいた建具屋「水田木工所」に遡ります。当時は襖や欄間などをつくっていました。しかし、日本冷蔵様(現・ニチレイ)から「冷蔵庫の扉をつくってほしい」とご依頼いただいたことが、防熱扉製造の始まりです。当時は現在主流であるウレタンなどの断熱材が存在しませんでした。そのため、木製の箱の中におがくずやコルクを詰めて代用するなど、試行錯誤を重ねてつくっていたと聞いています。独自の工夫でゼロから形にした、冷蔵・冷凍設備用の防熱扉としては国内でも非常に早い時期の取り組みだったと伝え聞いています。

ーー現在もオーダーメイドの手づくりにこだわる理由は何ですか。

水田大作:
お客様によって、庫内の温度やフォークリフトの出入りの有無など使用条件がすべて異なるからです。開口部で冷気を完全に遮断するには機械による自動化が難しく、職人の手による繊細な調整が求められます。そのため、現場ごとのご要望に合わせて一つひとつ手作業でつくり、自社で取り付けまで行っているのです。かねてより弊社がつくった扉は「ぶつかっても壊れにくい」と評価されており、手づくりだからこその頑丈さには自信を持っています。

食と物流のインフラを守る 時間勝負の現場力と根底にある職人の使命感

ーー製品を納めた後、扉のトラブルやメンテナンスにはどのように対応されていますか。

水田大作:
冷蔵庫の扉の不具合は庫内の温度上昇に直結するため、数時間の遅れが致命傷になります。お客様の大切な商品が溶けてダメになってしまう前に修理を完了させなければならず、まさに「時間との戦い」です。お客様の物流や事業を絶対に止めないよう、週末の短い休業時間や、一晩のうちに扉の撤去から交換、試運転までを終わらせるような、文字通り分刻みの時間勝負となる現場も少なくありません。

過去には、夜中に急なトラブルのご連絡を受け、「今すぐ行きます!」と工具を積んで車で四国まで徹夜で走った経験もあります。現在の対応エリアは北海道から離島まで全国に及んでいますが、自社の社員が駆けつけるだけでなく、全国の協力会社と長年培ってきたネットワークを活用し、一分一秒でも早く現場に到着して迅速に対応できる体制を整えているのです。

ーーこれまでどのようなことに苦労ややりがいを感じましたか。

水田大作:
一番の苦労は、過酷な温度環境での作業と技術的な壁です。現場となるのは、マイナス60℃のマグロ保管室や各種メーカーの環境試験室といった場所に及びます。極度な温度差の中で冷気を遮断し、結露による凍結を防ぐには長年培ったノウハウが不可欠と言えるでしょう。ときにはマイナス30度の極寒の中で修理を行うこともあり、身体的な辛さを伴います。

一方で、困っているお客様の力になれることは日々のやりがいですね。緊急の修理を無事に終えると、心から感謝の言葉を掛けていただけます。過去には「これ持って帰りな」と、お礼に冷凍食品をいただいたこともありました。こうしたお客様からの感謝の声は本当に嬉しく、私たちの最大のやりがいにつながっています。

職人の強みを次世代へつなぐ 業務の見える化・標準化と「一生モノの技術」

ーー職人技を継承しながら、業務の見える化や標準化をどのように進めていますか。

水田大作:
現在は、2年ほど前に会社に戻ってきた息子を含む若手メンバーを中心に、各種ITツールも活用しながら、業務の見える化・標準化を進めています。私たちは約60年間、紙と鉛筆、ホワイトボードを中心に仕事をしてきた町工場です。しかし、若い世代が入ってきたときに、「背中を見て覚えろ」だけでは、長年培ってきた技術や判断の基準を十分に伝えることができません。単に紙の業務をデジタルに置き換えることが目的ではなく、これまで個人や紙に蓄積されてきた情報を整理・共有し、業務の状況を分かりやすくすることで、若手への技術継承や経営判断に生かしていきたいと考えています。現場のやり方を一方的に変えるのではなく、これまでの業務の流れや職人の経験を尊重しながら、未経験者や派遣スタッフでも理解できるマニュアルづくりなど、現場の強みを次世代へつなぐ仕組みを整え始めている過渡期です。

ーー変革期を迎える今、どのような人材を期待していますか。

水田大作:
未経験の方でも全く問題ありません。イチから勉強して、オーダーメイドならではの一生モノの専門技術を身につけてもらえればと考えています。私たちの仕事は毎日同じ場所で作業するのではなく、「今日はあそこ、明日は向こう」と全国のさまざまな現場へ出向きます。自分の足でいろいろな場所へ行き、インフラを支えている実感を味わえる仕事です。そのため、運転が好きな人やフットワーク軽く動ける人にはとても楽しい仕事だと思います。一緒にこれからのミズタをつくっていってくれる方をお待ちしています。

編集後記

日本の当たり前の日常である「食卓や物流」。その背景には、過酷な温度変化に耐えうる防熱扉と、それを守り続ける職人たちの責任感がある。長年の手作業が生み出す「壊れにくい」という実績に甘んじることなく、現場の強みを次世代へつなぐため、業務の見える化・標準化とデータ活用による組織づくりに踏み出した同社。未経験からでも着実に専門技術を身につけ、全国を飛び回りながら社会のインフラを直接支えることができる環境だ。60年以上培ってきた職人の技術を守りながら、誰もが学び、成長できる仕組みへとつなげていく同社の取り組みは、これから入社する若手にとっても、専門技術を身につける魅力的な環境となるだろう。

水田大作/1982年、株式会社ミズタに入社。1995年、代表取締役に就任。1963年創業の防熱扉専門メーカーとして、設計・製造・販売・メンテナンスを一貫して手がける同社を率い、物流・冷凍冷蔵インフラの温度管理を支える専門技術の継承と、品質・対応力の向上に尽力している。