
1997年に前身となる企業が設立され、以降は地域に根ざした人材派遣業を主軸として展開するヒューマンブリッジ株式会社。業界全体が分業化やAI活用へ舵を切る中、同社は一人の担当者が営業からスタッフフォローまでを一貫して担う体制を貫いている。2000年の社名変更時に、異業種から34歳で同社に入社した代表取締役社長の冨田智誠氏は、現場の最前線で数々の危機を乗り越えてきた人物だ。リーマン・ショック時に労働争議ゼロを実現した強固な組織力や、現在進めている公平な評価制度の構築、そして強靭な企業体質への変革について同氏に話をうかがった。
異業種からの挑戦と派遣業の真髄 最大の強みは真摯な関係構築
ーーまずは、貴社へ入社した経緯をお聞かせいただけますか。
冨田智誠:
もともと私は高校卒業後に運輸関連の企業へ入社し、その後は食品の総合卸売業で約16年間経験を積みました。その際、お客様とは非常に良好な関係を築けていましたが、取り扱う商品そのもので他社と差別化を図ることが難しく、自らの将来性に限界を感じていたのです。
そこで、自らの働きで他社との明確な違いを生み出せる環境を求めて、34歳のときに現在の社名へ変わったばかりの弊社へ転職を決意しました。この業界は突然のトラブルに対応するなど、正直辛いことも少なくありません。しかし、そうした困難を乗り越える中で、人の人生に関わる仕事としての重い責任と社会的な意義を強く実感するようになりました。人と人が関わるからこそ得られる深い貢献への実感が、今日まで私が走り続けてこられた最大の原動力です。
ーー競合他社がひしめく中、貴社ならではの強みはどこにあるとお考えですか。
冨田智誠:
最大の強みは「地道で真摯な関係構築」にあります。大手企業の場合、営業や求人、面接、入職対応といった業務を細かく分業化するのが一般的です。しかし弊社では、それらすべてを一人の担当者が一貫して担います。担当者にかかる負担は当然大きくなりますが、自分が一から開拓した企業様や自ら採用したスタッフさんだからこそ、心から大切にできるという利点があります。
実際、少し前に、私が25年ほど前に採用したスタッフさんと現場で再会する機会があったのですが、十数年ぶりに顔を合わせたにもかかわらず、当時と変わらない表情で私のもとに会いに来てくれたのです。これはほんの一例ですが、たとえ効率化が進む現代であっても、一人ひとりに真摯に向き合う人間関係の土台こそが弊社の定着率の高さにつながり、他社には真似できない独自の社風をつくり上げています。
危機を乗り越える組織の底力 「この会社で働いてよかった」と思える組織へ
ーーそうした強固な信頼関係は、過去の危機的状況でどのように活かされましたか。
冨田智誠:
有事における組織の底力として、その信頼関係は見事に活かされました。たとえば2008年のリーマン・ショックの際、1000名を超えていた弊社の派遣スタッフさんが、390名にまで激減するほど厳しい時期がありました。毎日のようにスタッフさんに契約解除の話をしなければならず、本当に苦しい決断の連続でしたね。
ただ、外部企業で労働争議が起きているのを目の当たりにする中、弊社ではそうしたトラブルが一件も起きなかったのです。これは、現場の担当者とスタッフさんとの間に、日頃から嘘のない誠実な関係が築かれていたからに他なりません。その後、受注が回復して人を再募集した際には、一度辞めざるを得なかったスタッフさんたちが自ら戻ってきてくれました。誠意を持って向き合ってきた結果が証明された出来事です。
ーー組織づくりにおいて、どのような方針で進められていますか。
冨田智誠:
「平等ではなく公平性」を重んじる、新たな評価制度の構築を進めています。私が目指すのは、社員が自己実現を果たし、最終的に「この会社で働いてよかった」と心から思える組織づくりです。
これまでは個人の成果があまり反映されず、頑張っても差がつかない仕組みになっていましたが、それでは本当に努力している優秀な人材が報われません。同じ仕事量でも生産性が高い人が正当に評価され、努力した人が確実に報われる仕組みへと変革を進めています。社内に変化をもたらす際には意見の食い違いも起きますが、何もしなければ組織は黙って衰退してしまいます。今こそ、強い意志を持って変革を進めるべき重要な時期だと捉えています。
次世代リーダーの育成とマインドセット 「活力あるローカル企業の集合体」へ

ーー次世代リーダーにはどのような素養を求め、どう育成していくお考えでしょうか。
冨田智誠:
物事の判断を「自責」で捉えられる意識を持った人材です。知識やスキル以上に、何かが起きたときに他人のせいにはせず、「正しい熱意と考え方」を持てるかどうかが何より重要です。
次世代リーダーの育成においても、受け身でいられる研修は行っておりません。まずは会社の方向性に共感し、「覚悟・判断・責任」を自ら背負える人材を引き上げたいと考えています。彼らが成果を出して上のポジションに就くことで、それが良い指標となり、会社全体に良い空気が波及していくのです。そうした自律的な人財の育成に全力を注いでいます。
ーー人材育成と事業推進を通じて、今後どのような企業を目指すのか教えてください。
冨田智誠:
私が目指す究極の姿は、単なる規模の拡大ではなく、「困ったときはヒューマンブリッジに相談しよう」と地域の人々から真っ先に頼られ、愛される会社の実現です。派遣業界全体が転換期や市場の縮小を迎える中、私たちは決して守りに入るのではなく、果敢に未来を見据えています。
その上で今後の注力テーマとしては、既存事業の基盤強化を進めるとともに環境変化に左右されない第三の収益の柱として福祉事業などを育て上げ、いざというときでも自力で生き抜く強靭な企業体質を構築する方針です。社員一人ひとりが大手に引けを取らない強さと活力を持ち、地域社会のインフラとして王道を突き進む。そんな「活力あるローカル企業の集合体」を目指していきます。
編集後記
派遣業界に押し寄せる分業化や市場縮小の波に対し、人と人との真摯な結びつきを重んじて揺るぎない信念で立ち向かう冨田社長。最も印象に残ったのは、苦難の時期をともに乗り越えてきた社員やスタッフに対する深い愛情と、現場で築き上げてきた人間関係への絶対的な自信だ。「平等ではなく公平性を」「自責で捉える覚悟を」と語る力強い言葉の数々からは、企業を次なるステージへ導くための並々ならぬ熱量が伝わってきた。人を思う温かさと変革を恐れない強さを併せ持つ同社が、地域社会のインフラとしてどのような未来を描いていくのか。その力強い躍進から目が離せない。

冨田智誠/1965年、福岡県生まれ。福岡県立門司商業高等学校(現福岡県立門司大翔館高等学校)卒業後、大手私鉄、酒類食品商社を経て、2000年にヒューマンブリッジ株式会社へ入社。西日本営業部長、執行役員を経て2024年3月、代表取締役社長に就任。