※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

高校卒業後、5年間のフリーター生活を経て上京した株式会社MiLの代表取締役、杉岡侑也氏。人材領域での起業を経て数々の壁を乗り越えてきた経験を有する。現在はベビーフード業界に参入し、少子化で大手企業が撤退する消極的な市場の空気を打ち破るべく挑戦を続けている。同社が掲げるのは「モノ売り」にとどまらない育児の伴走者となる独自の事業形態だ。地方の老舗企業を巻き込みアジア市場を見据える壮大な展望について聞いた。

フリーターから人材領域の起業へ そして直面した「自身の器」という壁

ーーまずは、これまでのご経歴をお聞かせいただけますか。

杉岡侑也:
高校卒業後、大学受験に失敗して大阪で5年間フリーターをしていました。当時は進捗のない時間を過ごしていましたが、ある時、友人たちが就職で東京に行くというのを聞きつけ、私も就職しようと考えました。そこで参加した就活イベントをきっかけにIT企業に入社し、23歳で上京したのです。

入社後の1年間は営業活動を行っていたのですが、本当に楽しいもので、さまざまな業界の人と出会って「働くことは素晴らしい」と感動しましたね。しかし私には、通勤電車に乗る大人たちは悲観しているように見え、せっかくの働く時間を悲観しているのはもったいないと感じました。そこで、20代が自分らしく働ける場所を探すための自己理解の機会をつくりたいと考え、2016年に20代のキャリア支援を行う会社を設立しました。

ーーその後、どのように事業展開されたのですか。

杉岡侑也:
非大卒者に焦点を当てた人材紹介企業の株式会社ZERO TALENTを新たに立ち上げました。能力に差はないにもかかわらず、学歴という肩書きだけで収入格差が生まれている現状において、彼らの生産性を高めることが社会のためになると確信していたからです。

しかし、当時は時代が求める大きな傾向を感じとれていたものの、それを定着させるための経営者としての力量や器がまったく足りていませんでした。社会情勢の変化による打撃も重なり、売上高の急減とともに従業員も離れていく結果となり、最終的には事業売却という道を選ぶことになったのです。大きな波を乗りこなす実力が自分には伴っていなかったのだと、深く思い知らされる経験となりました。

人生を「線」で捉える視点と次世代へ向けた使命感

ーーそこから現在の事業領域へ参入された原点を教えてください。

杉岡侑也:
一つの大きな転機は、痛ましい社会のニュースでした。それまで私は「働く中に夢中ややりがいがあれば幸せだ」と信じ、それを20代に伝えてきました。しかし、夢中になって働くほど追い詰められ、命を落としてしまう現実があることを目の当たりにしたのです。そこで「人生は夢中になれる職場に出会えれば良いわけではない」と気づきました。人を幸せにするためには、ある瞬間の「点」を最大化するのではありません。人生を長く「線」で捉える視点が必要だと価値観が大きく変わりました。

ーー人生を長く捉える中で着目したのが「食」だったのでしょうか。

杉岡侑也:
「食」に注目したもう一つの転機が妻の出産です。子どもを授かり、親になる経験を通して視野が大きく広がりました。「私の人生さえ良ければいい」という視点から「子どもたちが生きる数十年先の未来の社会にどう貢献できるのか」と考えるようになったのです。

人生を単なる「点」の連続ではなく長い「線」として捉えたとき、すべての人に対して良い距離感で長く接し続けることができるものは何かと考え、一生続く「食」に行き着きました。人が初めて口にする「離乳食」は、幸福な親子の時間の始まりでもあります。このかけがえのない時期に寄り添い、最も記憶に残るブランドをつくろうと決意しました。

「モノ売り」ではなく「育児の伴走者」として

ーー改めて、貴社の事業内容や事業の強みについて教えていただけますか。

杉岡侑也:
私たちは実店舗を持たず、オンラインを通じてお客様に直接商品をお届けするブランドとして事業を展開しています。社内にシェフやパティシエ、管理栄養士などの専門家は在籍していますが、自社の製造ラインは持たず、さまざまなパートナー企業と協力して商品づくりを行っています。

従来の食品業界では、問屋や小売店を挟むことで、メーカーに消費者のリアルな声が届きにくい構造でした。そこで私たちは、お客様と直接コミュニケーションをとる仕組みを重視しています。たとえば、初めて母親になった方が抱える「離乳食を何から始めていいかわからない」という不安に対し、単に安心で安全な商品を販売するだけではありません。顔が見える栄養士が伴走する無料のオンライン相談室を設け、より良い育児を一緒に考えるサービスを提供しています。

また、日々寄せられるお客様のリアルな声は、デジタル技術を活用して社内で統合しています。カスタマーサポートや商品企画、営業部門がシームレスに連携し、顧客の声を素早く企画に落とし込む「AIネイティブ」な組織基盤を構築していることも、私たちの大きな強みです。

ーー商品づくりにおいて特にこだわっている点を教えてください。

杉岡侑也:
私たちが徹底してこだわっているのが、「子どもの味覚への多様で複雑な刺激」です。この複雑な刺激こそが子どもの食べる力を育て、それが結果的に「生きる力」を育てることにつながると信じているからです。

また、私たちはオンラインを通じてお客様と直接つながっているため、「こういう商品が欲しい」「ここを改善してほしい」といったリアルな声が毎日大量に寄せられます。たとえば、多くのお客様に支持されている鶏レバーのピューレも、そうしたリアルな声から生まれました。

日々お客様とコミュニケーションを取り、一緒に育児の課題を解決していく。そうした伴走型のサービスを通じて、たくさんの方から喜びの声をいただけるようになったことが、私たちのブランドの最大の魅力だと感じています。

逆風の「ベビー市場」を歓迎される産業へ 地方の力でアジア40億人に挑む

ーー今後の業界の展望や貴社が目指す未来についてお聞かせいただけますか。

杉岡侑也:
今、日本のベビー市場は少子化の影響で大手企業の撤退が相次ぎ、消極的に語られがちです。しかし、誰もやらないからこそ私たちのような企業がもろ手を挙げて挑戦します。この領域を「歓迎される産業」に育てたいと強く思っています。儲からないからやらないのではなく、情熱を持って取り組むことが重要です。

日本は少子化でも、視野を世界に向ければアジアでは今後も人口増加が見込まれます。約40億人以上もの巨大な人口を抱えるこの市場は、今後もファミリー層の需要が拡大していくはずです。弊社は、日本で蓄積された高い品質と知識、「ジャパン基準」のコンテンツをアジアへ輸出していきます。これが今後5年、10年で実現したい大きな展望です。

ーーその未来に向けて、地方企業とはどのように連携していくお考えでしょうか。

杉岡侑也:
この挑戦には地方の力が不可欠であるため、これまでベビー市場に参入してこなかった企業も積極的に巻き込んでいます。実際に、創業150年の老舗和菓子店や地方の海産物メーカーなどとの商品づくりがスタートしました。地方創生といえば「地産地消」が語られがちですが、人口減少が進む限界集落のような場所で消費を促しても限界があるでしょう。

そこで私たちが重要視しているのは、地域の素晴らしい素材を「地産外消」として世界の大きな市場へ輸出し、高く評価していただくことです。自社の成長にとどまらず、正当な対価を地域へ還元する循環の確立を目指しています。今後、生産者から「あなたと一緒に未来をつくりたい」と選ばれるブランドにならなければ生き残ることはできませ。弊社はそうした志を持つ仲間を集め、日本の誇るべき技術を世界規模のビジネスへと昇華させていく構えです。

編集後記

少子化という逆風の中、あえてベビー市場に身を投じる杉岡氏の決断には、次世代の社会構造を見据えた強い使命感があった。単に商品を届けるのではなく、不安を抱える親の「伴走者」となり、子どもたちの味覚と生きる力を育む姿勢には揺るぎない信念を感じる。限界集落の素材をも活かす「地産外消」の仕組みを通じ、自社の成長だけでなく地域へ還元する。生産者から「一緒に未来をつくりたい」と選ばれるブランドとして、日本の誇るべき技術を世界規模のビジネスへと昇華させていく同社の今後に期待だ。

杉岡侑也/2016年、コーチング、キャリア支援を行う株式会社Beyond Caféを創業。2018年、中小企業支援、非大卒者のキャリア支援を行う株式会社ZERO TALENTを創業し、ファンドへ事業を売却。2社の経営経験から、人生の幸福にWell-beingの重要性を痛感。「心身ともに充実した豊かな人を育てる。豊かな社会を未来に残す」ことを目指している。