
2015年の創業以来、独自のアルゴリズムを用いて物流業界のラストワンマイル配送最適化を牽引してきた株式会社オプティマインド。代表取締役社長の松下健氏は、「最適化アルゴリズムを世の中に活かしたい」という信念を貫いた。同社は現在、ラストワンマイルの配送最適化で築いた強固な基盤と、新たに立ち上げた「アルゴリズムラボ(ALGORITHM LAB)」を掛け合わせ、さらなる事業拡大のフェーズへと突入している。物流から人流まで、日本全国約300万台の法人車両の最適化を見据える同社が目指すのは、デジタル化が進む現代にあえて「人間らしい温かいつながり」を残すことだ。絶対的なインフラ企業への成長を描く松下健氏に、その根底にある思いと未来への展望を聞いた。
アルゴリズムへの没頭と最も困難な「物流」への挑戦
ーーまずは、起業の原点についてお聞かせいただけますか。
松下健:
原点は、大学1年生のときにアルゴリズムの授業に出会い、「世の中のためになる学問だ」と強烈に惹かれたことでした。そこからすぐに研究室の門を叩き、研究漬けの大学生活を送っていましたね。
当初は博士課程まで進んでアカデミアの道を志していましたが、並行して22歳で起業しました。しばらくは研究と経営の両立を図ったものの、次第に会社を成長させたいという思いが強くなり、経営の道へ進む決断を下したのです。
事業を始めた頃はアルゴリズムを活かせるあらゆる業界を回りましたが、その中で一番反応が渋かったのが物流業界でした。「コンピューターや数字の世界とは違う」と突き返されるほど、当時の物流業界はまさにデジタルとは真逆の世界だったのです。しかし、誰もやりたがらない困難な領域だからこそ、解決できれば計り知れない価値を生み出せると確信しました。だからこそ挑む意義があると決意したわけです。
ーーその後、どのようにして事業を軌道に乗せたのでしょうか。
松下健:
ターニングポイントとなったのは、2018年に日本郵便社が主催したオープンイノベーションプログラムでの優勝です。実は最初は受託開発から始めたものの、1年間は売上高がゼロでした。「最適化は社会に求められていないのではないか」と苦悩し、全く関係ない別の事業を行っていた時期もあります。
しかし、2018年のタイミングで宅配クライシスが社会課題として顕在化し、同時にアルゴリズムに強いメンバーが集まったことで、再び物流にフォーカスしました。その後のプログラム優勝を機にテレビ番組にも取り上げられ、一夜にして見える景色が大きく変わったのです。
「現場百遍・謙虚力」が支える真の現場伴走力

ーー売上高ゼロの苦悩から飛躍を遂げるまでの間、社長を支えたものは何だったのですか。
松下健:
創業直後にある運送会社の社長からいただいた、「自分の下した判断が正しいという努力をし続けること」という言葉です。経営における判断はどれも正解でもあり不正解でもありますが、一度決断したからには、それが正解になるように努力し続けなさいとする教えでした。事業が伸びず、周囲の起業家が成長していく姿を見て自身の経営能力を疑い、何度も辞めようと思いましたが、この言葉を軸に踏みとどまることができたのです。
また、最初にお取引いただいたお客様の存在も非常に大きかったと感じています。当時の私はビジネススキルもマナーも未熟でしたが、「一旦トライするところを君に賭けてみるよ」と背中を押してくださるアグレッシブな社長がいらっしゃいました。東海地方はスタートアップ不毛の地と言われることもありますが、私はそのような温かいお客様に恵まれ、この地域に育てていただいたのだと痛感しており、その感謝の念が現在の経営における根幹にもなっています。
ーー貴社ならではの強みを教えてください。
松下健:
最大の強みは、計算された計画の「精度」に加え、現場のリアルな声を知る「人間的な理解度」を備えている点です。アルゴリズム自体をつくるのは比較的容易なものの、現場の方々に本当に喜んで使っていただけるシステムへと昇華させるのは非常に困難な作業と言わざるを得ません。そのため私たちは「現場百遍」という言葉を経営理念に掲げ、ドライバーさんの横に立ち、汗を流しながら学ぶ謙虚な姿勢を徹底してきました。
この「現場主義」と「高度な最適化アルゴリズム」を掛け合わせ、システムを現場の課題に合わせていくアプローチとして、弊社では大きく2つのサービスを展開しています。これが他社に負けない独自の強みです。
1つ目は圧倒的な計算精度と、複雑な業務要件を考慮して配車計画を作成する輸配送最適化ソリューション「Loogia(ルージア)」です。ITに不慣れな新人配車担当者でも直感的に操作でき、ドライバー向け専用アプリ(住宅地図情報連携など)ともシームレスに連携してリアルタイムな動態管理も可能にしています。
2つ目は純粋なシステム受託開発ではなく、伴走型開発事業としての「アルゴリズムラボ(ALGORITHM LAB)」です。課題の特定から専用アルゴリズムの設計、既存の基幹システム(ERP/WMS等)とのAPI連携、そして「現場での運用定着」までを一貫して伴走支援します。ラストワンマイル配送にとどまらず、共同配送ネットワークの構築、幹線輸送、工場間物流、コンテナ積込最適化、自動車輸送、さらには「人流」も含め、あらゆる移動の最適化に対応出来る多様な領域へ展開しています。将来的には、国内に約300万台ある法人車両全体の課題解決へと提供領域を広げていく計画です。
キャリアは「轍(わだち)」 目の前の仕事に全力で向き合う
ーー社内ではどのような人物が活躍していますか。
松下健:
目の前の仕事に全力で向き合える人です。20代からキャリアを緻密に設計する方もいますが、私はキャリアとは「轍(わだち)」、つまり車輪の跡のようなものだと考えています。計画的に進むよりも、目の前の仕事や地道なデータ解析、現場でのヒアリングに全力で向き合ってきた人が、2、3年後に振り返ったときに大きな強みを持った「轍」を描けている。そうやって一生懸命になれる人が成長でき、より市場価値を上げられる環境が弊社にはあります。
ーー全力で仕事に向き合うメンバーとともに、どのような社会を実現していきたいですか。
松下健:
私たちがミッションに掲げるのは「温かい社会を、技術と支える」ことです。AI時代における人間の役割は、共感や合意形成といったコミュニケーションだと考えています。配達の荷物を受け取る際のドライバーさんとおばあちゃんの世間話のような「人間らしい温かいコミュニケーション」を残すため、効率化すべき裏側を私たちが技術で支えます。その先に見据えるのは、10年後に、パソコンの「Intel inside」のような「Loogia(ルージア)入ってる」という状態をつくり上げることです。
私たちが目立つのではなく、モノが届き、人が移動できる当たり前の日常を裏側からこっそりと支える絶対的なインフラ企業になるという壮大なビジョンです。同時に、アルゴリズムという言語の壁を越える強みを活かし、5年以内にはグローバルマーケットへの本格展開も視野に入れています。儲からないし、誰もやりたがらないからこそ社会課題として残っているのであり、だからこそ私たちが「勝手な使命感」を持って解決するのです。そんな気概を持った仲間たちとともに、これからも挑み続けます。
編集後記
「儲からないし、誰もやりたがらないからこそ、社会課題として残っている」。松下社長のこの力強い宣言には、ただのビジネスの成長にとどまらず、効率化の波に飲まれがちな現代において「人間らしい温かい繋がり」を守り抜くという、希望に満ちた未来を確信させてくれる。最先端のAIやアルゴリズムを駆使しながらも、その根底にあるのは愚直なまでの「現場主義」と、人間らしい温かさを技術で裏側から支えるという強い思い。「ルージア入ってる」が世界の当たり前になる希望に満ちた未来は、そう遠くないはずだ。

松下健/岐阜県岐阜市出身。名古屋大学大学院情報学研究科博士後期課程を単位取得満期退学し、現在は同大学大学院の情報学研究科招へい教員。技術と実社会の架け橋になりたいという思いから、2015年に株式会社オプティマインドを創業。トヨタ自動車などから約37億円の資金調達を実施。