※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

大阪、名古屋、神戸に店舗を展開し、単体売上高103億円規模となる株式会社八百鮮。同社は一般的なスーパーとは異なり、店舗ごとに仕入れを行う独自のスタイルで事業を拡大し続けている。大学卒業後に就職した外部企業で水産物の仕入れと販売の面白さに触れ、独立を果たしたのが代表取締役の市原敬久氏である。創業当初の厳しい環境や、2021年の大手グループ参画による店舗展開を経て現在に至る。「八百屋を、日本一かっこよく」というビジョンの裏側にある、独自の行動原則と人材戦略に迫った。

厳しい環境だった創業期と前職からの「店舗譲渡」による基盤構築

ーーまずは、起業に至った経緯をお聞かせください。

市原敬久:
大学時代の仲間と「30歳までに起業する」と約束したことが原点です。卒業後はそれぞれが専門分野を磨くために別々の会社へ就職し、私は食品スーパーのタチヤに入社しました。そこでは水産関係の仕入れから販売までを経験しましたが、その中では市場へ直接買い付けに行く仕事に魅力を感じていましたね。そして28歳になったとき、起業への足掛かりをつくるべく本格的に動き出し、独立に至りました。

ーー独立後、事業は順調に推移したのでしょうか。

市原敬久:
当初は厳しい環境が続き、創業から5年ほどは思うように売上高が立ちませんでした。状況が好転するターニングポイントとなったのは、名古屋へ出店したことです。前職の社長から「もう一回経営を勉強しなさい」と、名古屋にある店舗をそのまま譲渡していただいたのです。屋号は変更しましたが、その店舗には以前からのお客様が継続して足を運んでくださり、徐々に利益を出せるようになりました。その店舗で売上高や利益のつくり方を学び直したことで、新規出店や人材強化に資金を回せるようになったことが、現在の成長の基盤です。

業界の常識を覆す「逆張り戦略」と権限移譲

ーー現在の事業における特徴や強みを教えてください。

市原敬久:
生鮮品(魚、肉、野菜)の売上高構成比が85%を占めている点が大きな特徴です。一般的なスーパーと比べても比率が高く、私たちは自らを「生鮮市場」と位置づけています。強みとなっているのは、同業他社とは異なる「逆張り戦略」です。

弊社は、店舗規模を抑えて、本部による一括仕入れを行わずに各店舗のスタッフが直接市場へ仕入れに行っており、店舗ごとに仕入れ値や売り値を交渉するため、同じ商品でも店舗によって価格が異なります。これによって、目の前にいる店員が直接買い付けたという鮮度への安心感をお客様に提供できるだけでなく、「自ら選んだ商品を売る」という経験がスタッフのモチベーションに直結しているのです。

ーー店舗スタッフに仕入れを直接任せることでどのような効果が生まれるのですか。

市原敬久:
仕入れを任されることが、働く最大のやりがいになっています。各店舗には野菜、果物、肉、魚、グロッサリー、寿司の領域で6名のバイヤーを配置し、大幅な権限移譲を行っています。一般的なチェーン店において、バイヤーになれる人は数パーセントに過ぎません。しかし弊社では、20代のうちから仕入れに携わることが可能であり、1人のスタッフに対して年間2億円の資金を預け、3億円の売上高をつくって利益を出す感覚で仕事を任せています。責任は伴いますが、他社では得がたい仕事の面白さを実感できる環境です。

ーー近年、急激に店舗網を拡大できている背景についてお聞かせいただけますか。

市原敬久:
2021年に、前職であるスーパーのタチヤがグループ入りしていたご縁からお声がけいただき、バローグループへ参画したことが大きな転機となりました。当時は売上高40億円で7店舗を展開していましたが、出店をもっと加速させたいという強い思いを抱える一方で、自社単独での資金調達に課題を感じていたのです。

グループへ合流してからは、出店スピードが劇的に向上しました。店舗用地の共同運用や商品の共同調達が一気に進んだことに加え、資金面での強力なバックアップを得られたことが大きな要因と言えます。良い物件を見つけた際も、親会社からの融資を活用することで銀行の手続きにかかる時間を省き、スピーディーに出店を決定できる状況に変わりました。こうした環境を最大限に活かし、グループ参画から現在までの5年間で11店舗体制にまで成長し、売上も参画当時の倍へと拡大を続けています。

「愛され力」を重視し挑戦を続けるベンチャー気質の組織

ーーさらなる店舗拡大を見据える中で、どのような人材を求めていますか。

市原敬久:
採用において一番重視しているのは「愛され力」です。利用されるお客様は主婦層が多いため、素直でコミュニケーション能力があり、周囲から愛されるキャラクターを持った人材を求めています。現在、今後の店舗拡大に向けて新卒採用にも注力しており、本年度は11名が入社しました。動画配信サイトでの発信やインターン企画など、業界では珍しい独自の活動を行っていることもあり、多くの方からエントリーをいただいています。

ーー実際に入社した社員の方々は、社内の雰囲気をどのように感じているのでしょうか。

市原敬久:
社員からは「文化がベンチャー気質でおもしろい」との声が多くあがっています。業界の枠にとらわれず、新しいことに次々と挑戦していく文化が根付いているからです。社員総会のためにイベント会場を貸し切ったり、運動会を開催したりと、社内の人間関係も非常に良好ですね。

ーー最後に、今後の展望と求職者へ向けたメッセージをお願いします。

市原敬久:
2030年に向けて、売上高や店舗数の拡大といった明確な計画のもとで事業を推進しています。それに伴い、店長候補やバックオフィスの人材を継続して採用していく予定です。私たちが目指しているのは、「八百屋を、日本一かっこよく」というビジョンです。これには「愛される、憧れられる、尖る」といった要素が含まれます。

ここでいう「かっこいい」とは決してビジュアル的な意味ではありません。八百屋の仕事は、100円、200円の売上高の積み上げでしかなく、一つひとつの利益は数十円でも、それをコツコツ積み重ねることで何億円という利益に成長します。この「コツコツやっていくことのかっこよさ」、つまり商売における本質的なかっこよさを目指す姿勢に共感いただける方とともに、日本一を追求していきたいですね。

編集後記

市原社長が語る「かっこよさ」は、決して表面的なものではなかった。日々の商売に実直に向き合い、小さな利益を愚直に積み上げていく。その飾らない姿勢の裏にある確固たる信念に、取材を通して深く心を動かされた。若手へ数億円規模の裁量を委ねる大胆な挑戦心と、地域に根ざした誠実な商いの融合。それこそが、同社に惹きつけられる人が後を絶たない理由なのだろう。「愛され力」を持った熱気あふれる仲間たちと共に、前例のない道を切り拓いていく彼らの未来から目が離せない。

市原敬久/1982年生まれ。2005年、京都産業大学卒業。2007年、食品スーパーのタチヤ(株式会社タチヤ)に就職。2010年、株式会社八百鮮を創業。2021年、バローグループ(株式会社バローホールディングス)に参画し、生鮮スーパー たこ一(株式会社ヤマタ)の代表を兼務。2026年3月期の決算は216億円(八百鮮103億円、たこ一113億円)。