
映画やゲームのエンタメ関連企業で長年キャリアを積んできた山地浩氏。現在、同氏が代表取締役を務める株式会社ミライスピーカーは、特許技術「曲面サウンド」を駆使し、テレビなどの音が聞き取りやすくなるスピーカーを展開している。エンターテインメントの最前線から、人々の生活に欠かせない「聞こえ」の課題解決へと舵を切った背景には何があったのか。シニアの悩みに寄り添う新商品の開発秘話や、社名変更に込めたブランド戦略、次世代への技術継承に向けた思いに迫る。
ミライスピーカーで見つけた「本当に人の役に立つ」手応え
ーーまずは、これまでのキャリアの歩みについて教えていただけますか。
山地浩:
大学卒業後は自動車部品メーカーに入社しました。その後は映画会社やゲーム会社に十数年在籍し、続いてカルチュア・コンビニエンス・クラブへ移っています。同グループには10年ほど身を置き、新規事業であったDVD宅配レンタルサービスの立ち上げなど、エンタメ関連の事業に長く携わってきました。その後はどこの組織にも属さず、自身で経営コンサルタントとして活動していた時期もあります。
ーーこれまでのお仕事において、大切にされてきた軸について教えていただけますか。
山地浩:
一貫して持っているのは「組織の歯車になるのは避けたい」という思いです。私は「右に行け」と言われたら左に行くようなタイプで、誰もやっていないことに挑戦したいという気持ちが強いのです。エンタメの世界には「これをやったら絶対に当たる」という明確な正解が存在しません。事業者は常にお客さんの想像を超える驚きを生み出す必要があります。そのため個人の裁量が大きく、むしろ型破りな人間の方が向いている業界だったため、私の性格に非常に合っており長続きしたのだと思います。
ーーエンタメ業界から現在の事業へ移り、ご自身の中に生じた変化を教えてください。
山地浩:
人を喜ばせるという意味では同じですが、得られる手応えは全く異なります。映画やゲームなどのエンタメは人生を楽しくする要素のひとつですが、コンテンツの送り手は「次に何をしたら当たるか」とお客様の反応を追いかけ続ける必要があり、例えるなら「狩猟民族」のような働き方で常に急き立てられているような気がしていました。一方で、私たちが現在取り組んでいる聞こえの問題は、生活の土台に関わる本質的な課題です。
テレビの音が聞こえないと家族とのコミュニケーションすら困難になり、お客様の悩みは深刻です。だからこそ、製品を通じて課題を解決できたとき、「本当にありがとう」「助かっています」という声がダイレクトに届くのです。製品の開発・生産には時間がかかり粘り強さも必要になりますが、人の役に立っているという圧倒的な実感を得られるため、とても安定した精神状態でいられます。
「お年寄り扱い」はしない 心に寄り添う新商品『ミライスピーカー・イヤー』

ーー新製品の集音器『ミライスピーカー・イヤー』の発売に至った背景を教えてください。
山地浩:
テレビ用のミライスピーカーをお使いのお客様から「テレビの前の聞こえはよくなったが、外出先や家族との会話でも使える製品がほしい」という声にお応えし、耳に挟むイヤカフ型の集音器を開発しました。多くの方は「耳の穴に入れるのが疲れる」「お年寄りに見られるのが嫌だ」という理由で、一般的な集音器を敬遠しがちです。そこで、機能性と見栄えを両立させた新しい形を採用しました。また、医療機器ではないのですが、「聞こえ調整機能」を搭載し、個人の聞こえにあわせることもできるモデルもあります。この機能が大変好評です。
ーー機能性だけでなく、デザインや見え方にもこだわられた理由は何でしょうか。
山地浩:
そこが一番のポイントです。作り手はつい「シニア向けにはこういうデザインが良いだろう」と先入観で決めてしまうと、本当のニーズを見落としてしまうことがあります。人間は、年齢を重ねても、感性や美しいものを求める気持ちは大きく変わるものではありません。だからこそ、「いかにも特定層向け」と感じられるデザインではなく、どなたでも日常に馴染む洗練されたデザインが、自然と受け入れられるのだと感じています。年齢を重ねた方の本当の気持ちに寄り添うことこそが、ものづくりにおいて最も重要だと考えています。
信頼の証としての社名変更 そして次世代への技術継承
ーー社名を、ブランド名である「ミライスピーカー」に変更された背景について教えてください。
山地浩:
一番の理由は、お客様に「ミライスピーカーさん」と呼ばれることも多くあり、お客様の認識と社名を一致させて分かりやすくすることでした。「ミライスピーカー」というブランド名は、広く知られ、信頼を寄せていただいていると感じているので、この名前があれば、新しいサービスを展開する際にも、お客様に安心して選んでいただけると思ってます。その信頼に応えるため、「100年の人生をテクノロジーで豊かに」という理念を掲げ、これからもお客様の困りごとを解決し続ける会社でありたいです。
ーー最後に、今後の組織づくりや採用についての展望をお聞かせください。
山地浩:
これから私たちが注力したいのが次世代への技術継承です。特許技術である『曲面サウンド』は、これまで熟練のメンバーたちが情熱を持って磨き上げてきた当社の財産です。今後は、この独自の技術を若い世代の方々にバトンタッチし、新しい感性でさらに進化させていきたいと考えています。スピーカーの製造経験は問いません。音響技術や新しいものづくりに興味がある若い世代の方を求めています。私たちの理念に共感し、ぜひ仲間に加わってほしいと強く思っています。
編集後記
インタビュー中、山地氏が口にした「心の中は19歳の頃とあまり変わりません」という言葉が強く印象に残った。年齢を重ねた方々の真の痛みに寄り添い、「お年寄り扱いしない」製品づくりを徹底する姿勢こそが、同社が圧倒的な支持を集める理由なのだろう。自社の看板ブランドを社名に冠し、100年時代の豊かな人生をテクノロジーで支えようとする同社。独自の特許技術を受け継ぐ新たな世代の才能が加われば、その歩みはさらに力強く進み続けるはずだ。

山地浩/北海道大学経済学部卒業。株式会社レントラックジャパン取締役、株式会社ツタヤ・ディスカス代表取締役社長、株式会社ツタヤオンライン代表取締役社長を歴任。2018年10月、株式会社サウンドファン代表取締役社長CEOに就任。趣味はランニングとクラシック音楽。