※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

オーストラリアで生まれ育ち、日本への留学を経て、23歳で起業を経験したポールチャップマン氏。同氏が2012年に立ち上げたマネーツリー株式会社は、個人向け資産管理アプリ「Moneytree」と、企業向けデータ基盤「Moneytree LINK」を展開する。AI時代におけるデータの信頼性とプライバシー保護の重要性が高まる中、独自の技術と信念で業界を牽引するチャップマン氏。同社のプラットフォームは、急成長中のスタートアップから大手金融機関まで幅広くインフラとして導入されている。さらには、生成AIとの金融基盤連携を実現し、キャッシュフローデータを活用した新しい与信審査に活用されるデータ基盤の提供など、より公平で透明性の高い金融業界の構築を目指している。大手金融グループの一員として安定した基盤を持ちつつも、独立したプラットフォームとして挑戦を続ける同氏に、創業の背景から今後の展望までを聞いた。

「日本のソフトウェア水準を引き上げる」――来日と起業の背景

ーーまずは、キャリアの原点を教えていただけますか。

ポールチャップマン:
もともと、日本とのつながりを持ち続けたいという思いが根底にありました。私はオーストラリアの大学で経済やビジネス、日本語を専攻し、在学中には日本の大学へ留学もしました。そして、大学を卒業した年に母国で起業を経験し、後にその会社を売却。そこから、日本の企業でIT部長として3年間勤めました。これらの経験を通じて、日本のビジネス習慣と同等の基準を身につけることができたと感じています。

ーー貴社を設立するに至った経緯は何だったのでしょうか。

ポールチャップマン:
「日本のソフトウェアの技術レベルを引き上げたい」という強い使命感です。日本はものづくりにおいて世界的に有名ですが、ソフトウェアの領域においては、海外に比べて遅れをとっていると感じる部分がありました。そこで、日本に特化したソフトウェア会社をつくれば日本人のためにより良いものがつくれると確信し、2012年に仲間とともに弊社を創業しました。

ーー創業当時は、どのような信念を持っていましたか。

ポールチャップマン:
大きく二つの信念がありました。

一つ目は金融体験の向上です。当時の日本はATMの営業時間が限られており、他行への振込手数料も高額でした。こうした不便さを解消し、金融機関と生活者の関係を対等にして、よりわかりやすく優しい体験を提供したいと考えたのです。

二つ目は、プライバシーと個人情報の保護です。当時は多くのウェブサイトが利用者の情報を過剰に取得しており、個人情報が大切に扱われていないと感じていました。それに対し、私たちは「利用者情報はあくまで利用者自身のものである」という前提のもと、利用者の個人情報を厳格に守りながら、より良い金融体験を提供できると信じて事業を進めてきたのです。

企業と個人を支えるデータ基盤とその活用事例

ーー改めて、貴社の事業内容を教えていただけますか。

ポールチャップマン:
弊社は個人向けアプリの提供に加え、90社以上の金融機関や新興企業などに導入されているデータ基盤を展開しています。具体的な活用場面として、法人向けクレジットカードを提供する企業での利用が挙げられます。企業が与信審査のために資金繰りのデータを必要とする際、私たちが利用者の同意に基づき、安全で安定した形でそのデータを提供しているのです。

ーー企業が自前でシステムを構築するのとは違うのでしょうか。

ポールチャップマン:
金融機関と接続するシステムを自前で構築するには、膨大な時間と数十億円規模の費用、高度な安全対策が必要です。私たちが長年かけてつくり上げたデータ基盤を利用していただくことで、新しい企業でも迅速かつ安全にサービスを展開できます。結果として、より公平で透明性の高い金融業界をつくることにもつながっています。

AI時代を見据えた展望と「学び続ける」組織の姿

ーー今後の展開や注力テーマについて教えていただけますか。

ポールチャップマン:
AIの時代において最大の課題となる、プライバシーと信頼性の確保に注力します。信頼できるデータがなければ、AIを金融サービスに活用することはできません。直近では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)・三菱UFJ銀行との共同プロジェクトとして、OpenAI社のChatGPTと私たちのデータを連携させる機能を無償で提供し始めました。AIが過去の支出データを読み込み、不要な継続課金や無駄遣いを見つけて節約の助言を行います。将来的には、さらに専門性の高い助言ができるように工夫を重ねていく予定です。

ーー最後に、今後どのような方と働きたいとお考えですか。

ポールチャップマン:
生涯にわたって学び続ける姿勢を持てる方を求めています。私たちの事業は独自性が高いため、金融やソフトウェア業界の経験が必須というわけではありません。好奇心を持ち、新しいことを自発的に試行錯誤できる方を求めています。

また、私たちの会社は日系企業でありながら外国籍の社員も多く在籍する、非常に国際色豊かな組織です。社員同士が英語力に関わらず円滑に対話できているのは、翻訳技術の進化だけでなく、オープンなコミュニケーションの土壌があるからです。私たちが事業においても重視している「情報の透明性」を社内の仕組みとして徹底し、互いの文化や背景を尊重し合うことで、国籍や言語の壁を越えたチームワークを実現しています。開かれた信頼関係がある環境ですので、自身の腕を磨き続けたい方はぜひ飛び込んできてください。

編集後記

金融とテクノロジーが交差する領域で、利用者の視点に立ち続けるチャップマン氏の姿勢に深く感銘を受けた。利便性とプライバシー保護という一見相反するテーマを独自の技術と強い信念で両立させてきた軌跡は、多くのビジネスパーソンにとって大きなヒントとなるはずだ。AI技術がさらに進化していく中、同社が今後どのような新しい金融体験を我々に届けてくれることだろうか。同社の飽くなき挑戦はこれからも続く。

ポールチャップマン/オーストラリア・メルボルン出身。モナシュ大学でビジネス・金融・日本語を修め、cvMailを創業し2007年にトムソン・ロイター社へ売却。エン・ワールドITディレクターを経て、2012年にマネーツリー株式会社を共同創業。資産管理アプリに始まり、金融データプラットフォーム「Moneytree LINK」を展開。2025年8月に三菱UFJ銀行の連結子会社となり、金融データ活用で人々と金融機関の距離を縮め続ける。