
創業者の父が築いた基盤を受け継ぎ、従来のODM事業から自社オリジナル製品の展開へと事業の幅を広げている下西技研工業株式会社。設計から製造までをワンストップで担う強みを活かし、昨年開催された万博では自社技術を詰め込んだロボットを出展するなど、新たな挑戦を続けている。完璧ではない人間同士が協力し合う仕組みづくりや、失敗を恐れず行動する同社特有の「ブラウン運動」型の組織文化を育む、代表取締役社長の下西哲史氏に、同社のこれまでの歩みと今後の展望を聞いた。
事業の進化と他社にはない「強み」
ーー現在、貴社が展開している事業の強みはどこにあるとお考えですか。
下西哲史:
最大の強みは、お客様の困りごとに対して社内の技術者が直接提案を行い、設計から試作、そして自社工場での量産までを「ワンストップ」で対応できる点です。かつてはお客様の要望に応えて設計・製造を行うODM事業が主力でしたが、ここ7、8年は自社オリジナル製品の開発や販売にも注力しています。自ら製品を世に出す動きを始めたことで、今まで知り得なかった新しい市場やお客様へアプローチできるようになりました。
ーー自社技術を活かした新たな挑戦として、具体的にはどのような取り組みをされていますか。
下西哲史:
新たな挑戦の場として、大阪・関西万博に参加しました。万博では、大阪ヘルスケアパビリオンの『リボーンチャレンジ』という企画ブースに出展し、自社技術を詰め込んだロボットを披露したのです。これはモーターの力で動き、壁面・天井の鉄板に吸着と分離を繰り返しながら進むロボットです。出展現場は多忙を極めましたが、参加したメンバーからは「体は疲れたが心は楽しい」という感想が出るほど充実した経験となりました。企業の知名度向上にとどまらず、「自分たちの会社も面白いことに挑戦しているんだ」と、社員が自社に誇りを持てる重要な契機になったと感じています。
独自の組織文化「クリエイト」と「ブラウン運動」

ーー社員が誇りを持って活躍できる背景には、どのような組織づくりがありますか。
下西哲史:
私は「完璧な人間はいない」という前提で組織を組み立てています。一人ひとりに弱い部分や抜けている部分があっても、メンバーが互いに協力し合うことで、最終的にお客様へ価値を提供することが重要です。そのために、社員が自発的にベストパフォーマンスを発揮できる環境づくりに注力しているのです。
ーー自発的に動く環境づくりは、営業活動にどのように活かされていますか。
下西哲史:
営業面では、微粒子が不規則に動き回る物理現象になぞらえて、失敗を恐れず多方向へアプローチをかける「ブラウン運動」型の手法を実践しています。とにかくいろいろな方向へ積極的に動き回り、自ら接点をつくる地道な活動です。もちろん半分以上は失敗に終わります。しかし、100回試して10回、20回と当たれば十分なのです。失敗を織り込んだ上で新分野を開拓する姿勢こそが私たちの原動力であり、実際に幅広い企業様との取引を実現する要因となっています。
ーー前向きな姿勢を社内に浸透させるため、大切にしている考え方はなんですか。
下西哲史:
弊社の根底には「クリエイト(創造)」という価値観があります。これは、決して技術的な革新だけを指す言葉ではありません。現状に満足せず、新しいやり方を試す行動すべてを指しています。たとえば「どうすれば新しいお客様を見つけられるか」と工夫する営業担当者も、「これまで3時間かかっていた作業を1時間に短縮した」というバックオフィスの社員も、等しく「クリエイト」を体現しています。全社員がこの精神を共有することが、最終的にメンバーの物心両面の幸福へとつながっていくと信じています。
今後の展望と求める人物像
ーー今後の事業展開や目標をお聞かせください。
下西哲史:
事業面では、日本国内で築き上げてきた信頼と実績を基盤に、自分たちで企画したオリジナル製品を欧米などの海外市場へ展開していきたいと考えています。日本を飛び越えた挑戦ができたら楽しいですよね。また組織面では、全体を見渡せるジェネラリストや、次世代を担うリーダーの育成が急務です。すべてを一人で牽引する「蒸気機関車」のようなカリスマがいなくても、社員一人ひとりがモーターを持ち、全員の力で進んでいく「電車」のような組織を目指しています。
ーー「電車」のような組織を実現するために、求める人物像を教えてください。
下西哲史:
私たちの価値観や行動基準を定めた「コーポレートスタンダード」に共感し、共に会社を前進させてくれる方です。永続的にお客様に満足してもらうための仕事の仕方を、同じ気持ちで共有できることが不可欠です。新しいことへの挑戦と失敗を楽しみながら、弊社で最大限の力を発揮してくれる方をお待ちしています。
編集後記
飾らない言葉の裏には、個人の弱さを認め合い、互いを補完するチームの力で顧客満足を最大化しようとする深い信頼があった。試行錯誤を歓迎する独自の営業手法と、職種を問わず全社員に求められる「クリエイト」の精神。失敗を恐れない「ブラウン運動」の組織文化で社員の主体性を引き出す下西氏が率いる同社は、これからも国内外で新たな価値を生み出し続けるだろう。

下西哲史/奈良県出身。2007年、米ボストン大学大学院経営学修士修了。2017年、下西技研工業株式会社に入社。2019年取締役、2021年専務、2024年代表取締役社長に就任。