※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

昭和63年の創業以来、ステンレスをはじめとする金属リサイクル事業を中心に、産業廃棄物処理事業や土壌汚染調査・対策事業を展開する阪神金属興業株式会社。同社は、大手鉄鋼メーカーの敷地内に事業所を構えるという異例の歩みを経て成長を続けてきた。創業期の無給時代から約26年間、現場と営業の最前線を駆け抜けた代表取締役社長の川本泰行氏は、現在「働きやすさ」以上に「働きがい」を追求し、組織の見える化を推進している。先代から受け継ぐ「情」の経営信念と、カーボンニュートラルを見据えた未来への挑戦について話をうかがった。

創業期の苦闘と「現場第一主義」の原点

ーーまずは、創業期のお話からお聞かせいただけますか。

川本泰行:
私が21歳のときに叔父である先代から声がかかり、22歳で入社し、昭和63年3月の弊社立ち上げに向けて準備を始めました。当初はゼロからのスタートで、最初の3年間は給料が全く出ないという非常に厳しい状況でした。その後も、5年目くらいまでは月給が5万から10万ほどという生活が続き、両親に食事の面などで支えられているような状態でした。

ーーそこからどのようにして会社を成長させていったのですか。

川本泰行:
とにかくがむしゃらに動きました。私自身もトラックを運転して配送に当たる傍ら、現場作業と営業の両方をこなしていました。ときには、自分の車の前にステンレスをいっぱい積んだ他社のトラックが走っているのを見つけ、信号待ちの隙に飛び出して「そのステンレスを、ぜひ弊社に分けてください」と直談判したこともあります。最前線でお客様と向き合う日々を、約26年間続けてきました。

ーー会社にとって大きなターニングポイントとなった出来事は何でしょうか。

川本泰行:
住友金属工業株式会社(現・日本製鉄株式会社)の敷地内に事業所を開設できたことです。当時、阪神地区で事業所の場所を探していた先代が、たまたま住友金属工業の担当者を訪ねた際、「本気で探しているならうちを使え」と声をかけていただいたのです。弊社のような原料商が大手鉄鋼メーカーの敷地内に事務所を構えるというのは本当に異例なことで、これにより会社の信用力が一気に増しました。あの日、あの時、先代が訪問していなければ、今の姿はなかったと思います。

「情」の経営と組織づくり

ーー組織づくりにおいて、大切にされている考えはありますか。

川本泰行:
先代から学んだ「出すぎず、腐らず」という言葉を今も胸に刻んでいます。自分が出すぎてしまえば相手の嫌な思いにつながるし、自分が腐ってしまえば周りは誰もついてきません。さらに先代から、「お前は目配りや気配りはできている。けれど、『心配り』が足りないんじゃないのか」と言われたことがあります。目配りや気配りのさらに深いところにある、相手を思いやる「心配り」が何より重要だと考えています。

また、社員の短所は口にせず、長所を徹底的に伸ばす教育方針を大切にしています。私が昔お世話になった大先輩からは、「村八分でも、残りの二分の『情』を忘れてはいけない」と教わりました。無視されるような相手であっても、災害が起きたり不幸があったりした時には必ず助けてやらなければならない、という教えです。この「情」の心を忘れず、人としてどうあるべきかを考え続けることが、私たちの基盤になっています。

人間力を磨きリサイクルで未来へ貢献

ーー現在の事業内容と、その強みについてお聞かせください。

川本泰行:
弊社の事業は、大きく3つの柱で構成されています。まず主軸となるのは、全体の約9割を占める、ステンレスやレアメタルのリサイクル事業。それに加えて、回収した機械をメンテナンスして市場へ戻す機械整備(リユース)事業。そして最後が、土壌汚染対策事業です。

これらを展開する上で最大の強みとなっているのが、経営理念そのものである「人」の力です。現場でガス切断機や重機を扱う社員たちも、「会社や家族、社会のために貢献したい」と高い志を持って働いています。

私たちはこれまで、「働きやすい」だけでなく「働きがいのある会社」を目指してきました。社員を大切にする姿勢は、現場の「真心」として日々の作業に直結します。たとえば、新品の手帳を手に取ったとき、もしページの一部が折れ曲がっていたとしても、全体が寸分の狂いもなく丁寧に縫製され、細部にまで作り手の熱量が宿っていることが伝われば、人はそこに「真心」を感じ、製品としての価値を認めるものです。その丁寧さ、誠実さこそが「真心」であり、それがあって初めてモノは「製品」になります。

リサイクル事業で扱うスクラップは、言ってしまえば、ただの端材、廃棄物です。しかし、それを扱う社員が「どうせゴミだから」と適当に扱うのか、あるいは「次の命を吹き込む素材」として誠実に、命を吹き込むように加工するのか。そのプロとしての「手の跡(真心)」が残っているかどうかが、単なる「屑」か、次のものづくりを支える「価値ある原料」かを分ける境界線になります。こうした真心を込めた日々の積み重ねこそが、結果として弊社が提供する原料の品質、ひいては企業としての確固たる強みとなっています。

ーー今後の展望についてお話いただけますか。

川本泰行:
大きく分けて、組織基盤の強化、取引先の拡大と海外展開、そして環境貢献を見据えた設備投資の3点に注力していきます。

まず組織づくりとしては、何よりも現場の「安全」を第一に掲げています。かつては背中を見て学ぶような、感性で伝わっていた部分もありました。しかし時代も変わり、今は就業規則などをしっかりと書面化し、ルールの見える化を進めている最中です。

事業面に目を向けると、私たちが扱うのは日々価格が変わる相場商品です。だからこそ目先の売上や利益に一喜一憂せず、「昨年よりお客様の数は増えたか」という本質的な指標を大切にしています。既存のお取引先様との関係をさらに深めつつ、新規開拓にも地道に取り組む考えです。

そして2030年までには、大型設備の導入も視野に入れています。これは決して、自社の省人化だけを狙ったものではありません。お客様が、より短時間かつ低エネルギーで製鋼できる高品質な原料をつくるための投資です。たとえば、これまで90分かかっていた作業を70分に短縮できるような付加価値をお届けしたいと思います。お客様の潜在的なニーズを掴み、より良いものづくりを支えていく。その結果として、カーボンニュートラル社会の実現へ直接貢献していくことが私たちの使命だと捉えております。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

川本泰行:
これまでの経験は問いません。元気とやる気、気力さえあれば、会社が責任を持ってしっかり育てる方針です。弊社が大切にしているのは、仕事のスキルだけでなく「人間力」を磨くこと。人としてどうあるべきかを学び、成長できる環境でありたいと願うからこそ、毎朝の朝礼では、中村天風の「今日一日、怒らず、恐れず、悲しまず、正直、親切、愉快に、力と勇気と信念を持って頑張ろう」という格言を全員で唱和し、日々の積み重ねとして体得できるよう努めています。心根のよい仲間たちと切磋琢磨しながら、やりがいを持って働ける場所がここにあります。ぜひ一緒に、新たな価値を生み出していきましょう。

編集後記

創業期の壮絶な苦労を笑顔で振り返る川本氏の言葉からは、確固たる信念と現場への深い愛情が伝わってきた。特に印象的だったのは、「村八分でも、残りの二分を忘れてはいけない」というエピソードに象徴される、損得勘定を超えた「情」の深さである。効率化や目先の利益が優先されがちな現代において、あえて「人」と「真心」に重きを置き、長所を伸ばす組織づくりを推進する姿勢は、これからの時代に求められる企業のあり方を深く考えさせられる。カーボンニュートラルという世界的な課題に対しても、自社の強みを活かして真っ向から挑む阪神金属興業。その温かくも力強い歩みは、これからも業界を照らし続けることだろう。

川本泰行/1966年1月28日生まれ、大阪府出身。1988年に先代・夏山春夫の誘いを受け、阪神金属興業株式会社に入社し、金属(ステンレス)リサイクルの道へ進む。2018年に同社代表取締役社長に就任。鉄鋼メーカーと共に2050年カーボンニュートラルの実現に向けて邁進中。