※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

コロナ禍の厳しい環境を乗り越え、V字回復を遂げたポラリス・ホールディングス株式会社。2022年には売上高は40億円にも満たないところから、たったの4年で500億円規模へと急成長を遂げている。同社の代表取締役社長である田口洋平氏は、IT業界からホテル業界へと飛び込み、現場での運営業務と不動産ファンドでの投資業務の両方を経験したキャリアの持ち主だ。同業他社の大規模な買収や、売上高1000億円を目指す中期経営計画など、新たな一手を打ち出している。そんな躍進の背景と未来へのビジョンについて、同氏に話をうかがった。

ITコンサルからホテル業界へ 運営と投資の両視点を併せ持つことが強み

ーーまずは、ご経歴とホテル業界へ飛び込んだきっかけを教えてください。

田口洋平:
私は新卒で外資系ITコンサルティング会社のアクセンチュアに入社しました。金融機関向けのコンサルティングを担当し、数字やロジックが中心となる世界で4年ほど働きました。その後、自身の興味がある分野に挑戦したいと考えてホテル業界を選んだのです。ホテルビジネスには、食やデザイン、ホスピタリティサービスといった感性が問われる部分があります。同時に、投資というシビアな数字の部分も共存しています。経営効率や数字だけでは割り切れない消費者向けサービスの面白さと、投資の世界が両立している点に惹かれました。その後、大手リゾート運営会社へ転職したのが私のホテルキャリアのスタートです。

ーー現在に至るまでの歩みと、そこで培われたご自身の強みについてお聞かせください。

田口洋平:
リゾート運営会社では、軽井沢の現場に入り、清掃やチェックインといったサービス関連の業務を多岐にわたり経験しました。東京の本社に戻ってからは、旅館ブランドのマーケティングに携わりました。運営側を経験した後は、ホテルへ投資をする不動産ファンドの業界へ移り、約7年間ホテルの資産運用を経験しています。そのためホテルへ資金を投じる「ホテル投資としての視点」と、実際にお客様へサービスを提供する「ホテルの運営側の視点」の両方を併せ持っていることになります。

そして私は2020年に現在、弊社のスポンサーであり投資事業を担うスターアジアグループに籍を置きながら、その投資先でありホテル運営会社である弊社、ポラリス・ホールディングスへと出向する形で参画しました。現在はそこで社長を務めています。この2つの異なる立場から事業の機微を深く理解できていることが、経営において自身の大きな強みだと感じています。

コロナ禍の業績立て直しと大規模M&A 組織の完全融合で次なるステージへ

ーー貴社へ参画された当時のミッションは何でしたか。

田口洋平:
私が入社した2020年3月は、まさにコロナショックが始まった時期でした。当初はホテル以外の不動産案件も手がける予定でしたが、弊社が非常に厳しい環境に置かれたため、私がホテル事業本部長に就任し、店舗の閉鎖や家賃交渉など徹底的なコスト削減を行うことになったのです。

一方で、ただ縮小するだけではありませんでした。コロナ禍でホテル不動産の取引価格が下落したタイミングをチャンスと捉え、スターアジアグループが割安な価格でホテル不動産を取得し、弊社がホテルオペレーションを担う体制を構築しました。コストカットを進めながらも、新たなホテル案件への受託を増やし、将来の成長に向けた運営棟数の拡大を着実に進めていくフェーズだったといえます。

ーー将来の成長に向けて、具体的にどのような新たな一手を打ちましたか。

田口洋平:
大きな転換点となったのは、同業他社である株式会社ミナシアの買収を決断したことです。コロナ禍の終息が見え始めた2023年頃から検討を始め、2024年6月にミナシアと業務提携契約を締結し、同年12月に完全子会社化しました。弊社と買収先企業は当時同程度の規模であり、非常に難易度の高いM&Aでした。

こだわったのは、PMIプロセスをスピード感をもって推進することでした。親会社と子会社として別々に経営するのではなく、早期に組織を完全に融合させることです。経営陣から現場の部長陣まで両社のメンバーをまとめ、別々だったブランドもすべて「KOKO HOTELS」へ統一しました。この統合プロセスは2年がかりのプロジェクトでしたが、これを主導したことで会社の規模が倍増し、弊社が次のステージへ進むための大きな推進力となりました。

社長の役割は適材適所の組織づくり 本部機能の強化と直接予約増で収益向上

ーー現在の経営トップとして、ご自身の役割をどのようにお考えですか。

田口洋平:
私は2025年6月に代表取締役社長に就任しました。当時の最大の課題は、組織の統合を早期に完了させ、次の計画へ進むことでした。役員の中で私は最年少でしたが、コロナ後の拡大を牽引したことで、バックグラウンドも考え方も異なる役員たちをまとめ上げる役割を期待されたのだと思います。

私が経営者として大切にしているのは、組織づくりです。それぞれの人が最も強みを発揮できる場所に配置し、適材適所のポジションにつくことで、人のパフォーマンスは圧倒的に変わります。トップダウンではなく、チームの力で組織が機能し、最高のパフォーマンスを発揮できる状態をつくることこそが、私の最大の役割だと考えています。

ーー組織統合を経て、貴社の強みや独自性はどのように進化しましたか。

田口洋平:
最大の強みとして挙げられるのは、新規出店に対する柔軟な提案力です。単に決まったブランド基準に当てはまる案件だけを受けるのではなく、場所や条件に応じて付加価値のある提案を行ってまいりました。建築費が高騰する中においても、柔軟で収益性の高い提案を行うことで契約に至るケースが多く見受けられます。さらに、不動産領域に強みを持つスターアジアグループがスポンサーにいることで多くの案件相談が寄せられるという情報の優位性も持ち合わせています。

企業統合によって、この強みはさらに強固なものへと成長しました。規模が拡大したことで本社機能が強化され、人事や経理、IT、レベニューマネジメント、セールスなどの専門部署を分厚く構築することができています。各領域のプロフェッショナルが力を発揮できる環境が整い、チェーンとしての運営力が劇的に向上したことこそが、現在の成長基調へとV字回復を果たせた大きな要因となっています。

ーーチェーンとしての組織力向上をどのように収益拡大へとつなげていますか。

田口洋平:
現在、ホテル業界はオンライン旅行代理店(OTA)への依存度が高く、手数料負担が課題となっています。弊社では、統合によって強化されたマーケティング部隊を活用し、「KOKO HOTELS」の認知度向上に努めています。お客様に私たちのブランドや独自のサービスを知っていただき、直接予約をしていただく「指名買い」を増やすことで、手数料を抑え、収益性を高めていく戦略を推進しています。

売上高1000億円を目指す中期経営計画 新規出店と新ブランド設立で拡大へ

ーー「中期経営計画2030」で掲げる具体的な目標について教えてください。

田口洋平:
現在約500億円弱の売上高を、2031年までに1000億円に引き上げます。また、営業利益を100億円へと引き上げる目標を掲げています。達成のために最も重要なことは新規出店です。現在90数店舗で1万4000室強の規模を、150店舗で2万室へと拡大していきます。M&Aの機会も探りますが、基本的には自律的な成長で到達できる計画としています。

ーー新規出店に伴うブランド戦略の展開をお聞かせください。

田口洋平:
主力である「KOKO HOTELS」のブランドを集約・整理し、多様なニーズに応える4つのサブブランドを用意しました。より安く安心して泊まれるバジェット型の「エコノミー」、レジャーで満足感を得られる「プレミア」、アパートメントホテルタイプの「レジデンス」、温泉ブランドの「kokonoyu」など、多様なタイプを展開しています。一人のお客様でも出張や家族旅行などで求めるものは変わるため、そのすべてのニーズを受け止めるラインナップをそろえ、「KOKO HOTELS」の広がりを増やしていくことが目的です。

一方で、インバウンドやレジャー層の増加を見据えた高価格帯への挑戦も進めています。現在の「KOKO HOTELS」は平均単価8,000円から2万円程度の価格帯ですが、これを高価格帯のブランドまでを全てひとまとめにしてしまうと、お客様の中でブランドイメージに混乱が生じてしまいますそのため明確に枠組みを分けた上で、アップスケールホテルやライフスタイルホテル、旅館といったブランドを新設する予定です。

特に旅館は、インバウンドのお客様からの潜在的なニーズが非常に高いにもかかわらず、個人経営が多くチェーン化されたものが少ないため、需要と供給のギャップに大きなビジネスチャンスがあると捉えています。また、エッジの効いたデザイン性や独自のコンセプトを重視するライフスタイルホテルも、現代の旅行者の知的好奇心を満たす領域として積極的に注力していきます。

地域の魅力を発見する手伝いを“おだし”に込めた日本のおもてなし

ーーブランドの価値を高めるべく、ソフト面ではどのような差別化を図っていますか。

田口洋平:
いずれハード面での差別化は難しくなっていくと予想されます。だからこそ私たちは、その地域の魅力を発見していただくお手伝いを、ソフト面のコンセプトに据える方針をとりました。たとえば香川県の「KOKO HOTEL 高松」では、手づくりのうどんマップを掲示し、スタッフがお客様の好みに合わせて店舗をご案内する取り組みをしています。また山口県の「KOKO STAY 下関」におきましても、地元の酒蔵を集めた日本酒イベントを定期開催するなど、ホテルを起点としたツーリズムへと発展させています。

ーー全店舗共通で提供している独自のサービスはありますか。

田口洋平:
日本らしいサービスを考え、日本の「おだし文化」を体験していただこうと、お湯を注ぐだけで飲めるおだしの提供を全店舗で始めました。地域によって5種類の微妙に違う味を用意しています。おだしを提供しているホテルは珍しく、特にインバウンドのお客様には新鮮な体験として喜ばれています。

ーー最後に読者へ向けたメッセージをお願いします。

田口洋平:
ホテル業界は需要が確実に伸びている魅力的な成長産業です。弊社は事業規模の拡大や新しいブランドの立ち上げなど、世の中の変化を汲み取りながらスピード感を持って進化しています。インバウンドなどの需要を上手くつかんでいく中で、新たなチャレンジができる環境をつくることができています。会社が成長し新たなポジションが増えている今だからこそ、手を挙げた人には平等にチャンスが巡ってくるのです。新しいことに挑戦し、変化を楽しみたい方にとってこれほど面白い環境はないと確信しています。

編集後記

取材を通して見えてきたのは、精緻な戦略の裏にある「人への温かな眼差し」だ。困難な状況を事業拡大の機と捉え、果敢に攻め続けた強さを持つ一方で、田口社長の言葉の端々からは、社員一人ひとりの持ち味を最大限に引き出そうとする深い信頼が感じられた。地域の飲食店を紹介する取り組みや、ホッと心安らぐおだしの提供など、効率化の波に逆行するような手触りのあるおもてなしには、真の顧客体験を追求する強いこだわりが息づいている。スピード感を持って変化を楽しむポラリス・ホールディングス株式会社が、これからどのような新しい景色を見せてくれるのか。その躍進に大きな期待を抱かずにはいられない。

田口洋平/ポラリス・ホールディングス株式会社代表取締役社長。ITコンサルティング、ホテル運営、ホテルリート運用企業などを経て、ホテル開発・運営の両面に携わる。2022年よりポラリス・ホールディングスの取締役として運営・開発事業を統括し、2025年より現職。(※役員一覧)