
包帯や脱脂綿をはじめとする衛生材料は、医療現場での患者のケアや治療に欠かせない重要な商品であり、その品質と安定供給が重視されている。1951年設立の大衛株式会社は、衛生材料を扱う老舗企業として長年にわたり医療業界を裏方から支えてきた。同社の三代目社長である加藤優氏は、創業家に生まれ、家業の基礎を守りながらも、市場のニーズを見据えた抜本的な組織改革を実行。近年は開発難易度が高く付加価値のある医療機器開発へと事業をシフトし、社内の縦割りを打破する横断的な人材育成にも注力してきた。古い慣習にとらわれず新しい価値を創出し続ける加藤氏に、これまでの歩みと未来構想について詳しく話を聞いた。
人生の転機となった先達の言葉
ーー家業を継ぐことになった経緯を教えてください。
加藤優:
私は子どもの頃から「優くんは跡取りだから」と言われて育ち、家業を継ぐことは常に頭の片隅にありました。ただ、実際に継ぐ予定はなく、大学院修了後は製薬会社に入ることを考えていましたが、最終的には伊藤忠商事に就職しました。中小企業が縮小していく中で、高い技術を持つ会社を海外に展開し、認めてもらうチャンスをつくりたかったからです。結果としてこの時の知見は、後に自社での新商品開発にも大きくつながりましたね。
その後、商社でのキャリアを積み始めていた矢先に祖父が亡くなり、それをきっかけに家業を継ぐことを真剣に考え始めました。葬儀の際に、創業当時のメンバーから「大きな会社は優くんがいなくてもやっていけるけど、この会社は創業家が守っていくしかないよ」と言われたのです。今なら親族が継承する以外の選択肢もあったかもしれませんが、当時はその言葉に深く納得しました。
そのことを父に相談すると、「この規模の会社だったら、自分のやりたいことを実現していけるよ」と背中を押してくれました。父の言葉は遠慮気味な勧誘だったのかもしれませんが、大いに励まされるきっかけとなっています。一から立ち上げるベンチャー企業は資金が行き詰まったら終わりですが、家業が培ってきた歴史と信頼をベースにすればさまざまなことが実現できると感じたのです。実際、多くの新しい挑戦をする中で、会社を継いだ時に思い描いた取り組みが形になっています。自分のやりたいことを実現していく楽しさをかみしめる毎日です。
ーー商社での経験は現在の経営にどう活きていますか。
加藤優:
一番学んだのは、組織は全員が同じゴールを目指すとは限らない点です。多くの社員は自分の働きで会社の利益を最大限にしようとは思わず、与えられた仕事でそれなりの評価を狙います。そのうえ前職では、部署間の利益が相反する場面を数多く目の当たりにしました。そこから組織が抱えうる構造的な課題を深く考えるきっかけを得たのです。
そうした環境から縦割り組織のデメリットを思い知らされました。現在は私自身が経営者であるため、当時の経験をもとに組織づくりを進めています。社員全員が同じゴールを目指せる体制の構築に向けて、歩みを止めることはありません。
家業に戻って知った会社の実態と組織改革
ーー家業に入ってから最初に着手した課題は何でしたか。
加藤優:
200人規模の小さな会社でありながら、何をするにも書面で提出するなど、見事なまでに縦割り組織になっていました。部署同士が互いの業務を全く把握していないのです。それが会社の成長を根本から阻害していると感じました。良い人材がたくさんいるのに活かしきれておらず、非常にもったいない状況だったのです。中小企業の利点である機動力も失われていました。そのため、縦割り意識の打破を第一の課題に掲げています。その課題解決に向けた施策の実践に、市場開拓とともに力を入れて取り組むことになりました。
ーー縦割りの組織を打破するために実行した施策を教えてください。
加藤優:
それぞれの職務を横断的に理解し、現場を知る機会を積極的に設けました。新製品を形にする際、現場のニーズだけを追求すると、製造ラインの構造上で不良品が出やすくなるケースがあります。それを防ぐため、開発担当者が三重県津市にある自社工場へ足を運び、製造工程を直接確認する取り組みを始めました。製造側の都合やノウハウを吸収し、どこで問題が起きやすいかを学ぶことで、品質と生産性を両立できる設計が可能になります。
また、購買や品質管理の担当者が開発チームの業務に関わることもあります。逆に全く違う部署の人間が営業と一緒にお客様のもとへ同行し、現場の生の声を聞く機会もつくりました。こうした連携により人間関係が構築され、部署間の垣根を越えた相談が日常的に行われるようになっています。結果としてマルチな能力を持った人材が育ち、当社の大きな強みへと進化しました。
現場のニーズを汲み取る人材育成と採用ブランディング

ーー若手社員の横断的な育成体制についてお聞かせください。
加藤優:
新卒採用においては、営業職として一からたたき上げて育てる手厚い文化が根付いています。入社直後から約3ヶ月間に及ぶ綿密な研修プログラムを用意しており、まずは社会人としての基礎を徹底的に指導します。その後、先輩の営業同行を通じて、病院などのお客様が何を求めているのかなど、現場の状況を肌で感じてもらいます。基礎知識を身につけた後は、津工場で製造現場の研修を実施します。お客様がどのように製品を使っているのかを知った上で工場を見ることで、厳格な品質管理の重要性が初めて理解できるからです。
さらに入社から半年ほど経過したタイミングで本社に集まり、プレゼンテーションを実施します。知識や営業スキルについての現状を確認し、各自の強みや課題を浮き彫りにするのです。一律の教育ではなく、一人ひとりの個性に向き合ってフィードバックを行っています。本社にある営業企画チームからの側面サポートも手厚く行い、独り立ちできるまで約1年半をかけてじっくりと育成する方針です。
ーー採用活動と求める人物像についてうかがえますか。
加藤優:
数ヶ月前に、新卒採用向けの会社説明会を根本から見直しました。以前は私たちが伝えたい情報を一方的に話す傾向がありました。それを、学生が本当に聞きたい視点へと全面的に刷新したのです。資料を一からつくり直し、“自社よがり”の説明を排除した結果、学生からの反応が劇的に向上しました。現在の採用市場では、内定を出しても辞退されるケースが珍しくありません。ですから、最初の接点である説明会でどれだけ当社の魅力を伝え、共感してもらえるかが重要です。採用ブランディングの視点を強化し、理念に共感してくれる人材を集める環境を整えています。
求める人物像としては、大きく分けて3つのポイントがあります。第一に誠実な人であること。第二に、周囲の変化に気づける人です。お客様が今何に困っているのかを鋭く察知し、的確な質問ができる洞察力は欠かせません。第三に、人とのお付き合いを大事にできる人です。弊社では、医療現場の方々との信頼関係の構築がすべての基本となるためです。現在、会社が急速に成長しており、さらなる飛躍に向けて営業体制の強化が急務となっています。とくに首都圏で活躍できる若手営業職の方々に、ぜひ当社の門をたたいてほしいですね。
高付加価値化による事業転換と製品開発
ーー現在の事業の主力分野は何でしょうか。
加藤優:
創業当時はガーゼや脱脂綿、包帯を中心とした衛生材料を扱っていました。その後、日本で初めて生理用ナプキンを製造し、女性用品に注力した時期もありますが、大手メーカーの参入によって撤退してからは、産婦人科向けの商品を中心に展開してきました。
現在は主軸を明確に病院向けへと据えており、全体の売上高の約8割を占めています。現在の開発思想の二大軸は、「手術室消耗品」と「感染対策商品」です。たとえば手術用の「セルフガウン」は、血液などの感染性物質から医療従事者を守るバリア機能と通気性を兼ね備えています。また、体温保持を目的とした「ラパホット」など、医療を一歩前に進める製品を生み出してきました。
ーー付加価値の高い医療機器開発へのシフトについてお聞かせください。
加藤優:
これまでは薬事分類上で「クラスⅠ(不具合が生じた場合でも人体へのリスクが極めて低いとされる医療機器)」や「雑品」に該当する製品が中心でした。しかし当社には、ISO規格に則った工場ラインなど、医療機器を取り扱うための高度な社内体制が整っています。この環境を最大限に活かし、近年は付加価値の高い「クラスⅡ」や「クラスⅢ」の医療機器開発へシフトしています。中途採用で外資系医療機器メーカー出身のベテランを招き入れ、社内メンバーの知見を融合させることで、開発体制の底上げを図ってきたのです。
ーー現在推進している新たなプロジェクトの狙いを教えてください。
加藤優:
私たちは、世の中にない医療機器を開発することで医療を一歩前に進めることを大切にしています。これまでの治療や診断のやり方を、根本から変えるようなインパクトを持つプロジェクトが複数動いているところです。特定の診療科において、医療現場の課題を解決する全く新しい価値を提供できると確信しています。
産婦人科以外でも一目置かれる存在へ
ーー現在の業績推移と直近の目標をお聞かせください。
加藤優:
以前は50億円ほどの規模で長年推移していましたが、新たなジャンルへの挑戦が着実に実を結んでいます。昨年に68億円を上回る売上を記録し、直近は72億円ベースと年率6パーセントほどの成長を続けています。この勢いを維持し、いち早く売上高100億円という大台に到達することが現在の目標です。数字はあくまで市場からの評価の結果に過ぎません。売上高が倍になるということは、それだけ私たちが医療現場に貢献できる組織になっている証拠だと考えています。
ーー今後の展望や目指す未来像についてうかがえますか。
加藤優:
海外展開でいうと、ベトナム拠点はこの数年で一段と大きく成長しています。日本の高度な透析やマイクロカテーテルなど、現地にはまだない付加価値の高い製品を提供し続けることで、現地の病院との関係性はますます強固なものになりました。また、国内市場に目を向けても、産婦人科領域における「アメジスト」ブランドは圧倒的なご支持をいただいています。
しかし、そこにとどまるつもりはありません。他の領域においても、「大衛といえばこの尖った商品」と他領域の医療現場からも一目置かれるオリジナルメーカーを目指しています。他社には真似できない、現場の真のニーズに応える付加価値の高い商品を一つひとつ積み上げていきます。
編集後記
取材を通して最も印象に残ったのは、医療現場の真のニーズに向き合う加藤氏の圧倒的な熱量である。大手商社で培った冷静な分析力を持ち合わせながらも、その言葉の端々からは「世の中にないものをつくり、医療の常識を変えたい」という確固たる信念が溢れていた。部署の垣根を越えて社員一人ひとりが現場の肌感覚を共有する組織文化は、まさにその情熱を具現化する原動力となっている。100億円企業へと力強く歩みを進める同社が、次にどんな革新的な製品で医療の最前線を驚かせてくれるのか。その未来が今から楽しみでならない。

加藤優/1986年生まれ。京都大学薬学部薬学科修士課程を修了。大学院修了後の2010年に伊藤忠商事株式会社に入社。インド駐在として日本企業のインド進出などを担う。大衛の事業を継ぐ予定はなかったが、実質的な創業者であった祖父の死をきっかけに、2014年に大衛株式会社に入社。少子化に伴う業績悪化を立て直すべく、事業ポートフォリオの見直しや、経営改革を実行し、8年連続の増収を達成している。2021年6月より現職。