※本ページ内の情報は2026年9月時点のものです。

福岡を拠点に、コンクリート二次製品の製造・販売から建設、不動産までを手掛ける「TASUICHI GROUP」の中核企業、株式會社九コン。同社はかつて45億円の債務超過を抱え、極めて厳しい経営状況にあった。その危機を乗り越え、単なるコンクリート二次製品の提供にとどまらず、自社で土地の開発から施工までを完結できる総合建設業への変革を牽引したのが、代表取締役の下瀬裕一氏である。オーストラリアでの原体験や地道な下積み時代を経て、独自のワンストップ体制を構築した下瀬氏。スポーツを通じた地域貢献がもたらす好循環と、自身の代で「創業100周年」を目指す未来への展望に迫る。

オーストラリア留学から家業再建と新たな事業構築への軌跡

ーーまずは、キャリアの原点をお聞かせください。

下瀬裕一:
原点は、創業者である祖父から受けた影響にあります。おじいちゃん子だった私は、小学5年生の頃にはすでに家業を継ぐことを意識していましたが、その一方で2代目である父親とは「真逆の人生を歩みたい」という思いも抱いていました。そこで、親からの勧めもあって高校生の時にオーストラリアへ渡ったのです。現地の高校、大学、仕事と経験しながら、サッカーのクラブチームを自ら立ち上げてスポンサーを探すなど能動的に行動し、旅行会社で自ら企画したプランを形にする機会にも恵まれました。

さらに大きな収穫だったのは、高い志を持つ人々との出会いです。世界トップクラスのプロスポーツ選手や世界的企業の経営陣などと接する中で、これほどまでに意識の差があるのかと痛感しました。あのときの出会いや行動した経験がなければ、今の私はありません。そんな、オーストラリアで物事を広く俯瞰する視野を培えたことが、現在の土台となっています。

ーー家業である貴社に入ってからは、どのような業務に就きましたか。

下瀬裕一:
弊社に入社後は、まず現場へ入って会社の仕組みを徹底的に学ぶことから始めていき、その後は10年近く営業として地道に駆け回りました。この期間は業界の構造を末端から理解するための重要な下積みだったと思います。

その後、2013年に社長へ就任したのですが、当時の弊社は45億円の債務超過を抱えていました。厳しい経営環境ゆえにたくさんの理不尽な要求を受けることもありましたが、とにかく耐えて「我慢」するしかありませんでした。どうすれば会社が自立し、生き残れるのかを常に模索し想像しながら過ごしていたと思います。当時の思い出としては、この様な経験が若い時に出来たこと、そしてこれを打破出来れば私にとっての強みになるであろうと勝手ながらに鼓舞しながら日々を過ごしていました。この時の経験は、一生忘れない事でしょう。

川下から川上へ 業界の常識を覆すワンストップ体制の構築

ーー現在はどのような事業展開でビジネスを構築されていますか。

下瀬裕一:
「コンクリートの製品屋」からの完全な脱却を目指し、独自のワンストップ体制を構築しています。製品を販売するだけでは建設業界の川下に位置づけられ、企業価値の抜本的な向上は望めません。そこで、不動産事業を新たな柱として立ち上げ、現在ではコンクリート二次製品の製造から販売に加えて、建設工事、不動産の4事業を展開する総合的な建設会社へと成長を遂げています。

その上で最大の強みは、土地の開発という川上の領域から入り、土木や建築、そして建設資材の提供までを自社で完結できる点にあります。下積み時代に現場を知り尽くした私の経験が全体を俯瞰した提案に活きており、最近では、これまでにはご縁のなかった大手外部企業から協業の声をかけていただく機会が増えています。単価の叩き合いといった価格競争に陥らないビジネスモデルが確立しつつある状況です。

創業100周年に向けた人間力の育成と地域共創の未来

ーー組織づくりと、現在注力されている取り組みについてお聞かせください。

下瀬裕一:
まず組織づくりにおいては「人間力を高める」ことを重視し、挨拶をはじめとする当たり前の行動を徹底しています。技術は後から身につくため、まずは人間的な土台が欠かせません。同時に、社員にとって働きやすい環境づくりにも注力してきました。実際、中途入社の社員から「もっと早くこの会社に出会いたかった」と言葉をもらえたときは、経営者としてこの上ない喜びを感じますね。

また、サッカーチームなどのスポーツ支援を中心とした地域貢献活動にも取り組んでいます。これが単なる支援にとどまらず、新たな企業とのご縁ができ、結果としてビジネス機会の創出や採用力の強化へとつながる思いがけない好循環が生まれています。将来は福岡市内に自前のグラウンドをつくるという夢があり、この好循環の先で必ず実現できると確信しています。

ーー事業と地域貢献が生み出す好循環の先に、どのような未来を描いていますか。

下瀬裕一:
川上から川下までを完結するワンストップ体制のピースは着実にそろっており、向こう5年以内にはこの組織の完成形を盤石なものにする手応えを感じています。

私は三代目にあたりますが、自身の代で「創業100周年」を迎えるという揺るぎない覚悟を持っています。そのためには、同じ方向を向き、ともに人間力を高め合いながら新しい歴史を築く仲間が不可欠です。今後も事業の変革と地域との共創を通じて、社会に大きなワクワク感とインパクトを与えられる企業へと成長し続けていきます。

編集後記

絶望的ともいえる巨大な負債を前にしても、下瀬氏は決して逃げなかった。痛烈に伝わってきたのは、理不尽な状況下で耐え難い「我慢」の時期を現場でくぐり抜けてきた者だけが纏う、圧倒的な熱量と覚悟である。利益や目先の数字だけを追うのではなく、心からスポーツを愛し、純粋な思いで地域との熱い繋がりを生み出していく姿勢が非常に印象的だった。そこで生まれる思いがけない出会いや好循環を信じる力こそが、株式會社九コンを前進させる最大の推進力なのだろう。若手や中途社員が「もっと早く(九コンに)出会いたかった」と惚れ込む環境の中で、彼らがこれから社会にどのようなインパクトを与えていくのか。大きなワクワク感とともに、同社がつくり出す「新しい100年」の景色をこれからも追い続けていきたい。

下瀬裕一/1978年3月生まれ。Central Queensland University中退。高校から豪州に留学し、在学中に現地の旅行会社に勤務した。スポーツではラグビーからサッカーに転向し、Mitchelton FCなどで5年間プレー。クイーンズランド州のゴールド・コーストでは、リーグ初の日本人チームJackaroos FCを創立。企業価値を高める一環として、スポーツを通じた社会貢献に注力している。2003年に株式會社九コンに入社し、2013年に代表取締役就任。