
化粧品会社、リクルートを経て、美容業界の構造改革に取り組む株式会社ファイブスターの佐久間正之代表。同氏は、美容師が抱える過酷な労務環境を「逆算経営」によって改善し、経営母体の集約とクリエイティブの分業を図る「LVMH構想」を掲げて業界を牽引している。「日本の美を世界の文化へ」という大義のもと、10年で500店舗展開を目指す同氏に、これまでの軌跡と未来への展望を聞いた。
「悔いのないよう全力で生きる」覚悟から見えた美容業界を変革する使命
ーー起業を決意された経緯を教えてください。
佐久間正之:
24歳のときに経験した、人生の大きな決断がきっかけです。新卒で化粧品会社に入社し、卸部門の営業として働いていたのですが、当時、私には「将来自分のブランドをつくって世界に展開したい」という夢がありました。しかし、働いていく中で希望するメーカー部門への異動が実質的に不可能だとわかったのです。さらに同時期にプライベートでの悩みも重なり、深く葛藤していました。
その時、会社経営をしていた父の顔が思い浮かび、「ここで終わるわけにはいかない」と踏みとどまりました。そして「生きるなら、死ぬ気で生きて人生を全うしよう」と覚悟を決めたのです。これからは社会に貢献し、自らの手で人生を切り拓きたいと考え、起業の道を選択しました。そこでまずは独立を前提とした成長環境を求め、事業立案などを学べるリクルートへ転職し、起業への準備を進めました。
ーー当初から美容室の経営を考えていたのでしょうか。
佐久間正之:
起業を決めたタイミングでは具体的な事業内容は明確に決まっていませんでした。具体的な道筋が見えたのは、リクルートで「ホットペッパービューティー」の担当となり、美容室の広告支援に関わってからです。そこで、低賃金や長時間労働、社会保険の未整備、産後復帰がほぼできないといった、美容業界の過酷な労務環境を目の当たりにしました。経営者も従業員も悩み、お客様の髪に真剣に向き合えない現状を変えたいと強く思い、労務環境の改善と美容師の社会的地位向上を目標に掲げて起業しました。
ーー労務環境の改善は、具体的にどのように実現されたのですか。
佐久間正之:
行き当たりばったりな「職人経営」からの脱却です。当時の美容業界は、経営管理が個人の感覚に依存している傾向がありました。そこで私は徹底的に数字と向き合いました。高い給与、月8日の休み、社会保険完備、そして産後復帰100%を叶える収益構造から「逆算」したのです。その目標実現のために必要な物件選びや内装設計、集客設計などを構築していきました。
ーー店舗展開の戦略についてお聞かせいただけますか。
佐久間正之:
出店は、東京ではなく海外のシンガポールからスタートしていますが、これは最も難易度の高い環境で成功モデルをつくるためです。通常は東京からスタートして地方や海外へ展開するのが一般的です。しかし、経営が難しい海外で実績をつくれば、その後の展開を円滑に進められると考えました。シンガポールでは全席半個室とし、日本人スタイリストのみを配置しました。結果として日系サロンで最大規模に成長させることができたのです。その後、地元の福島県でも実績を築き、東京に進出するというルートを辿りました。
経営母体の集約とクリエイティブの分業で実現する「LVMH構想」

ーー貴社が掲げる「LVMH構想」を具体的に教えてください。
佐久間正之:
1つの会社(経営母体)がテイストの異なる複数のトップブランドを保有し、経営のサポートを本部が一括して行うことで、各ブランドのクリエイターがクリエイティブに専念できる分業制の構想です。従来の美容業界は、ブランドごとに経営者が違うため、労務や法務などの経営効率が非常に悪いという課題がありました。そこで、経営はMBAを取得した私が担い、クリエイティブは実績あるプロに任せる形をとりました。現在、社内には韓国トレンドヘアに特化した「uni(ユニ)」や、美容師のミシュランと呼ばれる「KAMI CHARISMA(カミカリスマ)」を受賞した美容師が複数在籍する「MUKU(ムク)」など、異なる個性のトップブランドが共存しています。
ーー分業制にすることで、現場にはどのような利点があるのですか。
佐久間正之:
メリットは、美容師が顧客へのサービス提供に集中できることです。採用や集客、事務作業などは、すべて本部が一括して仕組み化しています。そのため、美容師は自身の技術向上やデザインの探求に専念できます。この環境づくりが、質の高い顧客体験を生み出す基盤です。
「日本の美を世界の文化へ」 10年で500店舗を目指して
ーー今後の展望についてお聞かせください。
佐久間正之:
10年後までに全国500店舗を展開することです。私たちは「日本の美を世界の文化へ」という大義を掲げています。日本人の美容技術や美的センス、精神性は世界トップクラスです。現在、SNSを見た訪日外国人の方が多数来店されており、この流れをさらに拡大させ、日本へ旅行するたびに全国各地の店舗で髪を切るという体験を創出したいのです。さらに今後は、地方の食材や地酒など、美容以外の領域でも「日本の美」を発信していく事業を視野に入れています。
ーー最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。
佐久間正之:
弊社のミッションは「いい帰り道をつくりたい」ということです。顧客はもちろん、従業員や関わるすべての人が、幸せな気持ちで帰路につける存在でありたいと願っています。「日本の美を世界の文化へ」という志に共感し、日本を代表する企業をともにつくり上げる仲間を広く求めています。新卒や中途採用、フランチャイズパートナーなど形態は問いません。自分の可能性に挑みたい方は、ぜひ一緒に新しい歴史をつくりましょう。
編集後記
美容業界の構造的課題に正面から向き合い、論理と情熱で変革を推し進める佐久間正之氏。24歳で決心した「死ぬ気で生きる」という覚悟が、緻密な逆算経営と事業展開の原動力となっていることを強く感じた。関わる人々の「いい帰り道をつくりたい」という温かいミッションを胸に、「日本の美を世界の文化へ」という壮大な大義へ突き進む同社の姿は非常に魅力的だ。業界の枠を超え、世界へと躍進していくファイブスターの未来に期待したい。

佐久間正之/福島県郡山市出身。FIVESTARグループ代表。2013年に株式会社ファイブスターを設立し、国内外で約60店舗の美容サロンを展開。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。著書『サロンMBA』。LEVI’S S506XXEでギネス世界記録™を取得し、「SAKUMA DENIM ARCHIVE」を主宰。VIDEO PODCAST『人生最大のベストバイ』ではMCを務め、美容経営を軸に経営と文化を横断して活動する。