
株式会社ディーアクトで代表取締役社長を務める松田久氏は、1985年にダイハツ工業株式会社へ入社。商品企画や海外事業、他社との協業など幅広い分野で実績を重ねてきた。その後、2019年に同社の前身企業へ出向。社風もシステムも全く異なる関連会社3社の経営統合を主導し、現在の株式会社ディーアクト発足へと導いた。自動車産業が「100年に1度」の大変革期を迎える中、同社はAI技術の導入や組織風土の抜本的な改革を推進している。保守的な指示待ちの姿勢から脱却し、自律的に動ける組織の構築を目指す同氏に、次世代に向けた展望を聞いた。
異文化の融合から学んだ組織をまとめる本質
ーー貴社の前身企業に出向された経緯と当時のミッションをうかがえますか。
松田久:
関連会社3社を合併させ、現在の「ディーアクト」となる新たな会社をつくるという特命を受けたことが契機です。私は1985年にダイハツ工業株式会社に入社し、商品企画を長らく担当しました。その後、海外事業の立ち上げや他社との共同企画、経営企画など、さまざまな部門を経験しています。転機となった2019年、弊社の前身企業へ出向しました。しかし、社風が全く異なる会社をまとめる作業は想像以上に困難でした。親会社からの資本形態も異なり、人事や社内システムもバラバラだったからです。
ーーシステムや社風が異なる組織をどのように統合へと導いたのでしょうか。
松田久:
1年以上の時間をかけ、システムを統合する部門横断のプロジェクトを立ち上げました。無理に急がず、各社のメンバーを混合して参加させたことが工夫点です。出身が違うメンバー同士が1つの目標に向かって動くことで、徐々に連帯感が生まれました。結果として出身会社ごとの派閥はなくなり、組織がまとまる大きな契機となっています。統合により技術的な相乗効果も生まれました。弊社の前身企業が持っていた自動車の土台となるプレス技術に、合併した会社の鈑金技術が組み合わさったのです。これにより、少ない設備投資で効率的な生産体制を構築するという強力な強みが確立されました。
「指示待ち」の姿勢を打破し自律を促すマネージャー研修

ーー新たな強みを持つ一方で、歴史ある企業ならではの課題はありましたか。
松田久:
親会社からの指示通りに動けばよいという、保守的で受動的な風土が最大の課題でした。自動車産業全体が大きく変化する中、言われたことをこなすだけでは生き残れません。独自の強みをつくり、提案型の組織へ変わる必要がありました。そこで、社員の「指示待ち」の意識を変え、主体的に動ける組織への改革に取り組みました。具体的には、若手社員を新しいプロジェクトの中心に抜擢し、正解がない中で自ら考えさせる機会を設けたのです。
ーー管理職層への人材育成はどのように実践されましたか。
松田久:
数年前からマネージャー研修を強化し、段階的な意識改革を図っています。若手だけを引き上げても、上司が保守的なままでは新しい芽を摘んでしまうからです。まずは基礎的なマネージャー研修から始め、グループディスカッションを取り入れるなど徐々に水準を上げました。さらに、グループ全体で行われる合同の管理職研修にも参加しています。各社の同世代が集まる場で、互いの苦労や工夫を情報交換できたことは、彼らにとって非常に良い刺激となりました。こうした地道な教育の積み重ねで、少しずつ自ら考えて動ける人材が育っています。
AI時代のモノづくりと未来を拓く「可能性思考」
ーー製造業におけるAI技術の導入にはどのように取り組んでいますか。
松田久:
今年(2026年)2月に、AI活用のための部門を横断した組織を立ち上げました。知識を深めれば深めるほど、AIが製造業において極めて有効だと分かったからです。ただし、私たちが目指すのは単なる自動化や効率化ではありません。AIができるのは、過去のデータを分析して改善を提案することまでです。その提案を基に、これまでの常識を乗り越える改革を起こすのは人間にしかできません。だからこそ、創造的な発想で改革を牽引できる人材が必要なのです。
ーー改革を牽引する人材には、具体的にどのような素養が必要だとお考えですか。
松田久:
「可能性思考」を持つ人ですね。私が大切にする言葉に、東海道新幹線の生みの親と呼ばれる島秀雄氏の言葉があります。「『できない』と証明するには何千何百とある方法論の全てを『できない』と証明しなければならない。しかし、できる可能性はたった1つの方法を見つけ出せばいい」というものです。社員にも常にこの可能性思考でいてほしいと伝えています。「できません」とすぐに諦めるのではなく、どうすればできるのかを考え抜く姿勢です。これからの時代を生き抜くには、言われたことをこなすだけでなく、自分たちが信じるより良い方法を提案する力が求められます。私たちの挑戦に共感し、一緒に働くことを心から楽しめる方と出会えるのが楽しみです。
ーー可能性思考を持つ社員たちとともにどのような会社像を描いていきたいですか。
松田久:
親会社の指示に従うだけでなく、より競争力の高い製品をつくる方法があれば、積極的に提案できる会社を目指します。それが結果的にグループ全体の利益につながるはずです。また、弊社は設立当時からSDGsや地域貢献活動にも積極的に取り組んでいます。地域社会とともに成長し、20代の世代からも自然と新たな提案が上がるような、活気に満ちた自律的な組織をつくり上げていきたいですね。
編集後記
強く感じたのは、次世代を見据えるトップの揺るぎない覚悟と、社員に対する本質的な期待だ。AIの進化を冷静に見極めつつも、壁を乗り越えて改革を起こすのは結局「人」であると語る言葉には、血の通った温かさがあった。現状に甘んじることなく「可能性思考」で未知の領域へ踏み出そうとする同社。不可能を可能にする思考を持った新たな仲間たちが加わることで、どのような未来が描かれていくのか、今後の飛躍に大いに期待が高まる。

松田久/1962年、岩手県生まれ。中央大学卒業後、1985年にダイハツ工業株式会社へ入社。商品企画や海外事業に携わった後、明石機械工業株式会社への出向、葵機械工業株式会社の取締役副社長、株式会社川村金属製作所および株式会社カワムラ九州の代表取締役社長に就任。2021年8月の3社統合により発足した株式会社ディーアクトの代表取締役副社長を経て、2022年より代表取締役社長に就任。マレーシア合弁会社IATSB社外取締役も務める。