
1966年に関西で誕生して以来、警備業のパイオニアとして社会の安全を支え続けてきた東洋テック株式会社。機械警備や常駐警備のみならず、ビルメンテナンスや不動産事業など幅広い領域へ事業を拡大し、独自の総合力を築き上げている。近年では大阪・関西万博での大規模警備を成功に導くなど、その現場力は高く評価されている。長年勤めた銀行から転身し、同社の経営トップに就任した竹野讓氏に、異業種から得たマネジメントの視点や、最新テクノロジーと現場力を掛け合わせた今後の展望について詳しく伺った。
異業種でのプロジェクト経験が育んだ、組織を束ねるリーダーの視点
ーーまずは、これまでのご経歴について教えてください。
竹野讓:
1986年に、大和銀行(現・りそな銀行)に入行しました。一般的な就職活動を経て入ったわけではなく、当時社会人野球チームがあり、その一員として迎えられたのがきっかけです。そのため、20代の頃は勤務時間の大部分が野球という生活を送っていました。一方で、大学時代に理系を専攻していたこともあり、システム開発などの業務にも携わりました。38年間の銀行員生活を振り返ると、営業部門、本部部門、そして合弁会社の立ち上げや合併といったプロジェクト業務を、およそ3分の1ずつ経験してきました。結果として、さまざまな局面を体験できたことは、自分にとって大きな財産になったと感じています。
ーーご経験の中で、特に現在の経営につながった気づきにはどのようなものがありますか。
竹野讓:
合弁会社の立ち上げや合併などのプロジェクト業務を通じて得た学びが非常に大きかったです。チームで取り組む仕事において、メンバーのベクトルが一つにならないと物事は進みません。すべて期限が決められている仕事であり、「いつか良いものができればいい」というわけにはいかないのです。目標に向けてチーム全員で力を合わせることの難しさと、それを達成したときの喜びを肌で感じました。また、魅力的なリーダーのもとで働く機会にも恵まれました。リーダーが目指すべき方向をしっかりと示すことの重要性を実感し、それが現在の私の仕事における考え方のベースになっています。
ーー多くの社員を束ねてきた中で、組織運営において注力されたことを教えてください。
竹野讓:
数百人規模の組織になると、一人ひとりと頻繁に1対1で対話することは困難になります。しかし、人はさまざまな媒体や切り口から繰り返し聞いた言葉こそ、記憶に残りやすいものです。そのため、朝礼や会議などあらゆる場面で、自分の価値観や組織として目指すべき方向性を、例え話を交えながら数多く伝えるよう心がけてきました。また、弊社グループの東洋テックビルサービスで社長を務めていた際には、役員や部長クラスと月に1度、必ず30分ほど雑談の時間を設けていました。業務の複雑な話ではなく、このような対話を通じて自身のバリューを理解してもらう時間は、組織をまとめる上で非常に重要だと感じています。
「主語は東洋テックグループ」総合力で建物の課題を解決する

ーー東洋テックグループへ移籍された当時のお気持ちを教えてください。
竹野讓:
長年勤めた銀行の仕事と比べると、全く異なる分野への挑戦でした。しかし、銀行員時代も転勤のたびに新しい分野の業務を担当してきたため、新しい仕事に就くことへの抵抗はほとんどありませんでした。警備やビルメンテナンスという事業は、50年後も100年後も世の中から絶対になくならない仕事です。社会にとって間違いなく必要とされるインフラを支える役割に携われることに、大きなやりがいと魅力を感じました。
ーー移籍後、東洋テックビルサービスではどのような取り組みをされたのでしょうか。
竹野讓:
私が社長に就任した当時、同社は複数の会社が合併してできた組織でした。前任の社長が合併当初の混乱をまとめ上げて基盤を作ってくれていたため、私はそれぞれの組織が本来持っている力をしっかりと発揮できるようなオペレーションの構築に注力しました。具体的には、金融機関との強固なパイプを活かした提案の強化や、何千棟という建物の設備点検の実績を新たなビジネスにつなげる仕組みづくりなどです。まだまだ伸びしろがあると感じていた領域を、約2年間かけて磨き上げていきました。
ーーその後、東洋テック本体の社長に就任され、社内でどのような思いを発信しましたか。
竹野讓:
社長就任時の第一声として、「主語は東洋テックグループ」という言葉を伝えました。お客さまから見れば、警備だけ、清掃だけを求めているわけではなく、建物を総合的に管理してほしいというニーズが必ずあります。私たちは警備会社を親会社としていますが、単なる警備の会社ではなく、警備も清掃も設備管理も提供できる総合力を持っているのです。グループ各社が連携し、建物の総合管理という視点でお客さまに提案していく姿勢が、これからはより重要になるでしょう。
ーー貴社がお客さまから評価されている強みについて具体的に教えてください。
竹野讓:
警備とビルメンテナンスを2本柱として展開していることに加え、幅広いサービススタイルを持っていることが強みです。常駐警備や機械警備だけでなく、大型イベントの警備などにも対応できる体制が整っています。そして何より、現場の最前線で力を発揮する「ラストワンマイル」の対応力がお客さまから高く評価されています。何か異常が起きた際に迅速かつ適切に対処し、結果として「何も起こらなかった」日常を守り抜くこと。その目に見えない安心感を提供し続けることが、弊社の最大の価値だと自負しています。
日常を守り抜く現場力が支える大規模イベント
ーー昨年の万博で警備を担当されたそうですが、現場でのエピソードを教えてください。
竹野讓:
昨年の万博では、会場の半分以上のエリアでの警備や、最寄り駅の案内、さらには清掃業務などを共同企業体として担当しました。期間中、1日あたり1000人以上の人員を手配し、184日間にわたって欠員を一人も出すことなくオペレーションを完遂しました。連日の厳しい暑さの中、熱中症への対応など緊迫した場面は数多くありましたが、事前の入念な準備と現場の連携により、すべて適切な処置を行うことができました。大きな事故なく会期を終えられたことは、弊社にとって大きな自信につながりました。
ーー万博での実績は、その後の事業展開にどのような影響を与えたのでしょうか。
竹野讓:
大規模なイベントを安全かつ確実に運営できる組織力があることを、広く社会に証明できたと感じています。その評価もあり、2027年に国際園芸博覧会の警備や清掃業務にも携わらせていただくことになりました。万博では現場で働くスタッフ一人ひとりがお客さまから直接感謝の言葉をいただく機会も多く、やりがいを再認識する契機にもなりました。この圧倒的な現場力は、今後の弊社の事業を牽引する大きな原動力になると確信しています。
ーー直近では行動指針を刷新されたとのことですが、その背景と思いを教えてください。
竹野讓:
以前の経営理念が制定されてから10年が経過し、社会の価値観も大きく変化したため、時代に合わせた見直しを行いました。経営理念とスローガンは変更しませんでしたが、行動指針をよりシンプルでわかりやすい形に再構築し、新「TEC WAY」として策定しました。日々の業務において、自分たちの判断や行動が正しい方向へ向かっているかを確認するための羅針盤として機能させるため、約1年をかけて社内で議論を重ねて完成させました。
AI技術と現場力の融合で切り拓く、次世代の警備と組織づくり
ーー今後5年後、10年後を見据えた際、貴社をどのような組織へと成長させていきたいとお考えですか。
竹野讓:
ITやAIの技術力を持つ企業や、優れた現場力を持つ企業は世の中に数多く存在します。しかし、弊社が目指すのは、60年かけて培ってきた確かな現場力と、最先端のAI技術の両方を高い次元で兼ね備えた企業です。たとえば、単なる監視だけでなく、人の異常な動きを検知できるAIカメラの導入や、お客さまからの問い合わせにスムーズに対応するボイスボットの活用などを進めています。培ってきた現場対応力に最新のテクノロジーを掛け合わせることで、独自の価値を生み出していく方針です。
ーーテクノロジーの導入において、具体的にどのような変革を期待されていますか。
竹野讓:
単なる事務作業の効率化にとどまらず、ビジネスの根幹にインパクトを与えるようなAIの活用です。たとえば機械警備において、センサーが異常を検知して信号を送ってきた場合、実はその大半が誤報という現実があります。しかし、万が一に備えて警備員は現場へ急行しなければなりません。もしAIの力で誤報を正確に判別できるようになれば、警備員は本当の有事の対応に、より時間とエネルギーを注ぐことができるようになります。人にしかできない質の高い対応に注力するための一手として、テクノロジーを活用していく方針です。
ーービジョンを実現していくための、人材力の強化に向けた取り組みを教えてください。
竹野讓:
人材の育成は一朝一夕にはいかないため、多角的なアプローチを行っています。その一つが、研修を専門とする組織「TECアカデミー」の設立です。法令で定められた教育はもちろん、若手向けの研修などを通じて全体のスキル底上げを図っています。また、年に1回「S1グランプリ」という社内大会を開催し、警備や清掃、お客さま対応のスキルを競い合うことで、互いに刺激を受けながら成長できる場を設けていること。さらに、若手社員をサポートするメンター制度や、挑戦したい業務に自ら手を挙げられる社内公募制度も導入し、社員がいきいきと成長できる環境づくりを進めています。
グループの総合力を結集し、社会に必要とされ続ける企業へ
ーーグループ全体の総合力のために、具体的にどのような連携を構想されていますか。
竹野讓:
グループ内での情報の連携をより密にし、お客さまの課題に対してシームレスに対応できる体制を強化していきます。たとえば、不動産売買の情報を得た際に、弊社の持つ警備や清掃のサービスを多角的にご提案する。あるいは、水漏れの修理にうかがった現場で、建物の防犯に関する別の課題を発見し、最適な解決策をご提示するといった連携です。こうした現場の気づきや互いの強みを横に広げることで、お客さまの潜在的なお困りごとをグループ全体で解決していく視点を、より社内に浸透させていきたいと考えています。
ーー最後に、今後の展開に期待を寄せる読者へ向けての意気込みを教えてください。
竹野讓:
私たちは関西で誕生し、60年の歴史を積み重ねてきた企業です。これまで支えていただいた地域社会への感謝を忘れず、「人・街・未来をまもる」というスローガンをこれからも体現し続けていきます。時代がどれほど変化しようとも、社会インフラとしての安全と安心を守る使命は変わりません。10年後、20年後も世の中から必要とされ、広く親しまれる企業であり続けるために、最新技術の導入と人材の育成に注力し、グループ一丸となって未来へ向かって挑戦を続けてまいります。
編集後記
異業種から転身し、伝統ある警備会社のトップとして組織を牽引する竹野社長。インタビューを通じて最も印象に残ったのは、最先端のAI技術を積極的に取り入れながらも、決して「現場の人間の力」を軽視していない点だ。むしろ、人にしかできない質の高いサービスを提供するためにこそ、テクノロジーを活用するという明確な哲学を感じた。創業60年の歴史が培った泥臭い現場力と、次世代を見据えた革新的なビジョン。その両輪が力強く噛み合う東洋テックグループが、これからどのような新しい「安心」の形を社会に提示してくれるのか、今後のさらなる飛躍に大きな期待を抱かずにはいられない。

竹野讓/1963年、兵庫県生まれ。1986年、大阪府立大学(現:大阪公立大学)卒業。1986年大和銀行(現りそな銀行)入行。りそな銀行にて人材サービス部長、りそなホールディングスにて財務部長、執行役などを歴任。2024年に東洋テック株式会社専務執行役員、関連会社社長を経て、2026年6月東洋テック代表取締役社長に就任。