※本ページ内の情報は2026年10月時点のものです。

物流業界において、安全対策や教育は喫緊の課題である。株式会社アスアは、独自のコンサルティングサービスを通じて、物流事業者の安全教育と意識改革を強力に支援している。過去の挫折から導き出された「ドライバーとの対話」を重視する手法は、多くの物流事業者で交通事故が低減する実績を打ち立てた。2024年には上場を果たし、さらなる信頼を獲得しながらモビリティ業界全体への価値提供を目指す。同社の軌跡と今後の展望について、間地寛氏に話をうかがった。

高校時代の起業への思いと挫折から生まれた事業

ーーまずは、これまでのご経歴と起業のきっかけを教えてください。

間地寛:
私は高校生の時から、将来は自分で起業して経営者になりたいと強く思っていました。学生時代にアルバイトのシフトを組むなど、多くの人をまとめる経験をしたことが大きかったです。最初は生活に欠かせない事業をと考え、ガス漏れ警報器の取り付けから始めました。その後、通信機器の営業をする中で、物流事業者のお客様から「通信費よりも燃料コストを削減したい」という声をいただき、物流業界の課題に直面したのです。

ーーそこから現在の事業に至るまでに、どのような経緯があったのでしょうか。

間地寛:
お客様の要望に応えようと、燃費削減装置を販売しました。当時は5000台を導入し、平均で15%の燃費削減効果が出ていると信じて真摯に取り組んでいました。しかし、自動車メーカーの研究所からの問い合わせをきっかけに、カタログ燃費と同じような測定テストを実施したところ、装置単体では全く効果がないことが判明したのです。その結果、全額返金して全面回収するという大きな失敗を経験し、その事業から撤退することになりました。多額の負債を抱えましたが、なぜ燃費が向上した車両があったのか調査すると、定期的なコミュニケーションと燃費の可視化によって、ドライバーの安全運転への意識が変わったことが原因だと分かりました。その後の大学との共同研究でも「燃費が9%向上すると交通事故が半減する」というデータが実証されたのです。あの失敗がなければ、今の事業は生まれていなかったと思います。

少人数対面の「TRYESサポート」と「TRYESレポート」

ーー現在の主力であるサービスの特徴について教えてください。

間地寛:
弊社の強みは「TRYESサポート」という訪問型サービスです。月に一度物流事業者に出向き、5〜6人の少人数かつ短時間で膝詰めの対面ミーティングを何度も繰り返します。月に約7,000人のドライバーとお会いしていますが、私たちが一方的に教えるのではなく、ドライバーが現場で抱える悩みや課題をヒアリングして解決に導くことが特徴です。現場の声を拾い上げることで、結果的に一人ひとりの意識が醸成され、自発的な安全運転へとつながっています。現在、契約件数は1,700社を超えました。

ーーもう一つのサービスである「TRYESレポート」とはどのようなものでしょうか。

間地寛:
「TRYESレポート」は、私たちが実際の現場で使用している質の高い教育教材を、ウェブ上で提供するサービスです。管理者向けのプレゼン資料や、ドライバーが数分で学べる動画などを定額で使い放題にしています。現場での対面指導を担う「TRYESサポート」と、継続的な教育を後押しする「TRYESレポート」の双方を提供することで、将来的には20,000社のサポートを目指しています。

上場による信頼獲得とモビリティ業界の未来への展望

ーー上場を果たされたことで、会社にどのような変化がありましたか。

間地寛:
2024年に上場しましたが、得られた変化は非常に大きいです。まず、採用活動における応募数が圧倒的に増えました。また、大手企業との取引においても、上場企業としてのガバナンスや基準をクリアしているという証になり、安心してお任せいただけるようになりました。物流業界の安全対策に特化した企業として上場している例は珍しく、社会的な信頼を大きく獲得できたと感じています。

ーー社内の福利厚生やオフィス環境の取り組みについて教えてください。

間地寛:
従業員が働きやすい環境づくりには注力しています。オフィスのリニューアルを行い、フリースペースを設けて働き方の自由度を高めました。また、自動販売機の飲料を会社が補助し、安価で購入できる仕組みも取り入れています。年間休日は125日確保しており、残業もほとんどありません。副業も解禁し、社員が社外での経験を通じて成長できる環境を整えています。業績の向上を社員に還元し、エンゲージメントを高めていくことが重要だと考えています。

また、採用面では現在、物流現場でドライバーと直接コミュニケーションを取る専門スタッフを積極的に募集しています。現場での教育が主な役割となるため、社会人経験のある20代後半から30代前半の中途採用が中心です。過去の業種は定めていませんが、現場で話をする機会が多いため、営業職や塾講師の経験があるメンバーが多く活躍しています。さらに、今後のM&Aなどを見据えた成長戦略のために、上場企業としての基盤を支える管理本部の人材募集にも注力しています。

ーー最後に、今後の展望について教えてください。

間地寛:
今後は現在の事業における安全対策にとどまらず、乗用車も含めた「モビリティ業界」全体をサポートし、整備などのアフターマーケット領域までカバーできる企業へと成長していきたいと考えています。現在の物流業界は大変革期にあり、トラックドライバーや倉庫作業員の人手不足、自動化と人の作業の棲み分け、空車を減らすための積載効率の改善、さらには整備士不足による整備工場の廃業など、山積する課題を抱えています。これらの解決に向けて、自社単独でのオーガニックな成長だけでなく、強みを持つ企業とのM&Aや資本業務提携を重要な成長戦略として積極的に進めていく方針です。提携先の企業と一緒になって品質レベルを高め、物流事業者様へ多角的な提案ができる体制を作っていきたいですね。

また、私たちが約28年にわたり蓄積してきた「どのような業種・車両・運行形態で事故が起きたのか」という詳細なデータや燃費データを、AIを活用して分析・整理し、お客様にわかりやすく提供するDX推進にも注力していきます。現場の声を引き出す力と客観的なデータ、そして新たなパートナーシップを掛け合わせることで、全国のお客様にサービスを広げ、モビリティ業界全体の課題解決と発展に貢献し続ける存在でありたいです。

編集後記

大きな挫折を味わいながらも、真摯に原因を分析し、新しいビジネスモデルへと昇華させた間地社長の姿勢に深く感銘を受けた。単なるノウハウの提供ではなく、少人数での対話を通じて現場の意識を変革していく手法は、効率化が進む現代において非常に人間味あふれるアプローチだ。上場企業としての信頼を基盤に、充実した労働環境のもとで成長を続ける同社が、モビリティ業界全体にどのような変革をもたらすのか、今後の飛躍に大きな期待を寄せたい。

間地寛/1967年4月、北九州市小倉生まれ。1986年3月、愛知県立春日井高校卒業。1991年4月、株式会社藤ゴルフ企画名古屋入社。1994年7月有限会社アスアサービス(現・株式会社アスア)設立。代表取締役社長就任(現任)。2024年9月には東証グロース市場及び名証ネクスト市場(現・メイン市場)(証券コード:246A)へ新規上場を果たす。