※本ページ内の情報は2026年11月時点のものです。

JR九州グループのシステムを支えながら、外販やM&Aで事業領域の開拓に挑むJR九州システムソリューションズ株式会社。機械工学のエンジニアから多彩な部門を経てITの道へ進んだ代表取締役社長、長﨑剛氏は、独自の視点で組織を牽引する。コロナ禍のデジタル変革を推進した経験や、AI時代におけるシステム会社の新たな価値とは何か。社員の働きがいを追求し「コツコツをチカラに、ワクワクをカタチに」というパーパスの体現を目指す同氏に、変革の軌跡と未来への展望をうかがった。

「生粋のシステム屋ではない」からこそ見える業務変革の視点

ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。

長﨑剛:
大学では機械工学を専攻しており、当時は新幹線をつくるという目標に惹かれてJR九州に入社しました。最初は車両のエンジニアからスタートしましたが、その後は新幹線の全線開業に伴うダイヤの作成や、観光列車の立ち上げなど、さまざまな部門を経験しています。エンジニアがこれほど多様な業務を経験し、外の部署に出るというのは、社内でも比較的珍しかったですね。

ーーさまざまなご経験の中で、ターニングポイントとなった出来事は何でしたか。

長﨑剛:
8年ほど前にJR九州のIT推進の部門へ異動したことです。私は生粋のシステム屋ではなかったため、技術をどう使うかというよりも、「ITを使って業務をどう変えていくか」という逆の視点から仕事に取り組むようになりました。システムの専門家とは異なる立場から業務のあり方を問い直すこの視点は、現在の経営においても非常に大切にしています。

ーーコロナ禍という危機もありましたが、当時の状況と取り組みについて教えてください。

長﨑剛:
当時の現場はまだ紙や印鑑が残るアナログな環境でした。まずは急遽、大規模なテレワーク環境を構築し、クラウドツールを導入しました。さらに、専門知識がなくても開発できるローコードツールを用いた「市民開発」に力を入れ、現場の社員に「自分の仕事は自分で変えてくれ」と促したのです。そうした変革の後押しをする中で社長就任の話をいただき、4割以上が20代という組織のさらなる成長に期待を抱きました。

ーー経営トップとして、組織をまとめていく上で大切にされていることは何でしょうか。

長﨑剛:
なるべく情報をオープンに発信することです。会社の方向性だけでなく、社会の動向も含めてさまざまな情報を共有するようにしています。特に今はAIの台頭という大きな変化が起きており、それにどう適応し、会社としてどう舵を取っていくのか。そうした経営課題についても、社員とオープンに共有しながら共に乗り越えていきたいと考えています。

「さぁ、楽しんでいこう」 働きがいと働きやすさのある組織へ

ーーJR九州システムソリューションズは、どのような強みを持つ会社でしょうか。

長﨑剛:
JR九州グループ全体をITで支えることが一番の使命です。鉄道だけでなく、駅や流通、不動産など幅広い事業の基盤を構築し、安全・安心を提供している点が大きな信頼につながっています。一方で、グループ外からの収益拡大も求められており、近年はM&Aにも力を入れ、現在は5社のグループとして新たなシナジーを生み出すことにも取り組んでいます。

ーー社員の働きやすさ向上に向けて、現在どのようなことに取り組んでいますか。

長﨑剛:
前社長の時代から約10年間、「EX(従業員体験)向上」に力を入れてきました。残業時間を大幅に削減し、コアタイムのないフレックス制度や子育て支援など、働きやすい環境を整えたことで、多くの20代の社員が入社してくれる会社へと変わりました。しかも、残業を減らして効率化を進めた結果、売上高もしっかりと伸ばすことができています。

ーー働きやすさが浸透した今、次なるステップとしてどのような課題を見据えていますか。

長﨑剛:
これからは「働きがい」をさらに高めていきたいと考えています。その一環として、当社では上司が部下を単に管理・評価するのではなく、部下の成長を支援する人事制度としています。面談などを通じて上司が部下に寄り添う姿勢は、社員からも高く評価されています。また、本人の希望による異動や、休職して新たな仕事にチャレンジできるようなキャリア支援の仕組みづくりの検討を進めているところです。

AI時代に求められるコンサルティング力と新たな価値創造

ーー今後の5年、10年を見据え、どのような会社を目指していきたいとお考えでしょうか。

長﨑剛:
現在の中期経営計画では「Coevolution2028」というテーマを掲げています。「Coevolution」は「共進化」のことで、互いに影響し合いながら共に進化していくという意味です。具体的には、「Co-Creation(境界を越え、価値を進化させる)」「Excitement(AIと共に、挑戦を楽しむ)」「Human First(人の進化が、すべての進化を生み出す)」の3つの柱で進めています。特に目指しているのは、Human Firstを土台としながら、AIを使いこなし、みんなで成長して新しいものをつくり上げる組織です。

ーーAIの普及は、システム業界においてどのような影響をもたらすとお考えですか。

長﨑剛:
AIの進化により、プログラミングなどの生産性は圧倒的に高まります。それに伴い、単に「言われたものをつくる」だけの仕事は価値が減っていくでしょう。だからこそ、お客様に寄り添い、課題を一緒に解決していく「上流」のコンサルティング力がより一層重要です。当社では現在、「AI×コンサルティング力」「AI×ものづくり力」などの観点で、社員の提案力向上に努めています。

ーー新たな価値を生み出すために、社内ではどのような挑戦が生まれていますか。

長﨑剛:
事業開発の部門では、社員が自ら考えたアイデアを形にする動きが出ています。過去にはITとは無関係の機器メンテナンス事業や、プログラミング教室の運営、駅にコンパクトな仮眠スペースを設置するビジネスなど、さまざまな提案がありました。事業化に至らなかったものもありますが、そうした新しいことへのチャレンジを歓迎し、失敗を恐れずに挑戦できる土壌を大切にしています。

「コツコツをチカラに、ワクワクをカタチに」パーパス実現に向けた挑戦

ーー貴社ではどのような人物像を求めていますか。

長﨑剛:
新しいことに面白がって挑戦できる方ですね。当社が掲げる「コツコツをチカラに、ワクワクをカタチに」というパーパスにもあるように、システムの安全・安心を支える地道な「コツコツ」が非常に重要だといえるでしょう。それに加えて、これからの時代は自ら成長を実感し、新しい価値を創造する「ワクワク」を形にできる人材が必要です。自ら課題を見つけ、共に成長できる方をお待ちしています。

ーー最後に、今後の展望と社会へ提供していきたい価値について教えてください。

長﨑剛:
JR九州グループには「九州の元気を、世界へ」という理念があります。私たちはそれをシステムの力で実現していく使命を担っているのです。世界を相手にしたビジネスを展開するだけでなく、九州を訪れる方々に楽しんでいただけるような価値を、ITの力でしっかりと支えていく。そして、変化の激しい時代においても、常に社員の声を吸い上げながら、自律的に進化し続ける企業でありたいと考えています。

編集後記

「生粋のシステム屋ではない」と自身を評する長﨑社長だが、その言葉の裏には、技術を目的化せず「業務をどう変えるか」を常に問い続ける真摯な姿勢があった。AIの台頭という業界の大きな波に対し、人間のコンサルティング力と掛け合わせて新たな価値を生み出そうとする視座は非常に力強い。働きやすさから働きがいへ、さらなる高みを目指す同社が、九州から世界へとどのような活力を届けていくのか、今後の飛躍が楽しみだ。

長﨑剛/1970年生、鹿児島県出身。1993年東京大学工学部卒業後、九州旅客鉄道(JR九州)に入社。総合企画本部経営企画部副課長、鉄道事業本部営業部担当課長、鉄道事業本部運輸部輸送課長、総合企画本部IT推進部長、同本部デジタル変革推進部長などを経て2026年6月、JR九州システムソリューションズ代表取締役社長に就任。