※本ページ内の情報は2026年11月時点のものです。

長岡産業株式会社は、自動車内装や住宅断熱材などに使われる発泡シートの加工で独自の技術を持つ企業だ。大手化学メーカーとの100年に及ぶ深い関係性を基盤に、長尺のシートを切断せずにそのまま加工する「ロールtoロール」など、他社にはない独自の技術を誇っている。大企業での海外駐在を経て、周囲の猛反対を押し切り家業である長岡産業へ戻った長岡利典氏。代表就任後には経営理念を一新し、社員が「幸せと誇り」を得られる舞台づくりに尽力してきた。時代に合わせた組織変革と今後の展望について、同氏に詳しく話を聞いた。

大企業での海外駐在から一転 猛反対を押し切って家業を継ぐ覚悟

ーーまずは、これまでのご経歴を教えてください。

長岡利典:
大学卒業後は化学メーカーの住友ベークライト株式会社へ入社し、主に携帯電話やパソコン、自動車向け回路基板の営業に従事していました。しかしその後、思いがけずシンガポールや香港での海外駐在を経験することになったのです。東南アジア全域を担当し、現地の経営層と関わる機会を得たことは、大きな知見の広がりとなりましたね。

やがて駐在期間を終えて日本に戻り、しばらく経った頃、父親が他界したことを機に家業である弊社に戻る決意をしました。妻や義父からは「せっかくいい会社に入ったのに、辞めてまで戻る必要はない」と猛反対を受けましたが、曾祖父から戦時中も途切れさせず繋いできた家業のことを考えると自分しか継ぐ人間がいないのではないか、という思いがありました。また、安定した環境にとどまるよりも、一度きりの人生での挑戦をしてみたいという思いもあり、覚悟を決めたのです。

ーー家業に戻られてから代表に就任されるまでにどのような変革を行ったのでしょうか。

長岡利典:
最初は営業担当として現場に入り、再スタートを切りました。その後、代表に就任してからは、従来の「プラスチック加工で貢献する」という経営方針を一新しました。弊社にはプラスチック加工以外にも倉庫業務や工事関係など様々な部署があります。そのため、部署を問わず全員が共感でき、社員が会社を通じて「幸せと誇り」を得られる舞台をつくるための新しい経営理念が必要だと考えたからです。

また、理念を浸透させ、社員主導の行動指針をつくるために、各部署から社員を集めた「ビジョン研究会」も立ち上げました。この研究会では、定期的にメンバーが集まって「自分たちにとっての幸せや誇りとは何か」「それを日々の業務でどう体現していくか」を現場の視点で徹底的に議論してもらいました。トップダウンで押し付けるのではなく、社員自身が自分ごととして考え、言葉を紡ぎ出すプロセスを重視したのです。結果として、部署間の垣根を越えたコミュニケーションが活発になり、社員自らの手で納得感の高い行動指針をつくり上げることができました。

100年続く信頼関係と独自の技術 そして柔軟な働き方の推進

ーー現在の主力事業と貴社ならではの技術的な強みについて教えてください。

長岡利典:
主力事業は、ポリエチレンなどの樹脂を使った発泡シートやフィルムの加工です。自動車の内装や住宅の断熱材など、普段は目に見えない部分で広く活用されています。もともとは創業時に某社の工場建設用木材を納入したご縁から始まり、現在も同社からの受託加工と、自社での加工販売の両輪で事業を展開しています。

また、技術的な最大の強みとしては、独自の「ロールtoロール」加工です。他社がブロック状の塊を削って加工するのが主流な中、弊社は何百メートルにも及ぶ長いロール状の素材を連続して薄く、あるいは厚く加工することができます。また、シートを巻く際の段差をなくす特許取得の自社製品「プラマキシン」を展開するなど、独自の技術力を活かしたモノづくりを行っています。

ーー柔軟な働き方を推進されているそうですが、具体的な取り組みを教えてください。

長岡利典:
弊社は「くるみん」認定を取得し、男性社員が半年の育休を取得するなど、柔軟な働き方を積極的に推進しています。実はこの育休推進が、中小企業にありがちな「業務の属人化」を解消する大きなきっかけになりました。長期間担当者が不在になるため、引き継ぎの過程で必然的に業務の棚卸しが行われます。すると、「他の人でも対応できる」「そもそもこの業務は不要だったのではないか」といった気づきが生まれ、業務のスリム化が進んだのです。育休の取得は、社員のワークライフバランスを整えるだけでなく、会社全体の業務効率化にもつながる非常にポジティブな効果を生み出していると実感しています。

多様な素材への挑戦と社員が成長できる環境づくりの未来

ーー今後事業において新しく挑戦していきたい領域はどこでしょうか。

長岡利典:
これまでは主にポリエチレンなどの発泡シートを扱ってきましたが、今後はゴムやウレタンなど、多様な材質の発泡シートの加工に挑戦していきたいと考えています。日本の市場が縮小していく中で生き残るためには、特定の素材に依存してはいけません。多様なニーズに応えられる技術力を磨いていくことが不可欠です。現在、すでに新しい材質の加工に向けた試行錯誤を始め、事業の幅を広げていくための基盤づくりを進めています。

ーー最後に貴社が目指す今後のビジョンについて教えてください。

長岡利典:
働いている中で幸せを感じられる環境をつくり続けることが目標です。社員一人ひとりが目先の損得にとらわれず、困難な仕事であっても自らの経験値を増やす糧と捉え、成長できる人材になってほしいと願っています。そうした社員の成長を通じて、「発泡シートの加工なら長岡産業」とお客様から一番に選ばれるブランドを確立したいですね。これからも社員とともに、100年続く歴史の上に新たな挑戦を積み重ねていきます。

編集後記

創業100年を超える企業の伝統を受け継ぎながら、時代に合わせた大胆な組織変革を進める長岡産業株式会社の代表取締役、長岡利典氏。大企業での安定したキャリアを捨て、家族の反対を押し切って家業を継いだ熱意が、現在の「幸せと誇り」を掲げる経営理念にも色濃く反映されていると感じた。独自の加工技術という強固な基盤の上に、自律的に動ける社員たちの成長が加わることで、同社はさらなる飛躍を遂げるだろう。変化を恐れず挑戦を続ける同社の未来に期待したい。

長岡利典/1974年、滋賀県生まれ。1998年、立命館大学経営学部卒業。住友ベークライト株式会社に入社。海外駐在を経て、2007年に長岡産業株式会社へ入社。2018年に代表取締役に就任。