価値観
【渡邉】
私が考える中では、社内でも言っているのですけれども、強く、いい会社にしたいと思っています。私は会社はサイズや売上規模ではないと思っていて、やはり強い会社、当社はこれを持っているのだ、という強い製品や技術、サービスそういったものを持つことが大切だと思っています。それは対外に対してです。
あとはいい会社というのは、やはり社員がこの会社で働いていて良かったと思える会社を作っていきたいと思っています。
【渡邉】
企業理念というのは書いてあるのがあるのですけれども、「我が社は人を育み、メーカーとして社会貢献とステークホルダーの幸せを目指します」ということが、今掲げているところで、これは全社に名札の裏に入れて、常に持ち歩いているということです。
先代の社長がこの経営理念を考えて、私もそれを継承しています。
事業
【渡邉】
我々が今コアとしているビジネスは2つあって、1つは総合研磨メーカー、今まではどちらかと言うと余りにも精密な研磨に特化しすぎていたので、今後はそれをもっと幅を拡げて当社の生存領域を、総合研磨メーカーという新しい切り口で開いていこうとしています。
いちばん得意としているのは、コンピューターのハードディスクの差次週研磨工程に使われる研磨フィルムがあるのですけれども、それのシェアでいうとおそらく世界で今95%くらいなので、世の中に出てくるハードディスクの95%は、当社の製品で表面を精密研磨されているというのが、1つの大きな柱となっています。
あとは半導体の研磨ですね。これも当社が得意とするのは、非常にニッチな研磨エリアなのですけれども、半導体の外周部、この辺りも我々は大きなシェアを持っています。超精密分野でいうとハードディスク、半導体となります。
【渡邉】
今後のターゲットとしては、金属製品の特に自動車部品やあとはOA機器の部品などの研磨、この辺りの市場にも現在参入しつつあるというところが1つ。
もう1つがですね、機能性薄膜塗布メーカー、これは当社が創業して以来、箔にはじまり、研磨テープということで、フィルムの表面に薄く塗るという技術、この技術を生かして機能をも持ったフィルム製造を行うということで、例えば光学系のフィルム、フラットパネルディスプレイ、液晶とかプラズマのああいった薄型テレビの中には、いろいろな機能を持った薄いフィルムがたくさん使用されているのですけれども、そういったものの製造ももう一つの事業として行っています。
キャリア
【渡邉】
言いにくいことでも会社のために自分が思うことだったら、意見を出し合おうよということは、最近言っています。いろいろ当社の社員も仕事をやっていく中で、ああしたらいいのではないか、こうしたらいいのではないか、自分はこう思う等、いろいろ思っているはずなので、日々感じていることをもっと出すというか、もっと言おうよといっているところです。
やはり会社を強く、いい会社に変えていくためには、みんなの意見が非常に大事なので、会社にとって会社を強くよくするために必要だと思った意見は積極的に取り入れて、必要であれば会社を変えていこうと思っていますので、どんどん意見を出してほしいです。
【渡邉】
今、非常に変化の激しい世の中なので、私が最近社員に言っていることでは、変わってくださいという事です。自分の中でどんどん変わっていく。もちろんそれは、良い変化であってもらわないと困るのですけれども。
あと、仕事をしていると誰かの仕事に対して、あれはよくないのではないか、これはこうなのではないかという、評論家になってしまうということではなく、やはり、評論家から1歩進んで、言いたいことを言って意見を出して、後はそれを実際にどう変えていったらいいのかというところまで、サジェスチョンができる、社員になって欲しいので、期待しているところです。
プライベート
【渡邉】
私も会社に入ってからゴルフをはじめて、実は中学時代にはスキー部で競技スキーをやっていまして、昔はゴルフなんてスポーツではないと思っていたのですけれども、実際にやってみて競技スキーと比べて100倍くらい難しいです。すぐに打たなくてはいけないものでもないし、どのクラブを使うかというのも自分のチョイスですし。
環境を読むのも、例えば風が強い、弱い、右からくる、左からくるということと、後は考える時間があるというのは、実は良いようで良くないのです。スキーの場合はもうポールが来るので、曲がらなくてはいけないのですが、ゴルフの場合には「どうぞ、あなたに時間を与えます」「ご自由に考えてください」と。
それで、じーっと考えます。精神的にはいろいろ考えさせられる、自分の弱いところが見えるというのでしょうか。よくゴルフをやっていて失敗すると、「ああ!」とか、怒る人がいますが、私は全然それがありません。人のせいにしないというか、結局自分のせいですから。自分でクラブ選んで自分で方向を決めて、自分でスイングして、失敗したのだから、自分のせいだと思えるのだなと思いました。
【渡邉】
これも趣味というか、実益を兼ねていると思うのですけれども、靴磨きが好きというか、靴の手入れが好きというのでしょうか。そもそも身に付けるものを長く使うタイプなんです。その中でも靴が非常に好きなアイテムで、一番古い靴で、今でも使っているのですが、私が17歳の時に買ったものなので、20年前の靴をいまだに履いています。
底をたぶん5回くらい張り替えて、学生の時に履いていたワークブーツなのですけれど、それにはじまって社会人になって、ビジネスシューズは特に手入れしないといけないということで、いろいろアイテムを買い集めて、靴の色に合わせて、クリーナーもいろいろなものを合わせて揃えました。集中できるという事なのでしょうか。あとは社会人になってから足下が見られるというのもあるので、非常に靴と靴磨きが好きなんです。
【ナレーター】
2025年に創業100年を迎える老舗製造メーカー「Mipox株式会社」。
「塗る・切る・磨くで世界を変える」を使命に掲げる同社は、これらをコアとする事業を展開。研磨分野において、製品製造から受託加工、コンサルティングまでをトータルに手がけ、研磨やコンバーティングなど、幅広いニーズに対応する総合ソリューションカンパニーへと変貌を遂げた。
近年では、本社をアセットライト化し、研磨に関わるオウンドメディアをリリースするなど、製造業にとらわれない取り組みを推進し、成長を続けている。
どん底から這い上がった経営者の軌跡と思い描く未来像とは。
【ナレーター】
自社の特徴と強みについて、渡邉は次のように語る。
【渡邉】
当社は基本的に非常にニッチなところにフォーカスしています。そのニッチな分野のなかで世界で絶対的なシェアを取ることが当社の戦い方であり、特徴だと考えています。
もうひとつは、「製品」や「品質」です。ひとつのファクトだけで勝負せず、研磨の製品や技術、当社の品質などを掛け算していけることが、当社の大きな強みだと思います。
【ナレーター】
渡邉の原点は幼少期にある。父が経営していた現Mipoxの工場と自宅が一体化しており、毎日のように工場に出入りしていた渡邉は、物心がついたときには将来この工場を継ぐことを意識していたという。
その後、アメリカ留学を経て1994年にMipoxに入社。今でも印象に残っているという当時のエピソードについて、こう振り返る。
【渡邉】
面接をして「あぁ渡邉くん、働きたいか」と、わざとらしく言われたのですが、「じゃあまた連絡する」と言われて2日後ぐらいに連絡が来たんですね。そのときに何を言われたかというと、「渡邉くん、採用だ」と。
ですが、「君、英語ができるから、アメリカの子会社に行ってくれ」と言われたのです。私は当時、アメリカから帰ってきたばかりだったため、ショックを受けました。
しかも「アメリカで営業をやってほしい」という話だったので、「私は工場で働きたいです」「アメリカに行くのであれば、この会社の入社をお断りさせていただきたい」と言いました。
そして「できれば工場で採用していただけませんか」とお願いをしました。その後、いろいろ検討してもらった結果、工場で採用していただき、働き始めることになりました。
【ナレーター】
工場勤務後、アメリカ拠点にマネージャーとして赴任するなど、順調にキャリアを重ねる一方で、会社の業績は2005年をピークに悪化の一途を辿り、2008年に十数億円の赤字を計上する。どん底とも言えるなか、渡邉は父に代わり代表取締役社長に就任。当時の心境と就任時に取り組んだこととは。
【渡邉】
当時、当社の売上は100億円から30億円になり、今まで出ていた利益の約半分が赤字の状況でした。社員もどんどん辞めていくなかで正直、相当右往左往していたと思います。
特に就任直後は、どれだけマイナスのDecision Making(意思決定)ができるかが最も重要でした。
たとえば、「新しく工場を建てる」「投資をする」などはポジティブな言葉ですよね。このようなポジティブな意思決定は、決断する側にとっては非常に簡単だと私は思っています。
しかし当時一番行ったのは、「工場閉鎖」「不採算事業をやめる」などマイナスの意思決定でした。
売上や生産量を上げることができた最大のポイントは、スピード感をもって「やめる」「止める」「捨てる」の決断をしたことで、身軽になれたことだったと思います。
【ナレーター】
改革のために取り組んださまざまな施策が奏功し、2011年、見事に黒字化を達成。挑戦を成功させるために渡邉が大切にしていることとは。
【渡邉】
「失敗すること」ですね。
「成功させよう」「うまくいかせよう」と思って考え抜いて、「やってみる」ことが重要だと思います。
「失敗したらどうしよう」とか、「うまくいかなかったらどうしよう」とあまり考えすぎず、うまくいかなかったら成功へのヒントやフィードバックをもらえると思うことが大切です。
躊躇せずに、まずはアクションを起こして、「やり続ける」「チャレンジし続ける」こと。考えるだけじゃなくてやってみて、失敗したら失敗から学ぶことが一番重要だと思います。
経営者プロフィール
氏名 | 渡邉 淳 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1971年1月17日 |
出身地 | 東京都 |
愛読書 | ストーリーとしての競争戦略、失敗の本質 |
社長就任後は赤字からの脱却、クラウド型 顧客管理ツールを導入し、ITインフラ整備を通じて企業変革を行う。製造業としてのDXの取り組み強化でで更なる生産効率向上、課題の可視化・解決に取り組む。
会社概要
社名 | Mipox株式会社 |
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本社所在地 | 栃木県鹿沼市さつき町18 |
設立 | 1925 |
業種分類 | その他 |
代表者名 |
渡邉 淳
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従業員数 | 448名 |
WEBサイト | https://www.mipox.co.jp/company/outline/ |
事業概要 | 研磨フィルムの製造販売事業、液体研磨剤お製造販売事業、研磨装置の開発販売事業、研磨関連製品の製造販売事業、受託製造事業(コーティング加工・研磨加工業務の受託)、機能性薄膜塗布事業 |