株式会社サカタのタネ 世界の総合種苗会社へ。トップメーカーの矜持と強さの秘密 株式会社サカタのタネ 代表取締役社長 坂田 宏  (2021年12月取材)

インタビュー内容

価値観

【坂田】

私どもには「品質・誠実・奉仕」という社是があります。経営理念として「三位一体」あるいは「三者共栄」という理念がありますが、なんといっても社是です。これはもうずっと不変のもので、特に品質というものが、一番最初に来ているこれがポイントだと思います。種というものはご承知のように生き物です。しかも工場製品ではありませんので、自然を相手に自然と共生していくというのが、我々の業種という事になります。その点は本当に100年経っても変わっていないと思います。品質というのは当然我々が扱っている種の品質です。これが何よりも重要です。商品の品質だけではなく、社員の品質もあります。サービスの品質もありますし、いろいろな意味での現場現場での品質、これがやはり非常に重要だという事です。「品質・誠実・奉仕」ですが、誠実の場合は、当然ものは商売する時に買っていただく方にはご覧になってもわからないわけですね。種をまいて最終的に出来たものが種の評価につながるわけで、という事は買っていただくお客様は我々が説明している事を信じて買っていただくということで、言うならば信用商売です。ですから「信用」「信頼」、それを正しく誠実に説明すること、それが不可欠なのです。ですから、そういった根本は種苗業、今も昔も変わらないかなと思います。

【坂田】

大きな流れとして今の時代、我々グローバルに展開をしてきておりますが、これも我々の歴史がある程度作った必然性でグローバル化になっていると思います。もともと輸出から始まった会社ですから、海外にも既にブランド力というものは戦前を通じてずっとありましたので、そういったプラスの要素があったと、それと必然性と言いますのは、やはり商売をする売る種というものは、敵地適作で種を採らないと、大量ですからできないわけです。そうすると日本というシビアな国だけでは、商業ベースの種の生産ができないと、そういった必然性から海外にどんどん展開していく、必要性があったという事です。ずっと歴史が繋がってここまできている。もう一つうちの大きな流れはDNAと言っておりますが、やはりオリジナリティが重要になります。初物づくしの歴史という事が当社の社史にもなりますが、常に競争相手に対して全く新しい品種、作物を作っていこうという事があります。そうした場合、当然品種を作っていく上で作っていただく方、それからそれを消費していただく方、こういった方のニーズを10年後、20年後まで察知して、そのニーズにできるだけ近いものを今作っていくという、非常に気の長い商売なのです。ニーズをどうくみ取って現在あるうちの遺伝資源、人の資源とこれを使って、いかにより良いものを作っていくかなのです。それぞれの地域地域にあったものを作っていく、これが重要になります。ですからシンクグローバル、アクトローカルという我々の言葉も、アクトローカルでないとなかなかそれぞれの地域にあった根ざしたものを開発できないという事だと思います。

事業

【坂田】

当社では園芸種子というものを扱っておりまして、野菜とそれから花ですね。そういう新しいものを作りだす場合、やはり最終的な消費者のニーズがどういうところにあるのか、これが最近は特に大きなファクターになってきています。そうすると例えば花ですと色ですね。どういった色調のものが好まれるのか、どういった形のどういった大きさの、いろいろと要素があります。それと私どもで開発したサンパチェンスという花は、環境に非常に優しい花という事で、環境浄化能力といういうものが非常に高く、二酸化窒素であるとかホルムアルデヒドといった有害物質を吸収する能力が高い。直接環境に対する貢献ができる。こういった視点から開発した商品ですので、そういった視点で最近はいろいろな品種を作っていく、ポイントが出てきているなと思います。あと野菜ですけれども、果菜類と呼ばれているトマトとか胡瓜、そういったものは、主に施設のハウスの中で育てるケースが多いのですけれど、キャベツですとか、白菜、大根、ほうれん草、ブロッコリーこういったものは、外の畑で作られるわけです。しかも野菜の場合は生育期間が長いです。こういった中でよくできる品種、これはもう絶対に必要な品種なのです。ですから作りやすい野菜の、研究開発をしなくてはならないという点、それからやはり消費者目線のところで、こういった野菜がほしい、例えばメロンの場合は、このくらいの大きさで、このくらいのネットがあって、このくらいの甘みがあってなど、こういった細かい視点があるわけで、そういったニーズをできるだけ吸収して、それに合う品種をつくっていくと、最近野菜は特に味ということがポイントになってますし、同時に機能性、栄養分が高いか低いかという要素も関係してきています。そしてもっとさらに考えなくてはいけないのは、環境の変化ですね。地球温暖化もあります。そういった環境の変化に強い品種を作っていく、一言や二言で秘訣という事はとてもお話できません。

【坂田】

ビジョンとしていつもお話させていただいていることは3つあります。花は心の栄養、野菜は体の栄養というお話をしています。1つ目としては我々は世界に栄養と笑顔をお届けする企業でありたいというビジョンがあります。笑いってなにと言われるかもしれませんが、花にしても野菜にしても美味しければスマイルになります。栄養イコール笑顔という事にもなるかと思います。栄養と笑顔をお届けできる企業でありたい。2つ目は、今ものづくりという事を言っているのですが、ものづくりを主軸としたグローバルな活動を通じて日本のすばらしさを世界に広めていく企業でありたいというビジョンです。3つ目は社員一人ひとりが情熱を語れる企業でありたいというビジョンです。2つ目のものづくりにかける日本の良さ、種苗業界を世界で見てもやはり日本という国は、オランダ、アメリカの3つの大手の中の一角というくらい非常にレベルが高い現在だと思います。また、日本の農業も非常に世界ではレベルが高い所だと思います。今後は我々のレベルの高い種と、同時に日本の持っている農業の技術力の高さ、こういったものをどんどん世界へ広げられたらいいと思っております。それのお手伝いができればと思っています。

キャリア

【坂田】

私どもの業種自体がグリーン産業と言われるものです。やはり、社会貢献につながっていく業種だと思います。栄養を供給できる企業でありたい、というのはまさに、これからの時代は食料難、食料が非常に緊迫してくるという時代においては、これを作りだしてゆくという、社会的な貢献の部分が非常に大きいと思います。やはりグリーン産業ですから環境を考えてのいろいろなこともやらなければいけない。環境、それから安心安全という事は、非常に重要なキーワードで我々にとってはそれに対してアプローチしていける企業だと思います。

【坂田】

常に私はチャレンジャーでありたいと思っております。ですから新入社員の方にも常にチャレンジャーだと、したがってチャレンジする人が私は大好きです。もちろん国内も海外もあります。グローバルにチャレンジしていく事を現在やっている最中で、そういった気持ちのある方は是非我々としても必要な人材であると思います。やはり、コミュニケーションです。人と人との対話こういうことに積極的にチャレンジできる人、それも重要な要素だと思っています。もちろん植物を扱っていますから、専門的な知識は不可欠です。ですから、これは持っておられるに越したことはありません。入社後に勉強したら習得できることでもあります。基礎的な知識は我々にとっては不可欠です。あとは、サカタグループ1900名強、全員英語が共有語という事にしておりますので、英語で最低限のコミュニケーションがとれるということが、必要条件となっています。

プライベート

【坂田】

なかなか読書する時間も少ないのですが、できる限り本は読みたいと思っています。ソニーの盛田さんが書かれた「MADE IN JAPAN」というずいぶん前の本ですが、海外展開、海外進出の本で、非常に影響を受けました。あとは稲森和夫さんの「成功への情熱」、PASSION in SeedのPASSIONも実は稲盛さんがアイデアの大元なのです。ですのでこのPASSION in SeedのPASSIONを使うにあたって、稲盛さんにお手紙を書いて、こういう形で使わせていただきたいという事で、ご了解をいただきました。

【坂田】

PASSIONに込めた内容はこれから100年を考えるにあたっても非常に重要なキーワードということで入れております。PはPeopleであり、AはAmbitionであり、SSはSincerityとSmileであり、IはInnovation、OはOptimism、最後にNはNever give up というこれがこれからも情熱をもってやっていかなくてはいけないと、キーワードだろうという風に思っております。

【坂田】

今年100周年で改めて社歴そういったものをいろいろ、掘り返しましたけど、やはり創業者の坂田武雄という人は、私にとっても尊敬できる人物かなという風に思っております。この植物にかける情熱というところと、非常に厳しい時代の中で情熱を持ったメンバーを集めて会社をやっていたというその牽引力です。これはやはり大変なものだと思います。昔、当社にはサカタ学校と呼ばれていたんです。京都にタキイ種苗さんという良きライバルがおられますけれども、昔から人のサカタ、組織のタキイと言われていたようで、サカタ学校と呼ばれていたのは坂田武雄自身が、会社を辞める人間をあえて引き止めずに、辞めたい人は出ていったと、結果的にはその人たちが園芸なり我々の商売の底辺を広げていったという事です。要するに社員を教育して、サカタに務めていた人は、他のところで活躍しているというようなことろを止めなかったと、という事らしいです。それはやっぱり、すごいことですし、その方たちがはやりサカタ卒業生として、会社にとってプラスになっていったという。だからそのことをサカタ学校と言われているのではないのかなと思います。なので会社の中に学校があったわけではないのです。そういうのも1つの社風だったのかもしれません。

【ナレーター】
世界170カ国以上でビジネスを展開するグローバル企業「株式会社サカタのタネ」。

野菜と花の種苗に特化した研究開発を行ない、ブロッコリーやトルコギキョウなど様々な品目で世界トップクラスのシェアを誇る。

近年では、巣ごもり需要による家庭園芸などのニーズも高まり、2021年5月期は過去最高の業績を記録。

ものづくりを主軸としたグローバルな活動を通じ、日本の素晴らしさを世界に広めていくリーディングカンパニーを目指している。

経営者が語る、サカタのタネの強さの秘密と描いている未来像とは。

【ナレーター】
世界的なシェアを獲得する種苗を有するサカタのタネ。タネにかける想いと自社の使命とは。

【坂田】
タネだけ見ていても、そのタネからどういうものができるのか、どういう花が咲くのかっていうのはわからないわけで、その結果は3カ月後、6カ月後、9カ月後に出るわけですよね。そこで初めて満足いただける。

極端な言い方をすれば買われる方にとっては“ギャンブル”ですよね。しかし当社はギャンブルだと思われないようにしなければいけないわけです。

当社がいろいろな説明をして、その上で納得いただいて買っていただく。これが信用第一のタネの商売です。

ですからその結果に応えなきゃいけないというのが我々の使命ですよね。

【ナレーター】
3代目の社長である坂田のキャリアスタートは銀行だった。当時は銀行マンとしての道を歩み続けようと考えていたが、どのような経緯でサカタのタネへの入社を決断したのか。

【坂田】
父からサカタのタネに入らないかという話が後であったんですけれどもね。そういうときにタネ屋というものがどういう位置づけなのか、銀行員時代の経験はそういうことを考えるのに役立ちましたよね。

当時サカタのタネはそれほどまだ大きい会社ではありませんでした。ただ、タネというのは将来性が非常にあるという周りのご評価をいろいろ聞きましたし、自分でもそう思っていました。

その中で会社に入らないかという話を父がもってきたんで、それであればそうしましょうかということで入社しました。

【ナレーター】
農業、種苗の勉強をするため入社前にアメリカへ留学。その中での経験を経て、坂田が心がけたこととは。

【坂田】
カリフォルニア大学のデービス校というのは、園芸学では全米でも1、2のレベルの高いところで、まさに私にとってはすべてがためになりましたね。

創業一家というのは紛れもない事実だし、当然そういうふうな見方をされるのは当たり前だと思っていますし、自分が背伸びをしたってできないし、うまくいくわけがないと。

ですから、常に私が心がけたのはどんな時でも自分のベストを尽くすんだと、自分のやれることをできる限りやるんだということでしたね。

自分が一生懸命にできることをやっているというのを皆さんに見てもらうのが一番いいのではないかと。

【ナレーター】
「一生懸命に、できることをやる」。この行動を貫き、キャリアを積んだ坂田は、1988年に現地法人設立の任を受け、オランダへ赴任。印象深いエピソードと得た学びについてこう振り返る。

【坂田】
ヨーロッパに当時拠点がないということで、これが必要だということで私が行ったんですね。

当時は当社の人間は誰も現地にいませんし何もないですから、1人で行って自宅兼オフィスを立ち上げるところから始めて。それから秘書を雇い、事務所をつくり、最終的には現地法人を立ち上げて農場を建設していきました。

私は総支配人ということで、できる限りお客様の現場に行っていたので、各国を回るわけですね。その当時はEU統合の前ですから、実は経費精算が大変なんです。各国の通貨が何もかも全部違いますから、一人でやっている頃は本当に大変でしたね。

日本を外から見る期間というのはどなたでも持っていただきたいと思いますね。日本の中にいては分からない良さもあれば悪さもあるけれども、日本を外から見ないとなかなか本当に日本の良さというのは分からない。

加えて海外にいれば日本の説明もしなければいけない。そうなると、ある意味で将来、役立つ。そういった知識・見識が身に付くのではないかと思いますね。

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経営者プロフィール

氏名 坂田 宏
役職 代表取締役社長
生年月日 1952年2月14日
出身地 神奈川県
座右の銘 先憂後楽、率先垂範
愛読書 「MADE IN JAPAN(メイド・イン・ジャパン)―わが体験的国際戦略」:盛田昭夫著 「経営学」:小倉昌男著 「成功への情熱」:稲盛和夫著
尊敬する人物 坂田武雄、稲盛和夫
著書 なし
略歴
1974年、慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社第一勧業銀行(現・株式会社みずほ銀行)入行。アメリカ(カリフォルニア大学デービス校)にて農園芸、種苗などについて学び、1981年、坂田種苗株式会社(現・株式会社サカタのタネ)入社。国内営業を経験後、1988年にオランダへ赴任。現地法人の立ち上げにかかわり6年間オランダに駐在。SAKATA SEED EUROPE B.V.(現・EUROPEAN SAKATA HOLDING S.A.S.)総支配人、取締役社長室長、広報宣伝部長、経営企画室長、常務取締役管理本部長などを歴任し、2007年、代表取締役社長就任。

会社概要

社名 株式会社サカタのタネ
本社所在地 神奈川県横浜市都筑区仲町台2-7-1
設立 1913
業種分類 農業・林業・漁業
代表者名 坂田 宏
従業員数 連結2,691名(2023年5月31日現在)
WEBサイト https://corporate.sakataseed.co.jp/
事業概要 1.種子・苗木・球根・農園芸用品の生産および販売、書籍の出版および販売 2.育種・研究・委託採種技術指導 3.造園緑化工事、温室工事、農業施設工事の設計、監理、請負
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