Vol.3 社長業=教育業
-社長業=教育業-
【聞き手】
社長業について伺いたいと思います。社長業で一番重要な要素はなんだと思われますか?
【島村】
人の問題が一番重要です。社員をどう育てるかということです。実際、社長業は教育業だということを実感しましたね。人を育てることができないと、会社も発展しないんです。資金はそれなりの収益が上がっていれば、銀行が貸してくれます。でも、人は自分のところでつくらなければならない。それで、40 年前、この業界で初めて大学新卒の採用を始めて、今年の入社組がちょうど40期生です。
【聞き手】
その時も、業界で大卒者の採用なんていう話は聞いたことがないと、ものすごいバッシングを受けたそうですね。
【島村】
ええ。楽器屋が大卒を採るとはどういう考えだというんですね。確かに、最初は新卒を10人ぐらい採用したんですが、当時はまだ店が3、4店舗でしたから、私も町の楽器屋の親父ぐらいに思われていて、だから私の言うことを聞かないんですよ。例えば、「うちは商品の価値と人の価値、店員の価値で売るのであって、価格で売るのではない、価値訴求だ。だから他の店より安く売ってはいけない。時には他の店より高く売りなさい」と言っても、「なんだこの社長は」と思ったんでしょうね。まるで話を聞かないわけです。それどころか、辞めて行った人間も多いですよ。
【聞き手】
その時、やっぱり大卒は駄目だとは思われなかったのですか?
【島村】
こちらに問題がある、私の教育の仕方が悪いと考えていました。それでも、店舗が次第に増えてくるにつれて、私の言葉もある程度は聞いてくれるようになりました。今の取締役たちはみんな新卒ですから。5期生とか、6期生とか。全員、もう50代ですが。
【聞き手】
今の若者については、どうお考えでしょうか?
【島村】
自己責任という感覚が少したりない気がします。なんでも他人に転嫁するんです。例えば、商品が売れないと、買ってくれない客のせいにする人間がいます。そうではなくて、お客様がきみを評価しないから買ってくれないんだと考えなければならないんです。そういう意味での自己責任ですね。
【聞き手】
特に「モノ」を扱う場合はそういう傾向が強いかもしれません。商品がよくないとか、ですね。
【島村】
他人に転嫁するわけですよ。他人に転嫁するか、自分はこの仕事は向いていないと思って辞めていくんです。我が社でも、新卒は3年で3割が辞めます。新卒採用の平均と同じです。私は新卒の採用説明会の時はいつも、自己責任で考えなさいと、最初に話します。
【聞き手】
会長自ら説明会で話されるんですか?
【島村】
そうです。そこで我が社の考え方をはっきり言います。うちに入社したら、お客様にどう評価されるかを考えるようにしなければならない、変化しなくちゃだめだという話です。オバマさんじゃないけど、チェンジだよと。うちの会社は年に2回、給与改定があるんですが、その話もします。私は参加した学生に、自分の考えを正直に伝えることが親切だと思うから、なんでも話します。「年に2回、給与を改定するけれど、その評価はお客様の評価だよ」「お客様が評価してくれた人を会社も評価して、SからABCDまでランクを付けて、Bくらいまでは昇給します」「だから、成果をしっかり出して、お客様に評価される人は給与があっという間に上がりますよ」というような話ですね。
逆に、評価がCやDの場合は減給になるんですが、それもはっきり話します。それを聞いて、それは怖いなと思う学生には来てもらわなくていいから、はっきり言うんですよ。で、やる気のある学生だと、年に2回も給与が上がるのはいいな、チャンスだと考える。そういう学生だけ入ってくれればいいんです。年功序列はありません。全てお客様の評価、仕事の評価によって変わってきますから。
【聞き手】
説明会には大勢の学生が参加すると思いますが、中には単純に音楽が好きで、楽器に囲まれていたいとか、商売というより趣味の延長のような感覚の学生もいるのではありませんか?
【島村】
結構いますよ。でも、きっかけは趣味のつもりでも、本気になって仕事をしてくれれば、お客様は評価してくれるわけです。
【聞き手】
そうなると、逆にプラスですね。
【島村】
本気になるとね。ところが、音楽が好きだから入社したけれど、仕事に対して本気にならない人間は、お客様から評価されないから、成果が出ない。うちの店舗には『POSレジ』を導入していますから、リアルタイムに売り上げの数字が全部出ます。そのお客様の評価を会社の評価としているわけです。それで逆に頑張る人間と、嫌だといって辞めていく人間がいます。で、後者は先ほど申しあげたとおり、この仕事は自分に向いてないと考えるんです。最初に申しあげた、自己責任の問題です。
経営者プロフィール
氏名 | 島村 元紹 |
---|---|
役職 | 創業者・元代表取締役会長 |
会社概要
社名 | 島村楽器株式会社 |
---|---|
本社所在地 | 東京都江戸川区平井6-37-3 |
設立 | 1962 |
業種分類 | 小売業 |
代表者名 |
島村 元紹
|
従業員数 | 2,378名(2024年2月) |
WEBサイト | https://www.shimamura.co.jp/ |
事業概要 | 1.国内外各種楽器・音楽書籍・音楽雑貨の販売 2.各種音楽教室、ミュージックサロンの運営 3.練習スタジオの運営 4.音楽関連イベントの企画・製作、運営 5.商品開発 6.技術サービス 7.音響工事の設計、施工 8.各種楽器、及び付属品のレンタル・リース 9.音楽教育システムの開発及び運営指導 |