
インタビュー内容
ナレーション
国内シェアトップの製品を有し、世界のインフラを支える100年企業「株式会社戸上電機製作所」。
九州・佐賀県に本社を構え、電力システムの開閉器(スイッチ)や水質浄化設備など、社会インフラを支える多彩な製品を世に送り出す。また、2024年7月には、本社屋である「戸上電機製作所本館」が、国の登録有形文化財に登録され、歴史的な建造物としても評価されている。
今後は、次の100年を見据えて、アメリカを中心に海外展開を強化していく方針だという。
経営者が語る、グローバルで躍動する組織のあり方とは。
【ナレーター】
自社の強みについて、戸上は次のように語る。
【戸上】
弊社の強みは、内製化率が高いことです。昔は内製化率が高いと、価格競争力がありませんでした。「団塊の世代」が現役だった時代は、彼らが下請けを支えていて、人件費がとても安価だったからです。
ところが、「団塊の世代」の人たちが抜けて、今の日本は生まれてくる人が70万人ぐらいで、労働人口が減少しますから、そうなってくると中で作れる会社の方が強くなります。中で作ろうとする会社は、生産性を上げるための工夫をしますから。
現在、溶接工は全国的に非常に不足していますが、戸上電機グループの戸上メタリックスには、溶接工だけで80名ほどいます。これほどの職人を確保できている理由は、工業高校に溶接を教えに行っているからです。そこで興味を持って、溶接の仕事に就く方もいます。
溶接現場は昔、屋外の気温が32〜33度でも、屋内は40度になるような、厳しい環境だったんです。ところが、今は大きな室外機を置いて、空調ダクトを引いているので、湿度も温度も下げられるようになりました。以前に比べると、はるかに快適になっています。仕事の環境は、いろいろ気を遣わなきゃいけません。
溶接現場が快適な職場になると、人がちゃんと入ってくれます。最近は、女子トイレもきれいにしました。やはり油で汚れるような作業ですから、そういうことも重要だと思っています。
今は社員からのクレームが本当に減りました。ものづくりは経験の積み重ねで、いろいろなミスの積み重ねがあってこそ良いものができるのです。
ただ、そのミスを会社がしっかり把握できていないといけません。そうしないと、会社としては問題がありますよね。ミスを放置していたらダメだし、そのミスをオープンにしなきゃダメだし、みんなで共有してなきゃダメ。そうしていれば、ミスも起こらないと思います。
【ナレーター】
戸上は、大手情報機器メーカーからキャリアをスタートし、29歳で戸上電機製作所へ入社。その後、順調にキャリアを重ね、1993年4月に代表取締役社長に就任した。現在の戸上電機製作所の特長のひとつである「自分たちでつくれないか」という文化は、この頃から根づき始めたという。
【戸上】
たとえば、生産管理システムなど、大手のソフト会社に頼んでいたものを、「自社で開発できる」と内製化しました。社員も社内で作る気満々で、それを抑えるのが難しいほどなので、会社としては非常に喜ばしいことです。
ただし、内製化するときに、費用を抑えようとしたらダメなんですよね。しっかり投資をして成功に結びつける必要がある。やはり成功体験は非常に大きい糧になりますから。会社も一皮むけると思います。
大阪・関西万博では、九州大学が考えた、二酸化炭素からエチレンやメタン、メタノールなどの有用なガスを発生させるシステムに使う機材の製造のお手伝いをさせていただきました。それも弊社の変化の一つです。
何をどうつくるかじゃなく、つくれるものをつくっている。そうすると、今までつくったこともないような製品もつくれてしまうかもしれない。そこが弊社のいいところだと、社員みんなが思っています。
大切なのは、とにかく背中を押して、足を引っ張らないこと。そうすると、いつの間にか、後ろを振り向いていた人が、振り向かずに勢いよく歩いていくようになりますから。そうすると、その人はもう変わっているのです。
【ナレーター】
「魅力的な会社をつくる」ことを使命に掲げている戸上。その実現に向け、取り組んでいることとは。
【戸上】
数年前になりますが、アメリカで起きた山火事は、送電線が原因でした。そのため、今は長い送電線を区間ごとに切り離すスイッチがたくさん付けられています。弊社は後発メーカーですが、そこに参入しています。
魅力的な会社を作るのが私の使命だと思っているので、駅伝を開催するなど、例えば、陸上競技部が駅伝に出場するのも社員に良い刺激や一体感をもたらしてくれますし、そういった活気につながるような面白いものはとりあえず何でも取り入れています。
たとえば、本社屋である「戸上電機製作所本館」が2024年に、有形文化財に指定されたのですが、指定されると分かった時点で、「ここでプロジェクションマッピングをしよう」と決めました。
最初にプロジェクターを買って、その分野に強い女性がいたので、あとは彼女の背中を押すだけでした。そうすると、きちんとしたものができました。最初の映像を公開したとき、彼女は少しドキドキしていましたが、今は自信満々ですから。自信がつけば、人はこんなにも変わるんだなと感じました。完全に一皮むけていますよね。これで、会社も一皮むけたわけです。
また、「技能オリンピック」にも毎年チャレンジしています。技能オリンピックではフライス盤加工(回転する刃物で螺旋状の溝を掘る加工)の種目に挑戦しています。一般的にはNC(数値制御)でプログラミングすればできるものなのですが、実際に計測しながら人の手でつくります。これは、ものづくりに大いに役に立っているなと感じています。
【ナレーター】
2025年3月に創業100周年を迎え、つくられたスローガンが「さぁ 挑もう つくろう かえていこう」だ。その作成経緯について、戸上は次のように語る。
【戸上】
実をいうと、このスローガンは若手社員がつくったんです。堅くないし、分かりやすいし、弊社っぽい。「背中を押すだけ」にぴったり当てはまる言葉だと思っています。
苦しいときって、何をやっていいか分からない。しかし、弊社は絶えずやることが目の前にある。これは素晴らしいことだと思います。最終的には次代の若手社員がいろいろ考えるはずです。そのための下地はつくっているつもりです。
「さぁ 挑もう つくろう かえていこう」。これを若者がつくったところに意義があるということを、ぜひお伝えしたいと思います。
【ナレーター】
今後は、アメリカへの製品供給を強化していく方針だと語る戸上。思い描く展望とは。
【戸上】
リクローザという、配電線の遮断機をアメリカへ拡販しているところです。これが売れたら楽しい。佐賀からアメリカへ出張するのは、オシャレですよね。
日本製は品質に関しても、何に関しても真面目ですから、そういう点でも評価されるんじゃないかと思っています。
今まではアジアに向けて、ずっとものを納めてきたのですが、難しい面もあるんです。その理由は、はじめのうちは、アジア諸国は海外製品を使うのですが、インフラに絡むものは、できれば自国生産をしたくなるからです。そういう流れがあるので、どちらかというと、アメリカの方が拡販しやすいのかもしれません。
【ナレーター】
求める人材像について、戸上は次のように語る。
【戸上】
私は、単純に会社を好きになってくれる社員が一番いいと思います。大体の人は好きになってくれますが、中にはどうしても斜に構える人もいますよね。でも、できれば好きになってほしい。
今いる社員は好きになってくれているんじゃないですかね。あまり辞めてないというのは、そういうことだと思います。
■大事にしている言葉
大事にしているのは、「背中は押すためにある」です。誰の言葉でもない、私が言っているだけの言葉です。「精神一到何事か成らざらん」という言葉も近い意味を持つかもしれません。とにかく「背中を押してりゃ何とかなる」。そうすれば、やる気を出した社員が、会社を引っ張っていってくれるはずです。

経営者プロフィール

氏名 | 戸上 信一 |
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役職 | 代表取締役社長 社長執行役員 |
生年月日 | 1956年4月10日 |
出身地 | 東京都 |
座右の銘 | 精神一到何事か成らざらん |
尊敬する人物 | 戸上信文(株式会社戸上電機製作所 創業者) |
会社概要
社名 | 株式会社戸上電機製作所 |
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本社所在地 | 佐賀県佐賀市大財北町1番1号 |
設立 | 1925 |
業種分類 | 電気機器 |
代表者名 |
戸上 信一
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従業員数 | 1,083名(連結) 441名(単体)(2024年3月末現在) |
WEBサイト | https://www.togami-elec.co.jp/ |
事業概要 | 電気機械器具製造業 |