【ナレーター】
長野県発の老舗食品メーカー「株式会社みすずコーポレーション」。
国内シェアトップクラスを誇る「味付けいなりあげ」をはじめとした大豆加工食品の開発、製造を手掛ける。
環境配慮に重きを置き、排水処理の際に生じるメタンガスは発電に、豆腐製造の副産物であるおからは加工食品や飼料として再利用している。
資源を余すことなく使うことで二次的な利益を創出することに加え、これまで培った加工技術を活用し、既存の食材に代わる新たな食材の製造と普及にも注力している。
ニッチ領域のトップランナーとして走り続ける企業を牽引する経営者の波乱万丈の軌跡と、思い描く未来像とは。
【ナレーター】
自社の強みについて塚田は次のように語る。
【塚田】
スーパーニッチだけど、そこのトップであるということ。これが一番強い。それから、機械をつくったり、ノウハウを持っていたりすることですね。そのバランスがよくとれていて、新しいものに挑戦するだけの余力を持っているところは強みですね。
【ナレーター】
塚田は大学卒業後、大手冷凍食品メーカーに就職。6年半の勤務を経て、みすずコーポレーションの前身である、みすゞ豆腐に入社した。塚田は、入社早々にある危機感を覚えたと振り返る。
【塚田】
加ト吉に勤めていた時は、お客様からの電話が1分間に5件ぐらいかかってきちゃうほどの忙しさでした。メモを取っておいて、すべて処理してから出かけていたものです。
でも、みすゞ豆腐では、朝から電話が鳴ることは少なかった。商談も月に1回あればいい方。先方のところに行かなくても事足りるんですよ。でも、市場が小さくなっていっているのは目に見えてわかってしまう。その焦りがものすごくあったんです。何かやらないと「会社はなくなっちゃう」と。
やはり昔は、農産乾物の「みすず」ブランドということで問屋さんにも知られていますし、そこそこの取り扱いはしてくれる。でも、このままでいくと相手にされなくなってしまうのでは、という危機感がありました。
【ナレーター】
このままでは会社が倒産する。そう思った塚田が可能性を見出したのが、市販用で国内市場を席巻する一方で、業務用の取扱量が少なかった味付けいなりあげだった。
しかし、業務用の味付けいなりあげは、すでに上場メーカーが市場で幅を利かせていた。どのように市場へ参入し、シェアを伸ばしていったのか。その裏側に迫った。
【塚田】
原料が一緒で製造工程もあまり変わらない。それなのに、なぜうちは業務用に参画できないんだという疑問があったんですよね。大きな方の市場に行かないと(会社が)持たないと思っていましたから。
お手本とする会社にどういう歴史があるのかということに興味があり、その会社がつくる商品とうちの商品はどう違うのかを比べてみたんです。
他社ではいなりをロボットが握りますが、ロボットにかけると10%ぐらいロスが出るんですね。それに対してコンペチターの商品はロスが2%を超えないにもかかわらず、しっかりしたいいものができている。
それならば、うちでも簡単につくれるだろうと思っていたんですが、やってみてもなかなかできない。機械は自分で考えて改良しなければいけないので、試行錯誤の日々です。商品を顧客に持って行っては断られという時期が8年間ぐらい続きました。
ようやく目指す商品ができるようになったので、1996年に新しく業務用専用の工場をつくるんですけど、これが最初に大失敗して。あるコンビニから全部返品されたこともありました。
ただ、その1年の間に自社にもムチを入れて、人を招いてアドバイスをもらい、いろいろなことを試したんです。10年ほどで「みすずの商品もいけるね」と、なっていって。評判も良く、ようやくモノになって、今は業務用の世界でもトップシェアになってきました。
【ナレーター】
社長就任時に、塚田はある目標を立て、社員たちに伝えたという。
【塚田】
「とにかく上場できるぐらいの会社にしようよ」と。そうすると「景色が変わる」。それを社員に伝えたんですね。簡単なワードでいうと、「油あげでとにかく日本一になろう」と。
ニッチでトップにならないと生き残れない。「自分たちが思っているよりもずっとずっと早いスピードで、市場はシュリンクしていっちゃうよ」と話したんです。
外に出る。輸出をしていく。新しい商品を考える。自分のところにないものは他の人と一緒にやっていかなければなりませんから、協業も視野に入れる。
同じ形でずっと会社が残ることはあり得ないですし、一生同じ会社で働く人も割合も、近年は4%といわれています。ということは、96%が離職・転職するわけですから、入社式の挨拶も「この会社で生涯一緒にやっていきましょう」ではなく「この会社でスキルを学んでください」と話します。
その代わりに「スキルが高くなるということは自分の実力も上がるということ。それは会社に返してくださいね」と伝えていかないと。これからはそういう時代だなと思っています。
【ナレーター】
味付けいなりあげは会社の業績を大きく伸ばし、主力商品として確立された。その後も順調に成長を続けるみすずコーポレーション。多くの挑戦を乗り越えた塚田が成功させるために意識していることとは。
【塚田】
他社にないところは、「何なんだろう」と突き詰めていくこと。ほんのわずかでもいい。細かいことの積み重ねが大きな変化、大きな差につながるものです。
例えば袋を開けるときの「ノッチの位置が嫌だ」というお客様が、わざわざ違うところに行って購入する。そういうことはよくある話だと思うんですよね。なので、そうした細かいことを突き詰めて、積み重ねていく。
戦う以上は勝たなきゃいけないので、どうやったら勝てるかは常に考えていかないと。営業であろうが生産であろうが、細かなことを相手以上に努力をして、諦めないでやる。
「できない」っていうのは簡単なんですけど、そこをブレイクスルーしていかないと前には進みません。
それはこれからも社員のみんなに伝えていきたいことですね。
【ナレーター】
昨今、注目を集める、大豆を原料とする疑似肉に代表される「代替食品」への塚田の見解と、見据えている展望とは。
【塚田】
本当に売れる商品で「おいしい」といってもらえるものをつくっていきたい。大きな市場を狙わなくても、世の中にないものはたくさんあります。
例えば、海苔。最近、海苔は採れなくなってきています。コンビニさんでも海苔を使わないおにぎりなどがたくさん出てきている中で、海苔屋さんだって海苔が採れなくて困っているわけですから、その代わりになるシートみたいなものをつくるとか。そんなふうに代替できて、しかも体に良い商品は考えていきたいなと思います。
【ナレーター】
長野県に本社を置く自社の人材採用について塚田は、近年の傾向を踏まえて、次のように語る。
【塚田】
新人が生涯ひとつの会社に勤め続けるためには、マッチングを細かくしないと難しいと思っています。なので、中途採用でIターンをしたい人。こういう人を探していますね。
ここ(長野)にいられる事情があれば、うちは働きやすい会社だと思います。「中小企業だけど、小さくて強い会社だから面白いね」と説明ができれば、若干名でも来ていただけるのではないかと考えています。
-大事にしている言葉-
【塚田】
「価値とは変化に対応することである」。
これは、社員のみんなにもずっといっている言葉です。時代が変われば、その商品に拘泥することなく変えていかないと。会社の形もすべて変えていかないといけないので、それは常に考えていることですね。
商売は、相手がいるもの。だからこそ、お客様に本当に喜んでもらえる商品を提供し続ける。食べ物の場合は「おいしい」といってくれる商品しか残れません。
できない理由はいくつでも並べられますけど、できない理由はいらない。とにかくやらないと。そこを突破していかないと1位にはなれないですし、1位にならないと生きていけない。これからは特に、そういう時代になると思います。
経営者プロフィール
氏名 | 塚田 裕一 |
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役職 | 代表取締役社長 |
生年月日 | 1958年8月27日 |
出身地 | 長野県 |
座右の銘 | 不易流行 |
愛読書 | 『こうして会社を強くする』稲盛和夫/PHP |
尊敬する人物 | 稲盛和夫氏 |
会社概要
社名 | 株式会社みすずコーポレーション |
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本社所在地 | 長野県長野市若里1606 |
設立 | 1949 |
業種分類 | 食料品 |
代表者名 |
塚田 裕一
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従業員数 | 849名 |
WEBサイト | https://www.misuzu-co.co.jp/ |
事業概要 | 凍り豆腐、油揚げ、味付け油揚げのレトルト食品・チルド食品、シート食品他の製造と販売 |