【ナレーター】
人の手でつくることが、おいしさを追求することにつながるという想いのもと取り組んでいるのが『クラフト獺祭』という育成制度だ。その真意に迫った。
【桜井】
『クラフト獺祭』は、若手のスタッフが洗米から蒸し米、麹、発酵の仕込み、瓶詰めのタイミング、そういったすべてにいたる行程を自分たちでやっていくという試みです。
これによって、自分たちがやっている作業が前後とどうつながっていくのか。どうやって酒づくりが進行し、メカニズムが動いていくのか。
それがどのようにお客様に対して価値を生み出すのか。それらをわかってもらうためのものなんです。
酒づくりの楽しさや、自分たちがやっていることの意味を知ってもらうためのひとつの取り組みなのですが、製造現場でいろいろと試行錯誤してもらうことで、少しでも面白さを感じ、よりレベルアップする素養をつくっていく。
それが私の考える人材育成ですね。
【ナレーター】
おいしいものは文化や国境、言語を超えて人を幸せにする力があると語る桜井。現代における酒造メーカーの在り方とは。
【桜井】
100年前、200年前は、まだ物流の整備が不十分で、おいしい酒を飲んでもらうということができなかった。でも今ならできます。
では、その中で私たちがやっていくのは、世界中の人たちに良いものを届けていくことだと考えています。おいしいものを届けて、幸せにしていくことだと思います。
しかしそうなると、ワインやシャンパン、ウイスキーなど、世界中の酒と勝負していくことになります。
そのときに、より私たちの強みを、味として進化させていく。もしくはもっと深く突き詰めていくことが必要になってくると思っていますので、それをやっていくのが今、酒蔵に必要なことではないかと思います。
【ナレーター】
日本酒の、新たな価値観を世界に伝える。その推進のために桜井が描く展望とは。
【桜井】
良いものをより安くという、日本的な価値観はもう崩壊しつつあります。
そんな中で私たちができるのは、“より良いものの突き詰め”であり、国内も海外も分け隔てなくきちんと伝えていくことです。
そのときに、かけた手間や日本的な価値観というのも、同時に伝えていくことが大事だと思っています。
たとえばワインは、私たち日本酒より何百年も前から世界中にアプローチをして、文化を広げようとしてきた歴史があります。
しかしながら私たちが、ヨーロッパ的なブランドとして売っていても仕方がない。それより、『獺祭』として日本の価値をきちんと伝える。
蔵人の手間も、ひとつひとつ意味に基づいてやっていますし、それは日本的な文化背景とか地理風土から生まれた部分でもありますので、きちんと伝えていく。そこが大事だと思っています。
【ナレーター】
求める人材像について、桜井は次のように語る。
【桜井】
どこまで行ってもものづくりや、その先のお酒が好きということが大事だと思っています。ですから、よくあるマーケターや、営業というのを強化していこうとは思っていません。
それよりも、現場でおいしい酒をつくることのほうが大事。
酒づくりは、楽しいと思う人は楽しいんです。酒づくりを楽しんでいける人、それを支えていけるメンバーというのが、やはり大事だと思っています。
ー大事にしている価値観ー
【桜井】
おいしいものや良いものは、いろいろな国、文化、言葉を超える、人を幸せにする力があると思います。
アメリカでも中国でもヨーロッパでも、言葉はわからなくてもうまい酒を飲んでいるときは表情が明るくなるのを見てきました。それがあるから、味の力やお客様を信じていますし、幸せにするために一生懸命やっていかなければならない。
そこができないのであれば、企業として成長していけないと思っています。これが、当社のモチベーションになっていますね。