【ナレーター】
100年以上にわたり、人々のワークスタイル、ライフスタイルを支えるビジネスを展開してきた「コクヨ株式会社」。
同社の代名詞である「キャンパスノート」シリーズや、アクセサリーのように文具のコーディネートを楽しむ「KOKUYO ME」シリーズなど、さまざまなベストセラー商品を生み出している。
文具の企画・開発を行うステーショナリー事業のほか、心地よく働くためのオフィス空間を創るファニチャー事業など、その領域は多岐にわたる。
2030年に向けて新たな長期ビジョンを掲げ、文具・オフィス家具メーカーから「WORK & LIFE STYLE Company」への変革を目指し、その歩みを着実に進めている。
「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」をパーパスに掲げる同社の、5代目社長が思い描く成長戦略に迫る。
【ナレーター】
自社の強みについて、他社にはない顧客へのアプローチ法だと黒田は言い切る。
【黒田】
文具から勉強の仕方に影響を与える。単なるオフィス家具ではなく、オフィス空間から働き方まで当社が提案する価値を広げていける。自分たちがもともと持っている顧客ニーズの捉え方が非常に幅広いため、深い課題にもチャレンジできるところが、他社さんとの一番の違いかなと思っています。裏返せばそれが当社の強みです。
「ライブオフィス」という、当社のオフィスをショールームにして、自分たちの働き方をお客様にご覧いただく取り組みも、1985年からずっと続けています。
当社はオフィス家具だけを売っているのではなく、家具の使い方や働き方をお客様に提案することを掲げて、ライブオフィスに取り組んでいます。これこそコクヨらしさ。顧客ニーズの捉え方がユニークであることが、一番の特徴だと思います。
【ナレーター】
黒田は、大学卒業後の2001年に、父親が社長を務めるコクヨの門を叩いた。父には他社に就職してから入社することを勧められる中、この決断にいたった理由について、次のように振り返る。
【黒田】
当時、コクヨの現場を見聞きして「もしかして、これはうまくいってないのではないか」と感じました。おそらく、私がコクヨに入って、自分の父や祖父、伯父の役に立てることは、悪くなっている課題を解決して貢献すること。それが自分の役割だと思いました。
それで、「今すぐに、コクヨに入った方がいい」と。他社で修行して戻ってきたときに、会社が手のつけられない事態になっていたら、きっと後悔すると思い決断しました。
【ナレーター】
その後、社内改革を推進しながらキャリアを積み、2015年に代表取締役社長に就任。創業120年を目前にした2021年に長期ビジョンCCC2030を策定した。「Change、Challenge、Create」という3つのCを掲げた背景について、次のように語る。
【黒田】
「世界一の文房具メーカーになる」、「世界一のオフィス家具メーカーになる」ことを志しても、市場がどんどん成熟してくると価格競争が起こる。そこで、付加価値の高い商品サービスで、会社全体が成長していくことを考えました。事業の規模を追求するのではなく、付加価値の高い事業の数を追求していく。
これからの10年間は「もう一度、原点」に戻り、コクヨが120年間で成長してきたように、顧客ニーズに対してチャレンジしていくことによって、商品が広がり、サービスが広がり、結果として事業も増えていく。そういう事業の集合体になっていくことが、コクヨにとって今後チャレンジすべきテーマではないかと思っています。
文具であれば、他の国にもチャレンジできるのではないか。オフィス家具に関しても、オフィスそのものをつくり、オフィスをトータルで提案するサービスに事業を広げていけるのではないか。そのように、今、私たちがお客様のニーズに対して取り組んでいることを、長い時間軸で見通すことによって、新しい事業が増えていく。
お客様にとって価値が高く、世の中にあまりないユニークな事業をたくさん増やしていこうと考え、今回、長期ビジョンを策定し、取り組みを進めています。
【ナレーター】
長期ビジョンを実現するために、現在注力しているのが「森林経営モデル」への変革だ。
【黒田】
顕在化されたニーズは、既に誰かが解決していて、どこかの企業が商品やサービスを実現しています。そこに参入しても、やはり同質化してしまう。もしくは、そこで無理やり売り上げを増やしても、価格競争となってしまいます。
それよりも、当社は「ワークスタイルとライフスタイル」、これに目を向けていく。今、世の中がとても大きく変わっています。世の中の変化を捉えたときに、これから起こる新しいニーズ。今の時点ではまだ未充足なニーズ。それをいかに会社の中で協力して捉え、商品化したり、サービス化したりできるか。
これを大きく捉えていくことで新しい事業としてチャレンジできる。そのため、コクヨという一本杉のメーカーではなく、多様な事業の総合体として「森林経営モデル」へシフトしよう。そう考え、全社で取り組みを進めています。