【ナレーター】
2000年、ITバブルにより多くのIT企業が誕生する中、ヘルスケアベンチャーとして産声を上げた「株式会社メディロム」。
顧客の健康管理を目的としたリラクゼーションスタジオ『Re.Ra.Ku(リラク)』、健康の根本解決を目指す複合型ランニングステーション『Re.Ra.Ku PRO(リラク プロ)』など、首都圏を中心に全国に300店舗以上展開。
近年では、ITを用いた遠隔トレーニングによる特定保健指導の実施や、充電不要で稼働する活動量計『MOTHER Bracelet(マザーブレスレット)』の開発など、ヘルスケアメソッド、商品、サービスにおける最適な組み合わせを、ユーザーのライフスタイルに合わせて提供すべく、進化を続けている。
予防から医療まで一貫して展開するヘルスケア総合商社を目指す創業者の軌跡と、描いている展望に迫る。
【ナレーター】
都内No.1(※)の店舗数を誇る『Re.Ra.Ku』だが、メディロムの最大の強みは別にあると江口は語る。
※2022年6月末時点
【江口】
お客様が来店した際に施術して、満足して帰ってもらうというのが一般的な考え方だと思うんですけれども、我々はさらにその先、お客様がご自宅でお過ごしになる時間も含めてコミットしていく。そういったビジネスモデルを組み立てています。
また、ユーザーとパーソナルトレーナーのマッチングアプリ『Lav®』も開発しました。
単なる一時しのぎの癒やしでなく、お客様の生活まで健康管理を行き渡らせるようなサービスを提供しているのが強みです。
【ナレーター】
江口のキャリアのスタートは新卒で入社したベンチャー企業だ。
26歳で役員に就任するなど順調にキャリアを重ねるが、さらなる成長を求め、起業の道を選ぶ。どの領域のビジネスを行うか模索する中で、江口が着目したのがヘルスケア分野だった。その真意とは。
【江口】
世界企業になれる条件は、わずかしかありません。通信インフラや金融、マテリアル、それと生命科学ですね。
生命科学分野でのナンバーワンの企業は、実は存在していなくて、予防から治療までが分断されているんですよね。
製薬会社ならファイザーが、保険会社ならアクサが、病院はチェーンもありますが、それらはつながっていないですよね。各々が独立して存在しているだけです。
いわゆる医療産業複合体、コングロマリットになっていないので、この領域は非常にチャンスだなと思いました。
ヘルスケア分野で、これからテクノロジーの変化に対応していければ、必ず社会や経済の基盤となるような施設やサービスを手がけることができると思ったので、ヘルスケア分野を選んだんですよね。
【ナレーター】
世界に通用する企業を目指し、現メディロムの前身となる株式会社リラクを、2000年に設立。「リラクゼーションサロン」を主力事業に据えたキーワードとして江口が挙げたのが「データ」だ。
【江口】
治療院に行くと、毎回自分がデータを提供していることに気づいたんです。
名前、住所、電話番号、年齢、喫煙の有無、アレルギーの有無、飲酒量、既往歴など、結構丁寧に答えている自分がいましてね。これらの情報には非常に価値があるなと。
これらのセンシティブな情報を、インターネットで集めるとなると、1件獲得単価は1万円はくだらないのではないかと思います。
それを無造作に治療院のスタッフは集めていて、紙(カルテ)で保管・管理されているだけなんですよ。
統計的にデータを取れば、たとえば今、アレルギーはどういったものが流行っているのか、世界の動きや、傾向分析、年代がわかればビッグデータになり、可能性が見えてくるはずなんですよね。
ヘルスケア分野で店舗をつくればつくるほどお客様が集まってくる。ホームページのページビューが伸びていって、来たお客様が悩みを言っていくわけですよね。
それによりパーソナルデータが蓄積され、ユニークユーザーが特定できる。そうすると、この方たちに対して新しい価値を提供することができると気がついたんです。
【ナレーター】
そして2003年、1店舗目のリラクゼーションスタジオを渋谷に出店。
当時「1年間で4店舗をつくる」という目標を掲げたが、それを告げられた従業員の反応が、後の江口の運命を大きく変える転機となる。
【江口】
正直、ほとんどの人にはその意味がわかってもらえなかったんです。
「普通、1店舗つくって回収が終わるまで3~4年。その後、7年ほどしっかり腰を据えて経営して、、そこからようやく2店舗目をつくっていく。これが普通なのに、1年間で4店舗つくれるわけないでしょう」と。
次の日から一人、また一人と「あなたの下にいると、給料を支払われなくなる恐れがあるので辞めます」と言われまして。
「夢があればみんな同じベクトルを持って走っていける。自分が思う世界観を伝えていくことは大事だな」と思っていたのですが、ちょっと飛躍しすぎたなと反省しましたね。
【ナレーター】
辛酸を嘗めた経験から「愛と思いやりに溢れた社会の実現」という理念を定め、人材育成と店舗運営に邁進した江口は、当初掲げた1年で4店舗をつくるという目標を見事達成する。
その後も順調に店舗を増やしていくが、2020年、コロナ禍による影響で、減収・減益・赤字と一転して窮地に陥る。その中で、江口が取った選択とは。
【江口】
銀行も貸してくれない。売り上げはゼロになる。「自分が夢を諦めて社員を救うしか道がない」と選択肢が狭まってしまったんですよね。
それを役員会で話したところ「上場するしかない」と。「上場によって資金を集めない限り、我々は生き残っていけない」と、背水の陣で上場することになりました。
「ただし、上場を目指す過程で資金が尽きる可能性もあるから、大変危険な賭けなんですけれど、同意してくれますか?」と言ったら、役員全員同意してくれて。
「やれるところまでやろう」ということで、2020年4月の役員会で上場を決定。その8か月後の12月29日にNASDAQ(ナスダック)に上場し、14億円調達できたので、今も会社が継続できています。