株式会社船橋屋 200年超“くず餅”一筋の老舗企業を変革した八代目当主 株式会社船橋屋 元代表取締役社長 渡辺 雅司  (2012年11月取材)

Vol.2 価値観

インタビュー内容

価値観

【渡辺】

僕自身は経営者として赤字を出していたら失格だと思うんですね。だから納税するのが義務ですよ、経営者は。そして納税できない経営者、または納税しない経営者、これ二つとも僕に言わせれば失格ですよね。なぜかというと、我々というのは商道の世界にいると、昔から「三方よし」と言われてるんですが、石田梅岩さんがずっと言ってきた商人の基本なんですが「売り手よし、買い手よし、世間よし」。この三つを満たさない限り、商売してはならないと。社員の給料を上げなければならない。お客さまにいいサービスを出すために、いい設備投資をしなくてはいけない。そして、社会を幸せにしていくために、納税をしていかなくてはいけない。一番大切にしているのは、先に義があって、後に利がある。先義後利と我々は言っているのですが。その考え方をなしにして、経営者をやっては駄目だと。だから、売り上げ、利益というのは結果なんです。

【渡辺】

私が入った時というのは、職人は、職人の世界で4時になると酒を飲んでいるような組織だったんです。それを今みたいなマネジメントのプロセスをしっかり管理できるような職人軍団に変えていったわけですから、当然抵抗もあるわけです。辞めていく人もたくさんいます。でも、『ビジョナリー・カンパニー』に書いてある通り、誰をバスに乗せるかというのが、組織というのは重要なんです。その基準は同じ志を持つ人ですね。我々の理念、ビジョンに賛同して、一緒に素晴らしい、楽しい会社を作っていきたいという人たちだけでバスに乗りたい。

【渡辺】

だからだいたい一度は退職願を持ってくるんです。もう耐えられません、こんなつらいの。すると僕は、よくやったねと褒めてあげるんです。退職願を出したいほど、自分を責め込んだんでしょ。すごいじゃん、さすがだねと。例えばどういうことで悩んでいるのと、そこでコーチングをしていくのですが、ほとんどの子は辞めないですね。今みんな残ってくれています。そういう子たちがどんどん成長していって、あそこで辞めなくて良かったと、みんな言ってくれます。その人の人生を考えたら、徹底的に挑戦させてあげるのが、経営者ではないかと僕は思います。

【渡辺】

いかにも、見ると、60歳、70歳のおじいちゃんが一生懸命蒸し器で作っているようなイメージがあると思います。確かにそこを狙っていて、我々はくず餅を売りながら、実はくず餅を売っているのではなく、その周りのくず餅のストーリーをお売りしているんです。おばあちゃんが孫の手を引っぱってきて、いつも本店の前で言うんですよ。私がお前ぐらいの時に、おばあちゃんに連れてきてもらったんだよって。藤の時に必ずここに寄って、このくず餅は450日発酵させてるんだけど、二日しかもたないんだって。人間のはかなさと一緒だよねと言ってるわけです。そういうストーリーを売るんですよ。ではストーリーテラーを育てるためにはどうしたらいいんですか。社長の言いなりになってる人間がそんなことを語れますか。そういう人と話せますか。本当に会社が好き、この商品が好き、この職業が好き、そして自分が好きではなかったら、そんな語り部になれないですよね。

【渡辺】

200年前から大切にしている家訓というか、社訓が二つあります。一つは「売るより作れ」という、先義後利と一緒なんですが、お客さまは売れ売れということよりも、いいものをひたすら作っていれば、必ず支持してくれるんですよ。いいものを作って、いいサービス、いいホスピタリティをしていくと、必ず評価ができてくるんですね。まず売ることではないんです。まず作ることなんです。これがずっと生きているうちの家訓です。

【渡辺】

もう一つは「浮利を追うな」。浮いた利益を追うな。要は本業に特化しろと。不動産だの株だの、要は自分の求めている会社のミッションと必要のないことにお金を使うなということです。本道を行く、商道を極めるというのが、この二つが200年。うちの社員だったら、知らない人はいません。骨の髄まで、まずこれが入っている。

【渡辺】

その後が経営理念です。これはもう考えて、考えて、非常にシンプルな一文です。「くず餅ひと筋真っ直ぐに」です。我々がなぜ真っ直ぐを貫いているかというと、くず餅の売り上げを2倍、3倍にするのは、すごく簡単なんです。くず餅を真空パック、または保存剤を入れて、全国に出せば簡単に売れる。でもやらないです。なぜか。我々は武士道を大切にしていて、武士道というのは、儚さや潔さなんです。くず餅を450日かけて作って、四季の移ろいを見ながら作って、二日間しかもたないというのは、正に儚さ。我々の真っ直ぐさというのはそこなんです。粋ですよ。粋というのは儚さ、武士道、そういったものの総合なのではないかな。これが理念にある限り、我々は道を間違えない。ここを大切にいきたいなと、すごく思っています。


経営者プロフィール

氏名 渡辺 雅司
役職 元代表取締役社長
生年月日 1964年2月16日
出身地 東京都
出身校 立教大学
座右の銘 深沈重厚経営者として深く考え適格な判断が出来る様、心がけている
愛読書 人は無理数で生きる

会社概要

社名 株式会社船橋屋
本社所在地 東京都江東区亀戸3-2-14
設立 1805
業種分類 食料品・飲料製造業
代表者名 渡辺 雅司
従業員数 300 名
WEBサイト http://www.funabashiya.co.jp/
事業概要 くず餅・あんみつ等の製造販売和スイーツなど創作カフェの経営
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