Vol.2 官から民への転身
インタビュー内容
―官から民への転身―
【齋藤】
大学を出られてずっと警察の中枢を歩いてこられて、2代目のお兄様がちょっと具合悪くなって会長がいらしたわけですが、官から民ということで大きな決断とも思いますけども。一つのある流れかなというふうにも見られますが、そのご決断も大変だっただろうけど実際移ってみると思った以上にいろいろ違いがある同じところがあるとか、その辺はどんな感じでしたか?
【村井】
よく言われることですが、官の場合は全部後ろに親方、日の丸がついていると。民の場合は独立でやらなくてはいけないとよく言われるのですが、私どもの会社はできあがってもうその時は私が会社に移った時は30年を超えていたんです。それまで小さな会社から始まったのが、銀行をはじめとする金融機関さんに育てて頂いたという形で私が入った当時、30数%の売上は金融機関さんからのものだったのです。ある意味ではご一緒に育てて頂いたのだから独立とはいえそんなに心配はなかろうと。
【齋藤】
私ども(銀行)にとっても必要不可欠なものですから。
【村井】
その辺のところは他の会社と違いまして、ここまで金融機関さんのお仕事をさせて頂いたという安心感はありました。他の会社のような悲壮なる決意というのはなかったです。
【齋藤】
警察の方、いろいろいらしてもここだけ大きな会社の社長をやられた方というのはあまりいらっしゃらないのではないですか。戦後の一時期なんかはあったかもしれませんが。
【村井】
警察庁というのは昔は内務省の系統なんです。内務省というのは早くから部下を持たせて仕事をさせるというのがありまして、私も警察庁に入りまして20代で部下が100人ぐらいおりまして、部下のほとんどが私より年上でしかも仕事も経験も豊富な人たちなんです。そういう人たちと仕事をするというずっと(そのような状態に)なっていまして福岡県警の時は1万2千人ぐらいいましたかな、警察官が。
組織の長として、ピラミッドみたいに仕事をするのではなく県警本部長としての仕事、課長としての仕事、部長としての仕事、いわば縦割りみたいなものです。責任を自分の部分をやる。全部のことをやって、自分のところを全部知らなくてはいけないというのは最初からとても無理な話なので、トップとしての縦割り的なものをやるというような習慣がずっとついて回りまして、仕事の内容もだいぶ変わるのはもちろんですが、私の場合は役人生活30年とそのあと1年間、預金保険機構に行っています。31年の間に引越ししたのは21回。
【齋藤】
それは部を移動したというのではなくご自宅自身が。
【村井】
他の県に行ったりしなくてはいけないとそういうことです。そうすると全く新しい所で全く新しい仕事をしたりそれから役所というのはだいたい他官庁へ必ず出向させるのです。私は2回出向して最後は預金保険機構で3回です。全く違う仕事をやらされた。全く違う場所で、同じ警察でもかなり部門が違うんです。それから全く違う役所にも行かされて、それでやっていますので割とすれていると言っては悪いんですが、慣れているというか、いろんなものをぱっといきなり全然違う仕事。
【齋藤】
本質をぱっとつかんで。
【村井】
そんなに器用なものではないですが、それはそれでこんなものだという感じでやっていました。確かに採算の問題や費用対効果というのはちょっとそれは役所とは違いますよね。そういう点はあるけれども、変わっていたという点については割と普通の官僚出身の人よりは溶け込みやすかったのかなという気がします。
【齋藤】
大蔵省なんかも若くして地方の税務署長に出してあれも一つの訓練だったんでしょうね。旧内務省というのは、大蔵省よりも上という位置づけですから。
【村井】
地方ばかりに行く、これがだいたい普通でしたね。本当の仕事のことはそれぞれの方がやられまして、自分は責任を負うけれどトップとしての分はあるけれど、あとはそれぞれの人間がきちんと判断する司司(つかさつかさ)が判断してそれをまとめるという感じですかね。いきなり民間に来まして役人から、一番下の仕事を知っているかといったらそれは無理な話ですからね。
【齋藤】
それがお分かりになってやるというところが非常にいいと思います。それがわけが分からないで自分の能力なり経験はここまでなんだけど、入ったからには全部一から知ってやらなくてはいけないとなると社内が混乱してしまったり。
【村井】
混乱しますよ。本人自身が疲れますからね、それは。ただやっぱりそういう意味で悩んだというか、これは役所の場合は自分が正しければちゃんと法律も作れるし予算もつくのです。筋が通れば。
ところが民間はそうではなく、お客様と折衝するにしても押したり引いたりどの加減で行くのがいいか、これは一番下の営業から上の方で全然違ってきます。そういうものかというのが分かるまで時間は掛かりました。
【齋藤】
公の世界では白か黒かというのは割とはっきりしていますが、民間のところはグレーのところが大きくて、ここのところはどういうふうにするかというのがまさに収益の源泉だったりということで。
【村井】
グレーの中から実はこれはグレーではなく、少し洗えば白くなるということが分かるのはやっぱりそれだけの目利きといいますか、経験を積んだ方はぱっと分かるのです。私は灰色だからどっちにしようかと迷うということは相当多かったです。それは役人から来たという一つのハンデでしょうか。

経営者プロフィール

氏名 | 村井 温 |
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役職 | 元代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) |
生年月日 | 1943年2月12日 |
会社概要
社名 | 綜合警備保障株式会社 |
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本社所在地 | 東京都港区元赤坂1-6-6 |
設立 | 1965 |
業種分類 | サービス業 |
代表者名 |
村井 温
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従業員数 | 39039 名 |
WEBサイト | https://www.alsok.co.jp/ |
事業概要 | 警備サービス業界大手。金融機関向けに強みがあり、現金警備輸送はコンビニエンスストア等へ展開。 |