株式会社バルニバービ 街を変える飲食店！？外食業界の風雲児が語る出店戦略 株式会社バルニバービ 代表取締役 佐藤 裕久　 (2017年6月取材)

―店舗の数だけ人生がある―

【聞き手】

普通飲食業の会社はどこにお店出したいねというのは決まって、それに向けて人を採用するなど出店がまずあって、そこに人が付くという考え方ですが、御社の場合はいる人ありきで出店されていらっしゃると伺いました。人ありきなのですね。

【佐藤】

理想はね。でもそこは、僕ももちろん生まれたときから社長だったわけでもないし、店長だったわけではないし、シェフであったわけではない。だから十分シェフができる、店長ができるという子がいて、やっていくことももちろんあるのですね。この子やれるな、そろそろ行くかみたいなことがあるのですが、その中で誰なら行けるか、そしてブレイクスルーしなくちゃいけない。一番手と二番手というのはまったく違う存在なので。しかもうちの場合は店長やシェフにものすごい権限があるのですよ。チェーン店ではありませんので、彼らがやりたいと思ったことを逆に我々本部サイドがどう実現させるかということ。だからそういう意味でのブレイクスルーする手前の子たちを見出して押していくという作業と、店の物件を開発するという作業がこんな感じ（バランスを取るしぐさ）。どちらかが時々先に崩れて、大変なことになる。いつも余裕しゃくしゃくでやれているわけではないですよね。

【聞き手】

しかしその考え方が必ずあるのは、やはり他の会社にはない部分だと思います。

【佐藤】

よく言うでしょう、今年は何十件出しますとか、何百億やるんですとか、何千億になるんですとか。僕はまったくそのことに興味はない。上場している限り、短期計画、中期計画、長期計画のビジョンを見られます。僕は長期計画は明確なのです。日本の外食の形を変えるということを明確に思っている。ピラミッド型の組織をどんどんぶら下げていくようなことではなくて、明確に一人ひとりやる人間、料理をつくる人間、サービスする人間、あるいは店のマネジメントする人間が、それぞれが自分の持っている能力や資質、経験値を生かして自分らしく力を発揮して。もちろんその力は、好きだけではだめですよね。得意でないと。何か人より抜きんでた調理技術なり、接客業なり経験なり知識なり、当然それは磨いていきながらその力を発揮して、光り輝く人生を彼らが歩んでくれるという外食の在り方があるはずだと僕は思っていて、それが我々の長期ビジョンです。外食産業はそんなに利益が出ないとか人手の問題でリスクがあるとか、色々なことが言われます。その通りです。けれども僕たちはそのリスクの在り方を克服したいと思っているわけではなくて、根本として外食というのをこういう形でやってみませんかという、たぶん日本で唯一のことを提案していると思っているのです。

我々が思って理想に描いていること、それは叶わぬかもしれないけれども、理想かも知れないけれども。少なくとも僕らはたった1件の年間2億弱の店舗から、今は約50倍になっていますが、22年前の同じ思いで店を作っている。それは自分が自慢したいから言っているわけではなくて、それしかできない。でも、人が誇りをもって自分の経験値や技量を発揮できる場所で、人が輝かないわけがないですよね。僕は外食産業が人をマネジメントする産業だとまったく思っていないのですよ。

こんな風にしゃべっているけど、本当の理想は各店舗の店長やシェフが、社長になって、（出てきてほしい）。うちは十数人社長がいますから。ともに歩んでともに自分たちの能力を発揮して胸を張って生きていこうと。そしてこの世界がもしも駄目だとか言われるのはそうじゃないとぼくが言い続けて、言いきってやっていこうと思っています。

【聞き手】

常に何かを研究して、次は何か新しいものをずっと探し求めていると。

【佐藤】

僕は小学校くらいのときにワクワクすることができなかった子どもだった。勉強と家の手伝いと、本を読むことしか基本的にはできなかったから。でもワクワクすることは心の中で（できた）。やっぱり本を読むというのはすごく創造力や夢想ができる。夢想でしか僕は楽しいことができなかったわけですよ。現実にやると父親に怒られるので。その子どものころに夢想していた思いやワクワクしていた思いと、55歳にもなって心の中で夢想したりワクワクすることが一緒なのですよね。