株式会社バルニバービ 街を変える飲食店！？外食業界の風雲児が語る出店戦略 株式会社バルニバービ 代表取締役 佐藤 裕久　 (2017年6月取材)

―大学中退後の躍進と挫折―

【聞き手】

大学時代に辞めて起業しようと思って、商売を始められるわけですね。

【佐藤】

1985年に大学を中退して、正確に言うと1年半くらい社員7人の会社に入れていただいて、そこで社長のカバン持ちのようなポジションで修行させてもらったのです。そして入って3ヵ月くらいである事業を僕が立ち上げて。全員女性の会社だったので、僕はまったく他の社員には相手にされていなかった。

【聞き手】

何のご商売だったのですか？

【佐藤】

ファッションです。ですから、「何やっているの？」と言われるのがつらかった、彼女らがやっている仕事を終業時間までやって、それからあと自分でプランを考えて。学生時代に小さいパーティーから何千人集めるパーティーまでやっていたほど、プランニングイベントが得意中の得意だったので、それをやっていました。その事業がブレイクするのです。入って3ヵ月目にやったイベントが、コンテナ1本分くらいの場所で1日に200万売るほどになって。社長もびっくりしていましたね。

【聞き手】

それまでにその会社ではそういう商売をやるという発想はなかったのですね。

【佐藤】

まったくなかった。極端に言うと1ヵ月に30万くらいしか売っていない残品処理の場所だったのですね。アパレルというのはバーゲンの残り物、それから試着でファンデーションや口紅の汚れがついた返せない不良品やキズ物とか、いろいろ正規の価格では売れない（ものがある）。でもセール期間じゃないというときの残品処理を、初めて入った若造の僕がやるのです。みんなは正規のものがやりたい、きれいなブティックで働きたいと思って嫌がるので。でも僕はそれが面白くて仕方なくて、お前行っておけと言われると、これすごく面白いことができるぞと。

残品処理というのは日本中のブティックにありますから。みんなが困っているよなと。こんな残品処理のできる場所が、しかも街中に持っているところはないぞと。これ集めたら面白いことができるんじゃないかなと。ちょろちょろ出してもいけない、ドカンといかないといけないとわかっていたので、ずっと僕は商品を集めまわっていたのです。ちょうど情報誌が出てきたころで、僕はその雑誌のタイミングに合わせて、集めた商品をドカンと出す日をガレージセールと名付けて出したのです。それから入社して1年半くらいで独立をしたのが24歳のとき。結局その事業は僕が調子に乗っていろいろやって27歳で手放すことになります。その時が1986-7年だから、僕は27歳ですべてを失った。命と家族以外はほぼ失った。何もかも。

【聞き手】

その失敗は、何が一番の原因だったのですか？

【佐藤】

原因というのはすべてですね。すべて調子に乗った自分の浅はかさ。できればその時はしたくなかったはずの経験なのだけど、その経験が今となってはとてもありがたかったわけですし、なくてはならなかったのです。たぶんあの時の経験がなければ、今26年目のバルニバービもこんなに続いてないですよ。言い方をちょっと変えると、得難い経験。当時は思っていなかったけれど、ものすごく役立っている。それがあったから今のバルニバービがあるなと本当にわかる。お金の借り方一つとっても。自分にとってその過去、ずっと貫いて生きてきた過去が、意味あるものだったと（わかる）。

バラ色ではなかった。もちろん。イバラもあっただろうし、ドロドロになったこともあるだろうし、キラキラしていることもあったけど、その過去が愛おしく思えて、歩んできたよねって、頑張ってきたよねって思える過去である。振り返った道をそう思うためには今日を進むしかないのだろうと、今日進む未来でしかないのだろうと思っているのです。よく聞くちょっと上手くいった人の過去談って、なんとなく苦労話であり、なんだかいい話になるのですけど、それは違う見方をしたら絶対いい話じゃなかったはずです。僕も含めて、人を苦しめたり、あるいは迷惑をかけたり、自分は主人公で調子に乗ってしゃべっているけど、僕のせいですごく辛い思いや嫌な思いをされた方、させてしまった人たちがいっぱいいるのですよね。でもそれも全部含めて、今日を生きるしかないのですよね。今日を懸命に生きるしかないということを、この10年とても思うようになりました。