Vol.3 栄光を取り戻せ
―栄光を取り戻せ―
【太田】
映像関連事業は当時1億~2億くらい損失を出す事業でした。しかも業界はシネコンがどんどん出てきてうちの独立系の映画館というのは隅に押しやられている状態だった。営業企画が終わった後、当時の社長に、これまでの経験を生かして3年で期間損益がゼロになるように映像の立て直しをしろというミッションを与えられて、営業事業本部長を3年やりました。
いろいろあって、3年で何とか期間損益を黒転にさせることができました。ようやく黒転になって、これから自分としても落ち着いてできるかなと思ったら、社長から経営企画にまた戻って経営の勉強をしろと言われました。その時に多少、将来会社を背負って立てというニュアンスを感じましたね。
一番思ったのは、損失はずっと続いている事業というのは、従業員のベクトルがバラバラなのです。本来うちはみんな映画が好きで集まってきている人間たちですから、ベクトルを一つの方向に向かせれば、絶対個人のパフォーマンスが上がると確信していました。ですから僕としては、うちの映画事業は作家を大事にしているだろうと。作家との距離を縮め、作家と顧客との関係性を作り、本物にこだわると。金儲けは大事ですが、今来ているお客さんが満足する映画を提供しようと(言いました)。それを徹底した結果、少しずつ従業員のベクトルが一つの方向になっていったので、そういう意味では彼らの力によって、僕は期間損益が黒字転換したと思っています。
お陰様で今そういうのを経て、手前味噌ですが独立系の中でナンバーワンの地位を築けているのは、やはりそのころの従業員たちの頑張りです。社内で作品の連続性、企画の連続性とよく言うのですが、それは今でも彼らの中で、脈々と流れていますね。例えばテアトル新宿というのは邦画の専門館で作家性があります。作品を見に来たら当然予告を見て、また見たいと思いますよね。それが連続性とよく言うのですけど、そういうことを大事にする組織にすれば何とかなると思っていましたから、そこじゃないかなと思います。構造的なものというのは技術でひっくり返せるのですけど、やはりスタッフのパフォーマンスを上げるというのは(そうはいかない)。基本的には彼らの強みと、彼らの心意気を大事にするということかなと思いました。
社長になるにあたっての心構えというのは、社長になってくれと言われたときに考えました。僕は割と熟睡する方なのですが、言われてから寝られない日が続きましたね。私が社長になる当時は、2期連続赤字になるような状況で、銀行からも相当きついプレッシャーがあった状態でした。役員は当然、従業員の報酬もカットしている状況でしたから、そういう中で私は当時専務でしたが、社長や会長のいろいろな話を見ている限り、責任を取って次にバトンを渡す準備をしているのだろうなと、私も馬鹿じゃないですからそばにいたらなんとなくそれはわかりましたね。ですから来期社長をやってくれないかと呼ばれたときは、なんとなく会社がそういう雰囲気でした。
スタッフには私と近い世代がかなり多かった。ちょっと前までは仲間として一緒になってお酒飲んで酔っ払ってカラオケで騒いでとしていた仲間たちが、そして後輩の若い従業員たちが、元気をなくしている。やはり会社の業績が悪いと元気がなくなりますから。それだったら自分が何とかしなきゃと、その時思いました。これは使命感というのでもなく、うまく言えないのですが、やるしかないなと。
もう一つは、やっぱりテアトルが好きで入りましたし、青春時代はテアトルで過ごしたようなものでしたから。当時は60年くらい歴史が続いてきた老舗で、私の親の世代、はたまた祖父祖母の時代がテアトル東京を知っているような歴史があって、多くの人に支えられてきた会社をもう1回、栄光の時代に持っていくというのは、自分の運命でもあるのかなとなんとなく思っていました。
経営者プロフィール
氏名 | 太田 和宏 |
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役職 | 代表取締役社長 |
会社概要
社名 | 東京テアトル株式会社 |
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本社所在地 | 東京都新宿区新宿1-1-8 |
設立 | 1946 |
業種分類 | サービス業 |
代表者名 |
太田 和宏
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従業員数 | 140名 |
WEBサイト | https://www.theatres.co.jp/index.html |
事業概要 | 映像関連事業、飲食関連事業、不動産関連事業、その他事業 |