Vol.3 25歳での社長就任とアメリカ合衆国との裁判
―25歳での社長就任とアメリカ合衆国との裁判―
【聞き手】
さて、そうこうするうちに25歳の時、突然お父様から社長就任のお話がありました。
【山本】
そう、交代しようという話で。 父親はもともと経営者になりたくなかったんです。そこに、長男をまんまと入社させたから、渡りに舟というわけです。なぜ交代するのかと聞いたら、自分が60歳になったからと言うんですね。僕の年齢とかは関係ないということで。
【聞き手】
引退すると決めていらっしゃったんですね?
【山本】
ところが、実際は引退しないで毎日口だけ出すんですよ。本当に引退するのならいいけれど、引退はしないんです。しかも、なにか困ったことがあって意見を聞こうとすると「お前が社長なんだから相談するな」と言うわけです。
【聞き手】
(社長が)お若い時に譲られたというのもありますし、まだまだご自身で気になるところ、心配なところがおありだったのでしょうね、きっと。
でも25歳で社長交代を宣言されて、その時何から手をつけようかと考えられたのですか?
【山本】
代表者になれば、自分の好きにできるようになるかなと、最初は何となくそういう感覚がありました。
ところが、5月に役員改正で社長になったのも束の間、7月に内務省から内容証明が来て、アメリカの商務省から訴えを起こされたというんですね。アンチダンピング法違反ということで、我々がアメリカで不当に安く売っているというわけです。1980年代は、日立さんから東芝さんから大手の三菱さんから、日本の大手企業は全てアンチダンピングに引っかかっていた時代ですから。さらに、我々のような中小企業にもそれが波及してきたわけです。ということで、僕の社長としての第一歩は、アメリカ合衆国との裁判になりました。
【聞き手】
壮大なスタートですね。
【山本】
格好はいいけれど、大変なことでした。
【聞き手】
その当時の商品というのは?
【山本】
ウェットスーツの素材です。それでアメリカ市場の85.7パーセントか、87.53か、本当の数字かどうか分かりませんが、そのくらいのシェア を取って、アメリカ産業に打撃を与えているというのが、向こうの提訴理由でした。
【聞き手】
実際、それに近いシェアがあったとしたら、簡単には引けませんね。その結果どうなったのですか。
【山本】
仮決定というのが9月にありまして。17.5パーセントの二重課税です。普通に4.6パーセントを支払った上に、また17.5パーセント払わないといけない。それで日本の価格と輸出価格を調整するという主張です、向こうは。その仮決定が下ったあと、アメリカ商務省の職員が調査に来ました。それも1週間の日程で。
で、週末になって、金曜日の晩に「土日はどうするのか」と聞いたら、何もないという話で。だったら、うちは家が奈良なので、奈良の大仏を観にいくかと聞いてみました。そういう時、日本の役人なら「絶対にだめです」と拒絶すると思うんですが、向こうはあっけなく「いいの?」と。
【聞き手】
せっかく日本に来たし、日本観光もしていこうというんですね?
【山本】
それはそれ、これはこれ、ということでしょう。こちらも下心があるわけではないので、では翌朝に宿泊先の神戸まで迎えにいくと約束をしました。ところで、うちは父親が、アメリカにたくさんモノを売っているから、アメリカのモノも買わなければいけないという主義だったんです。それで、原料もアメリカ製でしたし、自動車も同じです。リンカーンのタウンカーという長さ5.8メートルくらいある車でした。それに乗って迎えにいくと、連中、感激しましてね。見た瞬間に目が丸くなって、「あなたはアメリカの車に乗ってくれているのか」と。
「アメリカに物を売っているからには、我々も買っている」と答えると、とても喜んでくれて、週末はその車で京都と奈良観光に連れ回しました。その後、調査が終わって帰国する前には、その調査官が「一方的にアメリカに製品を売りつけるのではなく、アメリカのものを買っている企業だということは報告書で強調する。自分たちができる範囲は限られているが、あなたのマイナスにならないよう、最大限協力する」と言ってくれて。
実際、結果的に17.5パーセントの追加関税が3.02パーセントに下がったんですよ。
【聞き手】
すごいですね。
【山本】
だからやはり、アメリカの車も乗らなければいけないなと。
【聞き手】
でもやはり、心意気というか、想いのようなものは、国を越えても同じ人間として伝わるのですね。
【山本】
フェアトレードで買ってももらうけど、向こうの物も買うという、そういう努力は必要でしょうね。ぴったりのバランスにはならないにしても、やれる範囲ということで。
経営者プロフィール
氏名 | 山本 富造 |
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役職 | 代表取締役社長 |
会社概要
社名 | 山本化学工業株式会社 |
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本社所在地 | 大阪府大阪市生野区中川5丁目13-11 |
設立 | 1964 |
業種分類 | その他 |
代表者名 | 山本 富造 |
従業員数 | 73 名 |
WEBサイト | http://www.yamamoto-bio.com/ |
事業概要 | 医療機器商品、特殊複合ゴム素材、ウェットスーツ素材、水着素材、練習用水着、バイオラバーの製造販売 |