Vol.3 徹底した現場主義経営の裏側
―徹底した現場主義経営の裏側―
【聞き手】
最初は施設も全部、ご自身の目で見て回られて、相当な現場のところまで突っ込んでいかれたと伺っています。
【井上】
私の前職、特に最後のほうは色々な仕事をやらされました。例えば、システムの仕事もそうです。あるいは、その前は銀行の事務部門、お客様のサービス部のようなところを見ました。そういうのは、要するに銀行のフロント、つまり支店がどういうふうに動いているのかというところを見ないと分からないわけです。地域性や色々なこともあります。だから、そのためにはやはり支店にできるだけ行って、自分の目で見て、この店の問題はこうだ、だからこういうクレームが来るとか、こういう要因で業績が伸びたというようなところを自分の目で見るしかないのです。
そのところでは、銀行の実業が正にそこ(現場主義)なのです。サービス業というのは、やはりそういう部分があります。ハワイアンズにお越しいただいて、ハワイアンズで楽しんでいただきたいわけですが、お客様に色々な説明をします。お客様も色々な方が来られます。銀行も色々な方がお越しになる。そういうことでいうと、実は、そんなに変わりはないですね。お客様のことをよく分かるためには、やはり現場をよく見ないとだめなのです。ハワイアンズを見るときに、その業務をどうやってやるのかというところを見れば、無駄があるとか、ここは◯◯の余地がある、あるいは働いている人の身長だとか、色々なものが見えると思ったから、これは今でも(現場を)回っています。
【聞き手】
そうなのですね。
【井上】
ええ、回っています。現場が好きですから。私はやはり、様々な問題の解決策も現場にあるように思うので、現場が大事だと思います。私にいわせると、上司が大事なのではなくて、現場に触れている人が一番大事です。つまり、お客様がホテルにお越しになった時は、フロントマンがホテルの代表者なのです。総支配人は形式上というか責任者ですが、実際はその人(フロントマン)の立ち居振る舞いを見て、ここはいいところだ、などと感じるわけでしょう。例えば、旅館などに行っても、中居さんが案内してくれて、その人が親切だとすると、これはいいよなと思うわけです。もちろん、お湯がいいとか施設がいいとかそういうものもあるのですが、ヒューマンタッチのところがどうしてもそういう印象を持ちやすいのです。
何か分からないことがあったら、近くに立っている人にパッと聞きますよね。その人がどう対応したかでお客様の印象が変わることになるので、それは責任者が良い人かどうかなんて関係ないですよね。ですから、やはりお客様と直接会っている人が、お客様が満足していただけるような答えを出せているかどうかを見るためにはまず、その人が満足して働いているのかとか、満足して処遇されているのかとか、十分な研修を受けているのかなどを知る必要があります。
この会社はいい会社だ、好きだと思っている従業員は、間違いなく花の咲くような笑顔で「お客様、これいいですよ」「あそこの風呂に入ってください」「あそこの食事、おいしいですよ」とお客様に言ってくれるはずなのです。それが、そういうことがないと、何となく当たり障りのない答えになってしまって、お客様に響かないということになります。ですから、当社の従業員にも色々なところで食事をし、色々なところに泊まってくれ、と言っています。それで良くないと思ったところは、(当社では)変えていこうよということなのですね。自ら泊まるのが一番分かりますし、簡単ですからね。
【聞き手】
確かにそうですよね。
【井上】
私も随分色々なところに泊まりましたし、食事もしましたし、「ここはこうしたら?」ということは言います。それで、みんなで考えていくということだと思うのです。
【聞き手】
人間は変化をしたいと言いながら、実は、一番変化を恐れる生き物ですよね。そういう現場からの「それはちょっと無理ですよ」などという話はなかったのですか?
【井上】
それは山のようにあります。大事なのは、1つはお客様のためになることをやろうよ、そのために、今だとこうだからという、ある種の説得、話し合いでよく分かってもらうこと。それからもう1つは、そのために知識が要るわけですから、例えばこういう部分をこういった人などに聞いてごらん、ということです。あるところより先は、その範囲の中で、自分で考えてごらん、やってごらんというようなことです。
【聞き手】
とりあえず、全部現場にまずは任せてみて、自分たちで考えさせるということですか?
【井上】
基本的には現場のことは現場の人に考えてもらうのがいいと思います。ただし、今、こういう不都合があって、ここは無駄だよね、などということは指摘してあげて、何か手があるだろうと言います。私はそういうことでいうと、ものすごく現場の人たちを信頼しているのです。現場の人たちのモラルというのは非常にしっかりしています。金融機関なんかだと、店頭にパートさんなどがすごく多いですから、パートさんが実際の主戦力になっているわけです。
当社でもそうで、正社員がいて、契約社員がいて、パートさんがいて、アルバイトがいるという構成なのですが、結構地元などでもパートで働きに来ていただいています。家庭で子どもを育てなければいけないなど、パートのほうがむしろ具合がいいということでお越しいただいている。そういう方々のほうが時間きっちりやらなければいけないので、仕事が早いのです。色々なことがよく分かっておられるということなので、そういう人たちにいっぱい参加してもらわないといけない。そのためには、そういう方々に分かってもらわないといけない。
だから、例えば、上司を呼んでこういうことをやりなさいと言うことは簡単なのですが、そこから先でこちらが思った通りに動くかどうかは分からないから、それはむしろ現場に行って、こちらの思いを言ったほうがよほど早いということです。
経営者プロフィール
氏名 | 井上 直美 |
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役職 | 元代表取締役会長 |
生年月日 | 1950年11月6日 |
会社概要
社名 | 常磐興産株式会社 |
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本社所在地 | 福島県いわき市常磐藤原町蕨平50番地 |
設立 | 1884 |
業種分類 | サービス業 |
代表者名 |
井上 直美
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従業員数 | 593名(2024年3月31日現在) |
WEBサイト | http://www.joban-kosan.com/ |
事業概要 | レジャー施設『スパリゾート・ハワイアンズ』の経営、燃料商事事業、製造関連事業、運輸業 |